長与専斎(1838~1902年)は,内務省衛生局長として,近代日本の医療・衛生行政の礎を築いた。専斎の生まれた幕末からその活躍した明治前期は,日本で既知・未知のさまざまな「伝染病」が流行した未曾有の時代でもあった。代々,天然痘の大規模な予防接種をおこなっていた医家の家系に生まれ,青年期に「衛生」学を含む西洋近代医学の教育を受けた専斎は,時流にのっとり,「伝染病」対策をはじめとする近代的な医療・衛生制度の基盤構築に奔走したのだった。
エールリッヒが開始した「魔法の弾丸」研究プログラムは,志賀潔ならびに秦佐八郎という共同研究者を得て,梅毒の治療薬サルバルサンに結実した。エールリッヒの死後,「魔法の弾丸」理念の継承者たちがサルファ剤や抗生物質を開発し,多くの人命が救われることになったが,志賀や秦を擁する日本で「魔法の弾丸」研究プログラムが花開くことはなかった。
御存知のように野口英世は,当初偉人伝にも登場する著名な人物であったが,時代と共にその破天荒な人間性にも光が当てられるようになり,さらに研究内容にも疑義が向けられ,近年では研究倫理に関する格好の研究対象ともなっている。しかし,そのような評価に対するウイルス学者等からの反論も登場してきており,再考の機運も高まってきている。そこで今回の論考では,野口の再評価を試みることにする。福島の生家・野口英世記念館や旧横浜長浜検疫所・細菌検査室などの探索の成果も併せて紹介したい。
日本の研究者の名前は戦前からノーベル賞の選考過程に現れている。本稿では生理学・医学賞の候補から,北里柴三郎,野口英世,山極勝三郎を取り上げる。北里は初回受賞者ベーリングに比して業績は小さく,野口の業績は正否に疑義もあって有力候補ではなく,最有力候補の山極が一報告者の判断により候補から外れて受賞に至らなかったことは,選考には日本人への偏見が反映されるとの見解を生じさせた。
きれいな水を製造するためには水と不純物とを分離する必要がある。ここでは,水の分離に関わる単位操作として,イオン交換,蒸留,沈降を紹介する。各単位操作において,分離を行うための水と分離対象物質の物理化学的性質と分離原理,具体的な操作・装置について解説する。
膜分離技術の研究開発は海水淡水化に始まり,現在では下排水処理や浄水処理においても膜分離技術が利用されている。本稿では膜分離法について説明した後,実験室でも比較的簡単に実施できる水処理膜の作製法を紹介する。さらに膜を用いた水処理技術とファウリングと呼ばれる課題について説明し,ファウリング防止技術の開発に関する最新の研究を概観する。
地球環境には数百万種といわれる肉眼で観察することができない生物が1030オーダーの細胞数で存在する。我々の社会と同様に,様々な環境で雑多な微生物が相互作用しながら炭素・窒素をはじめとする元素循環に関わっている。このような微生物の潜在能力を最大に引き出すノウハウを集約しているのが水処理技術である。本講座では微生物のライフサイクル(生活環)とエネルギー獲得手段を紹介する。さらに,微生物の機能を利用する水処理技術の基本操作を,活性汚泥法と生物学的窒素除去を例として説明する。