日本化学会誌(化学と工業化学)
Online ISSN : 2185-0925
Print ISSN : 0369-4577
1983 巻, 10 号
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  • 鷺谷 広道, 服部 孝雄, 鍋田 一男, 永井 昌義
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1399-1404
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    微細で均一な乳化粒子をもつO/Wエマルションの新しい乳化法を開発した。この方法は二つのステップからなり立っており,第一ステヅプは水と二価アルコールを含んだ界面活性剤(D)相に油をかきまぜながら添加してO/D型のゲル状エマルションを形成させるまでであり,第ニステップはこのゲルエマルションに水相を添加し,連続相を界面活性剤から水へと変化させてO/Wエマルションとする過程である。O/Dゲルエマルションを形成するための条件を水一流動パラフィン-1,3-ブタンジオール-界面活性剤系の相平衡図および界面活性剤相と油相間の界面張力の測定から検討した。その結果,D相である水-二価アルコール-界面活性剤の組成比がO/Dゲルエマルション形成に重要であること,二価アルコールの役割はD相が液晶化するのを妨げることであることが示された。D相乳化法の特徴として微細乳化滴をもつO/Wエマルションを与える乳化剤のHLB数の幅を広げることができた。
  • 田村 紘基, 佐藤 一男, 永山 政一
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1405-1411
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    pH一定の中性溶液中で鉄(II)イオンの空気酸化に対する銅(II)イオンおよび含水酸化鉄(III)の触媒作用を調べた。含水酸化鉄(II)が単独に存在する場合の速度式は,
    -d[Fe(II)]/dt=k1[Fe(II)]・PO2 (1)
    銅(II)イオンの存在下では,
    -d[Fe(II)]/dt=k2[Fe(II)]2・PO2 (2)
    であった。速度定数k1およびk2は含水酸化鉄(II)および銅(II)イオンの濃度とともに増大した。含水酸化鉄(III)と銅(II)イオンの共存下では,酸化速度は(1)式と(2)式の速度の和になり,触媒作用には加成性が認められた。含水酸化鉄(III)が存在するとき,鉄(II)イオンの一部は含水酸化鉄(III)に吸着して平衡の状態にあり,この吸着種を経由して酸化が進むであろう。また,銅(II)イオンの作用については,銅(II)イオンと鉄(II)イオンの酸化還元平衡により微量の銅(I)イオンが生成し,この銅(I)イオンの存在下で酸素による鉄(II)イオンの酸化が起こるものとする。本研究ではこのような考えに基づいて,酸化速度に対する鉄(II)イオン濃度,酸素分圧,含水酸化鉄(III)濃度および銅(II)イオン濃度の影響を定量的に説明することができた。
  • 上岡 龍一, 松本 陽子, 古家 義朗, 白石 誠
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1412-1417
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ヒスチジン誘導体およびヒドロキサム酸触媒によるフェニルエステルの加水分解反応の温度依存性をミセル系,二分子膜系さらに高分子系反応場で試みたところ,ニ次速度定数(ka,obsd)から算出した活性化パラメーター(ΔH, ΔS)をもとに得られた等速温度(β)が,反応場の違いにより分類できるこどが明確になった。すなわち,(a)ミセル系…β>T(測定温度の平均値),(b)二分子膜系…β<T,(c)高分子系…β≫T,となった。そこで,二本鎖ヒドロキサム酸触媒および重合度95.8のテロマー型ヒドロキサム酸触媒を用いた場合はβ 値から,それぞれ二分子膜系およびミセル系反応場で反応が進行していると類推した。
  • 工藤 節子, 岩瀬 秋雄, 田中 信行
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1418-1425
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ジメチルスルhホキシド中で,[Ni(dbm)2],[Ni(bfac)2],[Ni(ftac)2],[Ni(ttac)2]の4種類のビス(β-ジケトナト)ニッケル(II)錯体の電極反応機構と溶液内平衡を電気伝導度とモル質量(凝固点降下法)の測定,直流,微分パルス,オシログラフの各ポーラログラフィー,白金電極によるサイクリックボルタンメトリーによって研究した。dbm-,bfac-,ftac-,ttac-は,それぞれジベンゾイルメタン,ベンゾイルトリフルオロアセトン,2-フロイルトリフルオロアセトン,2-テノイルトリフルオロアセトンのエノラートィオンを示す。0.05mol・dm-3TBAP溶液中の電極反応機構と溶液内平衡を[Ni(dbm)2]に対して,
    Ni(uni-dbm)+←slow→Ni(bi-dbm)+←k23, k32
    2e↓1st wave 2e↓2nd wave
    Ni(bi-dbm)(uni-dbm)←slow→Ni(bi-dbm)2
    2e↓3rd wave 2e↓4th wave
    その他の錯体に対して,
    Ni(uni-L)+←slow→Ni(bi-L)+←slow→
    2e↓1st wave 2e↓2nd wave
    Ni(bi-L)(uni-L)←slow→Ni(bi-L)2
    2e↓3rd wave 2e↓4th wave
    のように推定した。uni-とbi-は,それぞれ単座配位と二座配位を意味する。
  • 和田 健二, 松井 良夫, 関川 喜三, 下平 高次郎
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1426-1432
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    アルミニウムの電解着色皮膜の機能化と強化を目的として,電解着色皮膜への再アノード酸化の導入を検討した。そしてホウ酸アンモニウム水溶液中での再アノード酸化時の印加電圧と電解時間が皮膜の色におよぼす影響を調べた結果,硫酸ニッケルと硫酸スズ(II)によるどちらの着色皮膜にも淡色化現象が認められ,着色制御できることが明らかとなった。さらにこれらの着色皮膜の再アノード酸化前後における微細構造の変化を電子顕微鏡で観察するとともに,再アノード酸化時の電解時間の経過にともなう電流密度の変化から,析出物とバリヤー層に変化が生じていることを認めた。すなわち再アノード酸化時に起こる淡色化は,硫酸ニッケルによる着色皮膜では析出物のボアーからの離脱に起因し,硫酸スズ(II)による着色皮膜では析出物の上部での不動態層の生成に起因する。析出物とバリヤー層との密着性は析出物の種類やボアーによって異なるが,この原因はおもにアノード酸化時に生戒したバリヤー層の厚さのパラツキと析出物中の微細粒子の有無に関連することを推察した。また,着色皮膜がバリヤー層の増厚化や析出物の不動態化によって強化されることを報告した。
  • 玉浦 裕, 小堀 由紀子, 桂 敬
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1433-1436
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ステンレススチール基板上に堆積したFe3O4膜は,Fe(OH)2懸濁液中に浸し空気酸化を行なうと膜成長を起こすことがわかり,その表面反応を調べた。Fe3O4膜に吸着した鉄(II)イオンを酸化するとγ-FeOOH層らしきものが形成され,これに鉄(II)イオンを吸着させるとFe3O4層が生成した。また,ステンレススチール基板に析出させたγ-FeOOH膜は,鉄(II)イオソを吸着しFe3O4膜となった。一方,空気酸化途中のFe3O4膜表面は,γ-FeOOHらしき鉄酸化物層とそれに吸着した鉄(II)イオンとからなっているものと推定された。これらの結果から,表面に吸着した鉄(II)イオンの酸化によりγ-FeOOHのような鉄酸化物層が形成され,これに鉄(II)イオンが吸着しFe3O4が生成する機構が考えられる。他の金属イオンが共存する場合についても,表面に形成されると思われるγ-FeOOHのような鉄酸化物層に金属イオンが吸着され,それがフェライト中に取り込まれるという機構を検討した。
  • 茂木 久雄, 小田嶋 次勝, 石井 一
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1437-1441
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    市販のアルセナゾIIIを塩酸による再沈殿法,ゲルクロマトグラフおよび陽イオン交換クロマトグラフ法を併用して精製し,その純度および酸生成定数を求め,さらに,これとスカンジウム(III)の錯形成反応を速度論的に検討してその反応機構を解明した。精製したアルセナゾIIIの純度は81.9%で,他になお塩酸1.1%,水分16.3%およびその他0.7%が含まれていた。吸光光度法により求めたアルセナゾIIIの酸生成定数はlogKHH6R=1.80, logKHH5R=3.31, logKHH4R=6.65, logKHH3R=8.86, logKHH2R=11.10 およびlogKHHR=14.92 で,これらはBudesinskyの報告値とほぼ一致した。アルセナゾIIIとスカンジウム(III)との錯形成反応は,スカンジウム(III)およびアルセナゾIII濃度に関して+1次,水素イオン濃度に関して-1次であった。したがって,律速段階はスカンジウム(III)とアルソン酸基のプロトンが1個解離したアルセナゾIII(H5R3-)との1:1錯体生成反応であると推定した,この反応の速度定数は2.21×104dm3・mol-1・s-1(25℃)であった。速度定数の温度依存性から活性化パラメ一ターを計算したところ,Ea=48.5kJ・mol-1,ΔH=46.0kJ・mol-1, ΔS=-7.28J・K-1・mol-1およびΔG=48.1kJ・mol-1が得られた。さらに,この反応がEigen機構で進行しているとして,スカンジウム(III)の配位水分子の交換速度定数が2×102s-1であると評価した。
  • 石井 一, 小田嶋 次勝, 茂木 久雄
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1442-1448
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    アルセナゾIIIとウラン(VI)との錯形成反応を速度論的に検討して錯形成反応機構を解明した。本研究で使用したストップトフロー装置の不感時間tdを,この反応系を利用して求めたところ,td=2msが得られた。アルセナゾIIIとウラン(VI)との錯形成反応は,ウラン(VI)濃度に関して+1次であることを明らかにした。さらに,錯形成反応速度に対するアルセナゾIII濃度や水素イオン濃度の依存性を検討した結果,この反応系はUO22++H6R2-→P(k1)およびUO22++H5R3-→P(k2)の二つの反臨経路で進行していることがわかった。それぞれの反応の速度定数を作図法,規格化曲線法,非線形最小二乗法およびSimplex法によって求めたところ,それらの値はおおむね一致し,k1=2.07×105dm3・mol-1・s-1およびk2=1.25×106dm3・mol-1・s-1(25℃)が得られた。さらに,この錯形成反応がEigen機構で進行していると仮定して,二つの反慈経路の速度定数(k1, k2)の差は,静電的因子すなわち外圏型錯体の会合定数の比の値KOS(UO22+,H5R3-)/KOS(UO22+,H6R2-)で説明できることを明らかにした。また,ウラニル(VI)イオンの配位水分子の交換速度定数は3×104s-1であると評価した。
  • 三義 英一, 小林 明, 柳沢 三郎, 白井 恒雄
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1449-1455
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    著者らは,さきに炭化水素-アンモニア-水系の紫外線照射および水表面放電により生成されるアミノ酸,核酸塩基について報告した。そして本実験では,化学進化過程における糖生成経路であると考えられているホルモース反応について,塩基触媒として水酸化カルシウムを含むホルムアルデヒド水溶液に水表面放電,波長254nmの紫外線,熱の3種の異なるエネルギー源を用いたときに生成される糖に関する定性・定量分析を行なった。そして得られた結果から,エネルギー源の糖生成におよぼす影響について検討した。各ホルモース反応において,糖生成物の組成はどのエネルギー源を用いてもほぼ同じであったが,水表面放電を用いた反応の糖収率はきわめて高いことがわかった。さらに,低濃度ホルムアルデヒド溶液(0.01mol/l以下)からの糖生成は,水表面放電反応によってのみ起こることが確認された.また,ホルムアルデヒド水溶液の水表面放電および紫外線照射により,グリコールアルデヒド,グリオキサール,ギ酸などが生成されることがわかった。この結果から,水表面放電ホルモース反応における糖生成には,ホルミルラジカルが重要な役割を果たしたことが明らかとなった。また,紫外線反応においては,糖の分解抑制効果,水銀塩添加による糖収率の増加などが確認された。本実験の結果から,水表面放電,紫外線などが原始地球上における糖類の前生物的合成に重要な影響をおよぼした可能性があることが示された。
  • 岩村 正子
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1456-1462
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    可逆な一電子酸化還元過程を示すルテニウム(II)2,2′-ビピリジン錯体の電極過程と電子状態の相関について検討した。これらの錯体の電極反応は,二つまたは三つの可逆な一電子還元過程と一つの一電子酸化過程からなり,還元過程はそれぞれの錯体のビピリジン配位子の数に対応している。これらの錯体の電極反応と電子状態はつぎのように対応していると考えられる。
    [Ru(bpy)2X2](3-n)+←e,-e→[Ru(bpy)2X2](2-n)+←e,-e→[Ru(bpy)2X2](1-n)+
    t2g5 t2g6 t2g6・π*1
    ←e,-e→[Ru(bpy)2X2]n-←e,-e→[Ru(bpy)2X2](n+1)-
    t2g6・π*2 t2g6・π*3
    また,中心金属原子であるルテニウム(II)に直接結合した配位子の種類により,電極電位は正または負側に移行する。この電位移行度の大きさは,酸化波の方が還元波の電位移行度にくらべて大きい。これらの錯体の電極反応と吸収スペクトルとの対応関係を検討すると,支持塩効果や溶媒和エネルギーなどの媒質効果を考慮すれば,電極反応と吸収スペクトルの対応関係は良好なものとなり,電極反応と電子状態との相関関係がより明らかなものとなった。
  • 森 芳弘, 末木 啓介, 松田 友宏, 村上 善三郎
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1463-1468
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    強酸性陽イオン交換樹脂カラム中で,溶離液によるアルカリイオンの移動速度は,一般にLi+>Na+>K+の順序であり,また水溶液中,イオン交換樹脂中における電気泳動の移動速度はK+>Na+>Li+の順序である。したがって,イオン交換カラム分離における溶離液の流れと逆方向の電気泳動を併用することによって,Li+,Na+およびK+のより効果的な相互分離が期待される。本実験では,マクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂ダイヤイオンPKシリーズについて1価陽イオン(Li+,Na+,K+,Rb+,Cs+,NH4+)とH+イオンの間の平衡係数(樹脂相中でのイオン比が1:1のときの価)を求めた。つぎにダイヤイオンPK228NH4形のカラム(高さ105mm,直径10mm)にNa+,K+イオン(各0.50meq)を捕捉させ,これに溶離液(0.10mol/l NH4Cl水溶液)を流し,同時にその流れと逆方向に陽イオンの電気泳動が起こるように,いくつかの大きさの電圧をかけた実験を行なった。各イオンの溶出ピークまでの溶離液体積と使用電気量は,ほぼ比例関係にあることが見いだされ,効果的にK,Naの分離が行なわれた。また同じ交換体のH形のカラム(高さ105mm,直径8mm)と,0.05mol/l HCL水溶液120ml,ついで0.10mol/l NH4Cl水溶液を溶離液として使用し,42mAの定電流をその逆方向に流したときにLi+,Na+,そしてK+(各0.32meq, 全交換容量の約10%)の完全な相互分離が行なわれた。
  • 矢ヶ部 憲児, 南 晋一
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1469-1474
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    塩化物イオンを含むシュウ酸水溶液からトリオクチルアミン(TOA,R3N)によるインジウム(III)の抽出実験を行なった。抽出化学種のインジウム(III):シュウ酸イオンの組成比をTOAによる抽出法を用いて検討し,その組成比を2:3と推定した。つぎに,キシレンを留去して得た抽出物のクロロホルム溶液のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により,抽出物は数種類の化学種を含むことが観察された。比較的多く含まれているインジウム(III)化学種とTOAの塩酸塩を分取した。インジウム(III)化学種はインジウム(III),シュウ酸イオン,塩化物イオンおよびR3NH+からなり,R3NH+:インジウム(III):シュウ酸イオン:塩化物イオンの組成比は2:2:3:2となり,その組成式を(R3NH)2In2(C2O4)3Cl2と決定した。なお,分取したインジウム(III)化学種を用いて,検量線を作製し抽出物中のイソジウム(III)化学種を定量した結果,抽出されたインジウム(III)の約98%が(R3NH)2In2(C2O4)3Cl2として存在していることが確認できた。また,熱分析および元素分析の結果もこの組成式から求めた計算値とほぼ一致した。さらに,GPCによる分子量の検討からインジウム(III)化学種およびTOAの塩酸塩はクロロホルム溶液中で会合体を形成していると結論した。
  • 山田 宗慶, 加茂 徹, 西野 順也, 天野 杲
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1475-1481
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    チエタンと水素原子との反応を放電流通式反応装置を用いて,300K,2130Paで行なった。転化率の広い範囲にわたって,主生成物はプロピレンで,このほか少量のエチレンと微量のエタン,プロパンおよびシクロプロパンも認められた。水素原子のかわりに重水素原子との反応を試みたところ,原料チエタンには重水素との交換は認められなかったが,生成プロピレンの大部分に重水素原子が1個とりこまれてC3H5Dとなっていることが認められた。同一条件でのプロピレンと重水素原子との反応ではプロピレンに重水素との交換はあまり起こらないことが認められた。3,3-ジメチルチエタンと水素原子との反応ではイソブテンが主生成物で,少量の1,1-ジメチルシクロプロパンの生成も認められた。
    従来知られている類似の系(チエタン-炭素原子,チイラン-水素原子,チオラン-水素原子)での反応機構では以上の結果を説明することができないので,つぎのようなアリル遊離基を経由する機構を提案した。
    (CH2)3S + H →(CH2)3SH →CH2CHCH2 + H2S
    CH2CHCH2 + H →C3H6* →C3H6
    →CHCH2 + CH3
    アリル遊離基を仮定することによって,本反応系の特徴を定性的に説明することができた。
  • 鈴木 利英, 松木 隆郎, 工藤 清, 杉田 信之
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1482-1487
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    コバルトカルボニルは,有機ハロゲン化物と一酸化炭素とアルコール類からエステルを合成する触媒であることが知られている。著者らはこの反応を種々の置換基を有する塩化メチル類のカルボニル化に応用したところ,塩化ベンジル,クロロアセトン,クロロ酢酸メチル,クロロアセトニトリルではほぼ選択的にエステルが合成されたものの,塩化アルキル,クロロヒドリン,クロロメチルエーテルではエステルがほとんど生成しなかった。
    本反応は2,6-ルチジンを塩基として用いることによって定量的な取り扱いが可能であることが明らかとなったので,速度論的な研究を行ない,各有機塩化物のコバルト触媒への酸化的付加反応の速度定数およびアルキル型錯体への一酸化炭素挿入の速度定数などを求めた。その結果,各有機塩化物のカルボニル化における反応性の差異を置換基の電子論的な性質を用いて説明することができた。
  • 古屋 博英, 須藤 信行, 加藤 旨彦, 奥脇 昭嗣, 岡部 泰二郎
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1488-1493
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Yallourn炭(C66.8% d.a.f.)の濃厚水酸化ナトリウム溶液中における酸素酸化生成物(シュウ酸ナトリウム,炭酸ナトリウム,ベンゼンポリカルボン酸ナトリウムなどの混合物)から,水酸化ナトリウム溶液への溶解度差を利用したシュウ酸ナトリウムの分離に関して,1,4-, 1,2-, 1,2,4-, 1,2,4,5-, および1,2,3,4,5-ベンゼンポリカルボン酸ナトリウムの水酸化ナトリウム溶液への溶解度を測定した。1,4-ベンゼンジカルボン酸ナトリウムの溶解度から,Debye-Hückelの拡張式を用いて,溶解度積(K0sp)を算出し,また実際のYallourn炭酸化生成物からシュウ酸ナトリウムの分離試験をした。
    約10%水酸化ナトリウム溶液においては,1,4-ベンゼンジカルボン酸ナトリウムを除いたベソゼンポリカルボン酸ナトリウムは,かなり(7.0~58.7g/100g-NaOH溶液)溶解し,その溶解度は水酸化ナトリウム濃度の増加とともに急激に低下した。25%水酸化ナトリウム溶液中では,1,4-ベンゼンジカルボン酸ナトリウムはほとんど溶解せず,他の濃度でも0.63~2.53g/100g-NaOH溶液であった。1,4-ジカルボン酸およびペンタカルボン酸ナトリウム以外は温度の上昇とともに溶解度は増加したが,これらの溶解度の温度依存性はきわめて小さかった。25%水酸化ナトリウム溶液中における溶解度を比較すると,1,2,4->1,2->1,2,4,5->1,2,3,4,5->1,4-の順であった。
    1,4-ベンゼンジカルボン酸ナトリウムの塩化ナトリウム溶液(0.1~6mol/kg-H2O)への溶解度から計算すると,イオン強度0における溶解度積(K0sp)は48×10-4であった。
    Yallourn炭酸化生成物113gを25%水酸化ナトリウム溶液150gで洗浄し,ついで10%水酸化ナトリウム溶液100gずつで2回洗浄したのちの沈殿物を水洗乾燥し,粗シュ酸ナトリウム10.6gを得た。酸化生成物中のシュウ酸ナトリウムは95%回奴され,またその純度は約90%であった。
  • 猪熊 精一, 桑村 常彦
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1494-1498
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    三系列のアミンイミド基を有する新規な界面活性大環状化合物(アミンイミドクラウンエーテル;〔2〕,〔4〕および〔6〕)をTHF中,NaHの存在下で相当するジヒドロキシ(アミンイミド)(〔1〕,〔3〕および〔5〕)とオリゴエチレングリコール=ジトシラートから実用的収率で合成した。これら,アミンイミドクラウンエーテル(AICE)の水溶液の諸性質および1-プロモオクタンとアルカリ金属ヨウ化物飽和水溶液との反応における触媒効果を検討し,種々の関連化合物のデータと比較した。
    AICEは,0~100℃の範囲内にクラフト点および曇り点をもつことなく,水に容易に溶解した。AICEの臨界ミセル濃度(CMC)における表面張力はかなり低い(33~37dyne/cm)。AICEのCMCはアルキルクラウンエーテル〔8〕のそれより高く,N-アルキルモノアザクラウンエーテル〔9〕のそれと同程度であった。三系列のAICE中,ポリエーテル環から離れた位置にアミンイミド基をもつ〔2〕は,アミンイミド基の一部あるいは全部がポリエーテル環内に入った〔4〕と〔6〕にくらべ,CMCが高く,かつCMCのアルキル鎖長依存性も大である。
    〔4〕と〔6〕は,その親水性が高いにもかかわらず高い触媒効果を示した。また,それらは,"ジシクロヘキシル-18-クラウン-6"よりも大きなアルカリ金属イオン選択性を示した。以上の結果について,錯体形成におよぼす構造効果および反応相で形成される触媒と塩の錯体の親水性-疎水性バランスの観点に基づいて考察した。
  • 田中 基雄, 関口 辰夫
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1499-1504
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    アニリン類とベンズアルデヒドとの縮合によるジアミノトリフェニルメタン誘導体の合成において,触媒としてNafion-Hを用いることにより,効率よく反応が促進した。反応生成物を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果,o-およびm-置換アニリン誘導体では,主成分の比率は前者の方が高く,後者はおもに立体障害の影響で副生物を形成しやすい傾向を示した。触媒は反応終了後,容易に分離でき,再生後くり返し使用することが可能であった。またいくつかの反応について同系のAmber-lyst-15を触媒として使用し,効果を調べたが,収率および選択性がNafion-Hより低いことがわかった。
  • 田中 寿一, 安達 和郎
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1505-1514
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    フェノール性セスキテルペンのキサントリゾール〔1〕を合成し,その合成中間体の酸触媒による反応について検討した。
    4-(p-トルオイル)酪酸〔7〕からニトロ化,還元,ジアゾ化,Grignard反応などによって得られた5-(3-メトキシ-4-メチルフェニル)ヘキサン酸〔12b〕を経て,2-メチル-6-(3-ヒドロキシ-4-メチルフェニル)-2-ヘプタノール〔4a〕およびそのメチルエーテル〔4b〕を合成した。アルコール〔4a〕,〔4b〕はSOCl2あるいはPOCl3により低温で脱水するとキサントリゾール〔1a〕あるいはそのメチルエーテル〔1b〕をそれぞれ生成したが,ギ酸と加熱したときには8-ヒドロキシ-ar-ヒマカレン〔14a〕またはそのメチルエーテル〔14b〕を副生した。〔4b〕はべンゼン中でp-トルエソスルホン酸と加熱すると,〔1b〕および〔14b〕を経て,ジヒドロキサントリゾール=メチルエーテル〔15b〕,5-メトキシカラメネン〔16b〕および7-メトキシカラメネン〔17b〕などの混合物を生成した。また,〔4b〕を氷酢酸中で臭化水素酸と加熱したときの生成物は,フェノール性化合物〔15a〕,〔16a〕,〔17a〕などの混合物であった。これらの結果は,〔1〕の酸触媒による環化反応は中間体〔14〕を経て,〔16〕や〔17〕へ異性化することを示している。〔16〕および〔17〕はいずれもジアステレオマー混合物であり,トランス体約80%が含まれていた。〔17〕は脱水素すると,それぞれ7-ヒドロキシカダレン〔18a〕およびそのメチルエーテル〔18b〕が得られた。
  • 丸山 一茂, 後藤 邦夫
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1515-1520
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    モノ-,ビス-,トリス-およびテトラキス-O-(2-エチルヘキサノイル)ペンタエリトリトールならびにモノ-およびジ-O-ベンジリデンペンタエリトリトールをそれぞれ合成し,これらを亜鉛/カルシウム複合セッケンと併用してポリ(塩化ビニル)樹脂に添加したさい,モノ-およびビス-O-(2-エチルヘキサノイル)ペンタエリトリトールならびにモノ-O-ベンジリデンペンタエリトリトールは,いずれも着色抑制効果を示した。中でもモノエステルは,ポリ(塩化ビニル)樹脂との相溶性にすぐれ,上記物質中最良の相乗効果を示し,ペンタエリトリトールにかわる安定化助剤となる可能性を認めた。トリ-およびテトラエステルならびにジアセタールには,添加効果は認められなかった。
    これらの物質による着色抑制作用は,モノアセタール,モノ-およびジエステル中の2個のヒドロキシル基が,加熱過程で生じる塩化亜鉛を無色の錯体として捕捉することに起因するものと考える。
  • 宮田 奈美子
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1521-1525
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    リグニン(22.7%)とセルロース含有の故紙パルプに,2-(ジメチルアミノ)エチル=メタクリラート(DM)をグラフトさせた共重合体(WPG)の金属イオンの吸着量(pH4~6)は,Cr6+>>Fe3+>Cu2+>Hg2+>Pb2+>Cd2+>Zn2+ の順序であった。吸着は物理的および化学的吸着(Cr6+はイオン結合,他の金属イオンはキレート結合)が考えられる。Cr6+ の吸着量はグラフト率20%(陽イオン性基量0.76mmol/g)のとき,1.4mmol/g WPGであり,DMの陽イナン性座席対陰イオンは高グラフト率のとき,1:1であるが,低グラフト率のときは,1:5となる。吸着はpH1~4.5のとき,1時間で平衡に達し,吸着量と平衡濃度は,Freundlichの吸着等温式(m=13.1C0.41)が成立する。Cr6+を吸着したWPGは,1mol/l NaOH溶液で処理して完全に溶離できる。
  • 男成 妥夫
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1526-1530
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    1-(m-置換フェニルアゾ)-2-ナフトール-3,6-ジスルホン酸類を取り上げ,その水溶液におけるオゾソ酸化反応を行ない,主として置換基の誘起効果の影響について検討した。その結果,これらの染料分子のオゾン酸化反応は,一置換エチレン類のそれと同様な機構によると推定された。また染料のケト値のオゾン脱色にともなう変化の検討から,水溶液中互変異性平衡状態で存在するヒドロキシアゾ形とケトヒドラゾ形の染料の二つの異性体のうち,主としてケトヒドラゾ形のオゾン攻撃によって脱色が生じるものと推定された。これらのことから,これらのアゾ染料の異性体のうち,主としてケトヒドラゾ形のCNα結合のオゾン攻撃によって脱色が生じるものと考えられる。
  • 道祖土 勝彦, 黒木 健, 池村 糺, 桐澤 誠
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1531-1534
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    廃ポリスチレンを減圧下に熱分解することにより10~15%回収される2,4-ジフェニル-1-ブテンを原料として2,4-ジフェニルブチル=2,4-ジフェニルブチラートを合成し,ポリ(塩化ビニル)(PVC)に対する可塑剤としての検討を行なった。2,4-ジフェニルブチル=2,4-ジフェニルプチラート単独での熱安定性を熱重量分析法を用いて測定し,ビス(2-エチルヘキシル)=フタラート(DEHP),ジブチル=フタラートの熱重量曲線と比較した。その結果,2,4-ジフェニルブチル=2,4-ジフェニルブチラートが耐熱性のすぐれた化合物であることを見いだした。一方,PVCに一次可塑剤としてビス(2-エチルヘキシル)=フタラートを加え,PVC用安定剤および2,4-ジフェニルブチル=2,4-ジフェニルブチラートを常法により混練し,シートを成形した。PVCと混練時の2,4-ジフェニルブチル=2,4-ジフェニルブチラートの相溶性,および湿式法で測定したブリード性はビス(2-エチルヘキシル)=フタラートと同等の値を示した。可塑化PVCシート片について可塑剤としての特性を測定したところ2,4-ジフェニルブチル=2,4-ジフェニルブチラートはビス(2-エチルヘキシル)=フタラートに比較して柔軟性の付与効果は少ないものの耐熱性はすぐれることを示した。
  • 円満字 公衛
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1535-1538
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    The measurements of the longitudinal relaxation time (T1) and the computer simulation were carried out in order to investigate the comformations of the complex formed among copper chlorophyllin (Cu-chln), poly(N-vinylpyrrolidone) (PVP) and adenosine-5′-monophosphate (5′-AMP). It was found that T1′s of all the protons of 5′-AMP except H8 decreased by the formation of Cu-chln-PVP-5′-AMP complex. The comparisons of the observed T1′s with the results of the computer simulations have led to the conclusion that the adenine ring is parallel to the chlorine ring. The conformation of the Cu-chln-PVP complex was also discussed.
  • 工藤 節子, 岩瀬 秋雄, 田中 信行
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1539-1543
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    The electrochemical behavior of bis (hexafluoroacetylacetonato) nickel(II) was studied in 0.05 mol·dm-3 TBAP-DMSO or 0.1 mol·dm-3 TBAP-DMSO by differential pulse polarography and cyclic voltammetry. In the previous paper, it has been reported on the basis of the conductance data that [Ni(hfac)2] in DMSO is involved in the chemical equilibrium (1).
    [Ni(hfac)2] ←→ Ni(hfac)+ + hfac- (1)
    The dissociation of [Ni(hfac)2] in the bulk of the solution was also supported by cryoscopy in this paper. The following electrode reaction mechanism was presumed :
    [Ni(hfac)2] + 2e → Ni(hfac)22- (2)
    Ni(hfac)+ + 2e → Ni(hfac)- (3)
    Ni(hfac)22- → Ni(hfac)- + hfac- (4)
    Ni(hfac)- → Ni0 + hfac- (5)
    where k1 and k2 denote the rate constants of the dissociation reactions (4) and (5), respectively.
  • 加藤 昭夫, 新田 浩一, 平田 好洋
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1544-1546
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Prepration of calcia-stabilized zirconia powders by spray-pyrolysis technique and their sinterabilities were investigated. The spray-pyrolysis of ethanol-water (2 : 1 in vol.) solution of ZrO(NO3)2 and Ca(NO3)2 at 950-1150°C gave cubic-ZrO2ss(CaO : 15, 20 mol%) or tetragonal-ZrO2ss(CaO : 10 mol%). The powders consisted of hollow or flake particles (1-5μm). The sinterability of 15 mol% CaO powders showed a maximum at the spray-pyrolysis temperature of around 1050°C and tended to increase with an increase in the concentation of spray solution. The powders prepared by pyrolysis of the solution with [Ca2+ + ZrO2+] > 0.55 mol/l at 1050°C gave sintered bodies with relative densities above 90% by firing at 1500°C for 2 h.
  • 斎藤 勇
    1983 年 1983 巻 10 号 p. 1547-1548
    発行日: 1983/10/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    The Cr(VI) in an acidic solution was reduced to Cr(III) and was most efficiently adsorbed at pH about 5 by the retorted shale from Thailand oil shale (spent shale). It is considered that these behaviors of Cr(VI) in an aqueous solution is due to the action of the deposited carbon in the spent shale, which was activated with various salts of Ca, Mg, Na, K and the like during the retorting of the oil shale.
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