日本化学会誌(化学と工業化学)
Online ISSN : 2185-0925
Print ISSN : 0369-4577
1988 巻, 3 号
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  • 作花 済夫
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 243-252
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ゾル-ゲル法は,金属アルコキシド,その他の金属有機化合物,あるいは無機化合物を均質な溶液とし,溶液中での化合物の加水分解,重合反応によって溶液をゾルを経てゲル化させ,ゲルの加熱によって所望の組成をもつ酸化物ガラスおよび所望の結晶相をもつセラミックスを得る方法である。この方法では,とくに金属アルコキシドを使用すると,ガラスおよびセラミヅクスを従来の方法にくらぺてはるかに低温で合成することができる。本総合論文ではiはじめに,ゾル-ゲル法の概要を述べ,つぎに,ゲル化時にバルク体およびファイバーとして成形し,その後の加熱によって形を変えないで,ガラスまたはセラミックスの成形体を得る方法について,シリカガラスを例として詳述する。
  • 上田 寿, 貝瀬 正〓
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 253-259
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    チタン酸ブチルをテトラヒドロフラン中で重合して生ずる物質は,光により励起されて新規のESR吸収を与えることはすでに報告した。本研究ではこの重合反応を行なうさいにN,N,N′N′-テトラメチル-p-フェニレンジアミン(TMPD),N,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン(DMPD),p-フェニレンジアミン(PD)を添加してつくったポリマーに対する光応答性を,ESR,可視スペクトルで調べた。TMPDを1モル%加えたものでは,光照射によりTMPD.+のESRが見いだされ,光を切ると減衰していく。この変化は可逆的である。このスペクトルのピーク位置は,TMPD.+の溶液のESRスベクトルと一致するが,hf線の強度比,線幅が核スピンmの値により変化している。このことはTMPD.+の回転運動が制限されているため,スピン緩和時間に非対角項の寄与が加わるためとして説明される。ESR測定から,DMPDを添加したポリマーの場合にはDMPD.+が一部生成することが認められた。しかし,DMの場合にはDM.+紳はほとんど生成しない。
  • 山川 一三男, 中島 豊比古
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 260-265
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ピリジン中での酸の解離機構を解明する目的で,ピリジンを溶媒としてニトロフェノール類の電気伝導度測定およびこれらのカリウム壇の溶解度測定を行なった。酸(HA)の解離としては,単純イオン対の解離平衡とホモ共役イオン(HA2-)の生成平衡を考え,単純イオン対の熱力学的解離定数およびホモ共役生成定数を決定した。酸の解離定数はニトロ基の置換数に比例して大きくなり,酸の強さの序列は,ピクリン酸>2,4-ジニトロフェノール(2,4-DNP)>2,6-DNP>2,5-DNPおよびp-ニトロフェノール(p-NP)>ο-NP>m-NPであった。メタ位にニトロ基が置換したフェノールは,解離が低いばかりでなくホモ共役体を形成しやすく,ピクリン酸や2,4および2,6-DNPはほとんどホモ共役体を形成しないことが認められた。また,今まで確定されていなかったピリジン中でのピリジニウムイオンおよびホモ共役イオンの極限モル伝導率をそれぞれ43.72および26.10S・cm2・mol-1と決定した。
  • 岡本 俊, 林 史郎
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 266-271
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    高分子電解質として,化学組成が同一で分子量が600~25000のポリアクリル酸ナトリウム(9種類),および分子量が3000で種々の組成をもつアクリル酸ナトリウム・2-ヒドロキシ-3-アリルオキシ-1-プロパンスルホン酸ナトリウムコポリマー(5種類)とアクリル酸ナトリウム・3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオールコポリマー(4種類)をとり,これらの18種類のポリマーについて種々のpHにおける炭酸カルシウム析出抑制能を調べた結果,少数の高分子電解質を用い,単一のpHで推論した前報の析出抑湖機構の正当性を再確認することができた。すなわち,析出抑制能はポリマーのキレート化能の増大につれて大きくなるが,これがあまり大きくなるとゲル化が起こって有効濃度が低下し,抑制能はかえって小さくなってしまう。溶液のpHを増大すると,炭酸カルシウムの過飽和度が高くなるので,析出防止のためにはある程度ポリマーのキレート力および濃度を増大する必要がある。ポリマーのゲル化はCOO-基にCa2+イオンが吸着してゼロ荷電錯体を生じ,これが凝集またはミセル化するためであることを明らかにした。
  • 張 華民, 寺岡 靖剛, 山添 〓
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 272-277
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Mn系ペロブスカイト型酸化物La1_xA′xMnO3(A'=Ca,Sr,Ba)のクエン酸錯体法による調製および調製触媒のメタン酸化活性を調べた。単相のぺ0ブスカイト型酸化物の生成温度および生成組成範囲は置換元素の種類により異なるものの,550~650℃ の焼成で結晶性のよい単相のペロブスカイトが得られ,クエン酸錯体法を用いれば,従来の酢酸塩分解法にくらぺて200~3000℃低い温度でぺロブスカイト型酸化物を調製することが可能である。比表面積は焼成温度に大きく依存する。比表面積はぺロブスカイトが生成し始める温度付近で最大となり30m2・g-1以上にも達するが,焼成温度の上昇とともにいちじるしく低下し,850℃ 焼成では酢酸塩分解法にり調製したものと同程度となった。クエン酸錯体法で調製したLa0.8Sr0.2MnO3の表面積あたりのメタン酸化活性は焼成温度とともに向上するが,低温焼成触媒では表面積増大の効果が大きく,重量あたりでは担持白金触媒や酢酸塩分解法により調製した触媒よりもはるかに高活性となった。以上の結果から,触媒調製におけるクエン酸錯体法の利点は,低温焼成が可能なことによる高表面積化であると結論できる。
  • 小俣 光司, 八木田 浩史, 鹿田 勉, 藤元 薫, 冨永 博夫
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 278-283
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    活性炭担持ニッケル触媒を用いて気相,加圧下にてヨウ化メチル共存下でジメチルエーテルのカルボニル化反応を行なったところ酢酸メチルが選択性よく得られた。ニッケルの担持量の増加にともない酢酸メチルの収率は増加したが,2.5wt%以上で一定となった。これは金属の分散度の低下のためと考えられた。カルボニル化反応の一次生成物は酢酸メチルで,接触時間の増加とともに酢酸が生成し,また若干のメタンが見られた。これらの副生にはジメチルエーテルの分解により生じた水素あるいは水が関与している。また,さらにカルボニル化が進行し無水酢酸が生成することが確認された。反応温度,圧力が高いほど酢酸メチルの収率は高かったが選択性が低下した。これに対し,CO/DME,MeI/DME比を高くすると選択性の低下なしに酢酸メチル収率を高くすることが可能であった。各種リアクタント分圧に対する反応速度依存性を測定したところ,CO分圧に0.5次,ジメチルエーテルに1.0次,ヨウ化メチルに0.5次であった。メタノールのカルボニル化反応にくらべヨウ化メチル依存性が高いことが特徴的であり,その吸着過程が遅いことが示された。その原因は反応が無水系であるためで,水の添加により総括の反応速度が向上することが示された。
  • 山本 善丈, 西岡 勲, 森重 清利, 西川 泰治
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 284-287
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    8-キノリンチオールの濃硫酸,濃過塩素酸溶液の励起状態における蛍光特性を明らかにするため,吸収スペクトル,蛍光スペクトル,プロトン移行率衡定数,蛍光の量子収率,蛍光寿命,螢光偏光スペクトルを測定し,これから8-キノリンチオールの吸収,発光の遷移過程を考察した。その結果,8-キノリンチオールの蛍光は8-メルカプトキノリニウムイオンの生成に基づくn-π*遷移の抑制,π-π*遷移に基づく蛍光であることを明らかにした。
  • 山本 二郎, 岸田 優, 竹中 由臣, 岡本 勇三
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 288-293
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    フェニル酢酸ο-トリル[1]の沸騰クロロベンゼン中におけるAlCl3を触媒として用いたFries転位では,58.0%の収率で4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル=ペンジル=ケトン[8]が得られたが,2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル=ベンジル=ケトン[9]の収率はきわめて低かった(図1)。この反応で生成した[9]は逆Fries転位によって[1]に変わるが[8]から[1]への変換はわずかであって,このためクロロペンゼンを用いた[1]のFries転位は低いオルトーパラ比([9]/[8])を与えている(図1,表4)。
    沸騰ニトロメタン中フェニル酢酸m-トリル[2]のFries転位では,2-ヒドロキシ-4-メチルフェニル=ペンジル=ケトン[15]の収率が反応時間とともに増加し,4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル=ベンジル=ケトン[16]の収率は減って,3時間後には高いオルトーパラ比([15]/[16]=15.3)を与えた(図2,表2)。
    フェニル酢酸p-トリル[3],フェニル酢酸2,4-キシリル[4]およびフェニル酢酸2,6-キシリル[5]を同じ反応条件でFries転位を行なって,得られたそれぞれの転位生成物収率を比較したところ,4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニルニペンジル=ケトン[13]の収率が,2-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル=ペンジル=ケトン[14]や2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル=ベンジル=ケトン[17]の収率より高かったので,パラ転位はオルト転位より速く進むことがわかる(表3)。
    [4]および[5]をそれぞれAlCl3存在下トルエン中で還流すると,[14]と[15]の収率はいずれも低くなり,2-トリル=ベンジル=ケトン[6]と4-トリル=ベンジル=ケトン[7]が生成した(表3)。[6]と[7]の収率および生成物比([6]/[7])のいちじるしい違いを考慮すると([4]から[6]:7.0%,[7]:4.1%,[6]/[7]=1.71。[5]から[6]:3.8%,[7]:47.2%,[6]/[7]=0.08),パラ転位は分子間性であり,オルト位への転移は分子内転位であると考えられる(表3)。
  • 坪井 正毅, 南原 勇, 松本 敏夫, 村上 文康
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 294-298
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    脂肪族第一級および第二級アルコール存在下,フェニルヒドラジンの過ヨウ素酸ナトリウム水溶液中での酸化反応を行なったところ,ベンゼン[1],フェニルアジド[2],ヨードベンゼン[3],アニリン[4],ビフェニル[5],アゾベンゼン[6],アルコールに由来するフェニルヒドラゾン[8]および少量ではあるがフェノール,ジフェニルアミンの生成が認められた。
    これ以外に,メタノールならびにエタノールを用いた場合には1-フェニル-1,2,4-トリアゾール誘導体[9],(CH3)2CH(CH2)nOH(n=1~3)型のアルコールを用いた場合には薪規化合物である第三級炭素上でのフェニルアゾ置換アルコール[10]が得られた。
    [9]の生成経路を明らかにするため,エタノールのかわりにアセトアルデヒド=フェニルヒドラゾン[8b]を用いてアルコールの場合と同様の実験を行なったところ,3,5-ジメチル-1-フェニル-1,2,4-トリアゾール[9b]の生成が確認された。さらに[8b]をメタノール中で過酸化ベンゾイルと反応させたところ,アニリン[4]と[9b]が生成していることが認められた.したがって,[9]は用いたアルコールから生成したフェニルヒドラゾン[8]の環化二量化とそれにつづく水素原子およびアニリンの脱離により生成したものと推定した。
    アルコールのα-水素が特異的に引き抜かれることはよく知られているが,本反応条件下で[10]のようにα-位以外の水素引き抜きによるフェニルアゾ置換アルコールが確認されたのは非常に興味深い。
  • 若林 俊嘉, 奥脇 昭嗣, 岡部 泰二郎
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 299-303
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    石炭の液相酸化における機構の解明およびシュウ酸収率の一層の向上を目的として高温高濃度アルカリ溶液中における酢酸イオンの酸素酸化を行ない,シュウ酸収率におよぼす金属材料およびその組合わせ,反応条件の影響について明らかにした。
    シュウ酸収率は反応装置の金属材料に大きく影響されることがわかった。Ni反応器中におけるシュウ酸イオンの酸化速度はCu>Co>Ni>Mn>Cr>Feの順序であった。Ni反応器中にFeまたはFe2O3が存在すると酢酸イオンの酸化速度よりシュウ酸イオンの酸化速度の方が大きく低下し,シュウ酸収率が向上した。これはNi表面にFe2O3が密着するために生じたNiとFeの複合効果によるものと推定された。この場合,CO2はシュウ酸を経て逐次的に生成する。シュウ酸の酸化速度は小さいのでNaOH濃度が増加するとシュウ酸収率が急激に大きくなった。
  • 矢津 一正, 中山 哲男
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 304-310
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    無水酢酸溶媒中,遷移金属塩-臭化物系触媒存在下においてtrana-デカヒドロナフタレン[1]の液相酸化反応を行ない,最適触媒条件,反応生成物の経時変化および反応生成物組成におよぼす反応温度の影響などを明らかにした。
    触媒としてはCo(II)-Ce(III)-NH4Br系触媒が最高活性を示すことを見いだし,この触媒系におけるCe(III)/Co(II)比,臭素/金属比および触媒濃度の最適値を明らかにした。反応生成物については,[1]の酸化で生成するすべての一置換体を分離・定量することにより,2-位置換体が主酸化生成物であること,反応温度120℃においてデカヒドロナフチルアセテートが80mol%以上の選択率で得られることなどを明らかにした。
    さらに,[1]の各水素原子の相対反応性の差が小さくなることなどを明らかにした。
  • 長谷川 淳, 村岸 武夫, 宇佐美 四郎
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 311-320
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    石炭液化重質油の中性無極性成分の詳細な分析を行ない,発がん性物質の定量分析についてのベる。
    溶剤処理炭(Solvent2,住友金属工業製,1t/日PDU)の重質留分(沸点340~400℃)中の中性成分を,二層充填液体クロマトグラフにより7種のフラクションに分離した(図1)。無極性フラクション(Fr1-6)をキャピラリーGC-MSにキャピラリーGC保持指標(RI)とHPLC-蛍光分析を結びつける新しい手法により分析し,多環芳香族探化水素(PAHs)をキャピラリーGCにより定量分析した。
    直鎖パラフィン(C17-C34),単環から四環ナフテン(C12-C19)と単環から六環までの30の芳香環系を同定した(表2と4-6)。多い成分は,直鎖パラフィン(中性成分の17.2%),C0-C4置換フェナントレン,(12.8%),C0-C4ピレン(11.1%),C1-C6アセナフテン(7,2%),C0-C4 4,5-ジヒドロピレ(5.9%),C0-C6フルオレン(4.7%),C0-C4ベンゾフルオレン(3種の異性体,4.5%),C0-C4クリセン(3.0%)であった。クリセン,ベンゾ[a]アントラセン,ベンゾ[a]ピレンとジベンゾ[a,h]アントラセン系の発がん性物質は,中性成分の3.3%を占めた。
  • 野村 正人, 藤原 義人
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 321-325
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    単環式および二環式モノテルペンオキシド類について硝酸塩系溶融塩(NaNO2/NaNO3/KNO3)および塩化物系溶融塩(ZnCl2/KCl/NaCl)中での熱分解反応を行ない,2種の無機混合溶融塩の相違と反応温度との関係について検討するとともに,反応生成物の選択性についても検討した。
    その結果,塩化物系溶融塩を用いた場合,trans-リモネン-1,2-オキシド[1]からは反応温度310℃の条件下においてネオおよびイソジヒドロカルボン[7],[8]の2成分(2:3)のみが得られる最適条件を見いだすことができた。1,2-エポキシ-4-p-メンテン[3]からは反応温度200℃ の条件下において4-p-メンテン-2-オン[17]が77%の生成比を占めた。2-ピネンオキシド[4]からはα-カンホレンァルデヒド[18]とピノカルボン[19]の2成分を生成物中,最高97%の生成比で得ることができた。また,2(10)-ピネンオキシド[5]からはいずれの溶融塩においてもミルタナール[21]が主成分として得られることが判明した。
  • 森 紀夫
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 326-331
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ポリ(L-グルタミン酸γ-ベンジルエステル)液晶のコレステリックピッチ(P)の温度(T)依存性が,溶媒の種類を変えて一定濃度の下で測定された。これまでに報告されている異なった実験結果を詳細に検討した結果,ピッチの温度依存の正確な関数形を得るためにはつぎの二点が必要であることがわかった。(1)ピッチは時間に依存しない,熱力学的平衡状態にあること。(2)測定している系が,等方相やゲル相を含まない,単一な液晶相であること。さらにこれまでに提出された,または想定されるP-T関係式の中で,いずれの関数形が実験事実をより正確に表示しているかを決定するために,統計学的手法を用いて比較検討した。これらの諸点を踏まえて検討した結果,もっとも正確なピッチの温度依存の関数形は溶媒の種類によらず,コレステリックらせんの回転角に相当するピッチの逆数1/Pが,温度の逆数1/Tの一次関数であるという結論が得られた。この結論は,従来の分散力のほかに,分子同志の衝突による反発力の効果を導入した木村らによる理論結果の,1/Pの温度依存の項と正確に一致した。
  • 藤本 明男, 藤田 忠宏, 遠藤 友美雄
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 332-336
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ナイロン6の製造において,重合平衡にある溶融ポリマー中に溶存あるいはポリマー末端基の形で存在する水分量と,出発原料であるε-カプロラクタムに触媒として添加する水量との差である余剰水分を,プレポリマー段階で除去することにより,高重合度ポリマーを安定的に生産することを検討した。
    反応の進行につれてプレポリマーの活性末端基濃度はピークを示し,このピークを越えた領域でプレポリマーから水分を除去してもその後の反応は順調に進行する。水分の蒸発速度はプレポリマーの溶融粘性の影響を大きく受ける。一方,プレポリマーの溶融粘性は,低分子量抽出分が溶剤として作用し,重合平衡に到達する直前から急増するので,その前に脱ガス部を設けると円滑に余剰水分を系外に除去することができる。これらの事実から,脱ガス部におけるプレポリマーの最適状態を実験的に見いだし,また,ブレポリマー状態の工業的な管理パラメーターとして,測定の精度および迅速性の観点から,凝固点を設定した。
    この方法により従来法では非常に困難であった高重合度ポリマーの安定製造が可能となった。
  • 藤本 明男, 森 武利, 蛭田 史郎
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 337-342
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ナイロン66ペレットを用いてポリマー融点より低い温度領域で重縮合反応を行なう「固相重合」について,反応の進行,ポリマー重合度に影響をおよぼす技術変数,固体ポリマーの形態による不均一反応の可能性を検討した。
    ポリマー重合度のパラメーターである相対粘度は,ペレットの初期水分に関係なく加熱時間に対し直線的に増大し,反応速度は温度によって一義的に決まる。
    固相重合したペレットを再溶融すると190℃ 以下の温度で固相重合したものは相対粘度が増大し,200℃ 以上の固相重合ポリマーでは相対粘度の低下が見られた。比較的低い固相重合温度ではペレットの乾燥速度が重縮合反応速度に対してすみやかで,乾燥が先行するため,再溶融時にさらに重縮合が進行するが,高温で固相重合を行なった場合は重縮合反応速度がペレットの乾燥に迫随できる程度に速く,再溶融の高い温度における重縮合平衡定数の低下により重合度が低くなるものと考えられる。
    大口径モデルロッドを固相重合し,半径方向の相対粘度分布を測定したところ,表面層と中心部において相対粘度が高く,中間部は低い傾向が見られた。しかしながら,小粒のペレットではこのような相対粘度の分布は認められなかった。
  • 太田 道也, 大谷 杉郎, 飯塚 晋司, 沢田 剛, 太田 悦郎, 小島 昭
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 343-350
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ピレンとフェナントレンのモル比7/3の混合物(Aro)とベンゼンジメタノール(PXG)のジメチル誘導体(DM)とを酸触媒(PTS)下で反応させることによって,縮合多環芳香族炭化水素の重縮合体(COPNA)樹脂を得ることができた。DMは,2,4-ジメチル-1,5-ベンゼンジメタノール(DMMXG)と2,5-ジメチル-1,4-ベンゼンジメタノール(DMPXG)の2種類を使用した。合成の反応速度と得られた樹脂の性質について,すでに報告したPXG系のCOPNA樹脂を同じ条件で反応させたときの場合と比較検討した。
    反応は,DM/Aroのモル比0.75~2.OOの混合物にPTSをその混合物量の0.5~5.Owt%加え,アルゴン気流中,120℃ で加熱した。DM系の合成の反応速度はPXG系の場合よりも速く,また,反応温度,PTS添加量,PXG/Aroのモル比によっても左右された。Bステージ樹脂を調整するための最適条件は,つぎに示すとおりである。DM/Aro:1.25,PTS:3wt%,反応温度:120℃,反応時間:15~18分。同じ条件下では,PXG系は反応に33分を要した。
    生成物のIR,NMRおよびUVスペクトルの結果によるとDM系COPNA樹脂の反応機構は,PXG系樹脂の場合と同じであることがわかった。得られた樹脂は,後硬化処理後でも,PXG系にくらべるとかなりもろく,しかも約470℃ の熱分解温度を示し,PXG系の場合よりも低い。上に述べたDMとPXGとの違いは,DMの2個のかさだかいメチル基による立体的効果と,電子供与性効果とに起因すると思われる。
  • 金 〓官, 吉野 邦彦, 長谷川 洋, 安井 至
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 351-356
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    フェライトの湿式生成過程に重金属イオンを共存させると,重金属含有フェライトとして沈殿する。この原理に基づいた工業廃液の処理法が実用化されている。今回,本法の源液および沈殿物の分析から重金属イオンの処理限界および処理限界を越えたときの重金属イオンの存在形態と沈殿物の性質について検討を行なった。
    重金属イオンNi2+,Cr3+,Cr(VI)について,FeSO4・7H2O0.1mol/lに対し500~4000ppmと変化させたところ,Ni2+,Cr3+およびCr(VI)のフェライトへの固溶限界量はそれぞれ3000ppm(Ni/Fe≒0.51),1500ppm(Cr/Fe≒0.29),l000ppm(Cr/Fe≒0.19)であった。固溶限界を越えたとき,固相中にNi2+はNa2Ni(SO4)2として存在するが,Cr3+とCr(VI)の存在形態は確認できなかった。溶液の分析の結果,濃度4000ppmまでのNi2+,Cr3+は排出基準以下まで除去されたが,Cr(VI)は1000ppm以上となると多量に残存した。
    得られた各沈殿物はいずれも約0.1μmのほぼ球形粒子の凝集体であった。Ni2+含有沈殿物は固溶限界より低い濃度すなわち500~1000ppm付近まではスピネル単独相であり,1500~3000ppmではスピネル,Na2SO4などの共沈物であった。さらに固溶限界より高い濃度ではスピネル,Na2SO4およびNa2Ni(SO4)2などの共沈物であった。Cr3+およびCr(VI)含有沈殿物は固溶限界より低い濃度ではスピネル単独相であり,固溶限界より高い濃度ではスピネル,Na2SO4などとの共沈物であった。
  • 千葉 淳, 小川 忠彦
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 357-359
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    The effect of magnetic field on the dissolution of ir on plate in a hydrochloric acid solution has been studied by the measurement of the dissolution rate for 24 hours at 25°C with batch method. The magnetic field effect was dependent on the experimental conditions: When magnetic flux density of 0.15 T was applied, the dissolution was retarded in the solutions below 2.5 mol·dm-3 hydrochloric acid, but accelerated in the solutions above 2.5 mol·dm-3. Dependence of corrosion potentials and corrosion current densities on the hydrochloric acid concentration showed analogous behavior. The magnetic field effect was independent of crystal faces of the iron plate and of the magnetic flux density between 0.07 and O.15 T. The magnetic field affected the anodic reaction(Fe→Fe(II) +2 e) remarkably and promoted the oxidation of Fe(II) to Fe(III) in the hydrochloric acid solution.
  • 計良 善也, 山本 隆
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 360-362
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    The adsorption of Cu(II) and Ag(I) ions on an active carbon fiber felt(KF-felt) was studied in connection with preparation of an air electrode. The activities of Cu- and Agdeposited electrodes were measured in reference to a zinc electrode, in comparison with the previous results for Ni, Pd, and Pt metals. The maximum power(Pmax) of the zinc-air cell at 40°C in air increased with the amount of copper deposit up to 38 mg/g-felt, which was similar to the case of the nickel-deposited electrode. The Pmax on Ag/KF-felt increased almost linearly up to the limited 209 mg/g-felt, which was superior to the values on Pd and Pt/KF-felt. Based on the discharge current measured at 1 V in the temperature of 40 to 60°C, the apparent activation energy(Ea) for oxygen activation process on 'Cu(38 mg) and Ag(209 mg)/KF-felt were estimated as 30 and 9 kJ/mol respectively. Such low Ea in Ag, 50% less than in platinum, suggested a quite high activity of silver metal on KF-felt. The current density for the Ag/KF-felt, measured at 50°C in oxygen stream under 1 V, in fact, was 100% higher than that for Pd and 37% higher than that for Pt/KF-felt. The current density for the Cu/KF-felt was 60% higher than that for Ni/KF-felt.
  • 在間 忠孝, 松野 千加士, 三橋 啓了
    1988 年 1988 巻 3 号 p. 363-367
    発行日: 1988/03/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Several bismaleimides were treated with 1, 1′-bis(methoxycarbonyl)divinylamine(BDA)under photoirradiation. Whereas the equimolar reaction gave a mixture of 1: 1- and 2: 1cycloadducts, the use of twice molar amount of BDA to bismaleimides afforded only 2: 1adducts, novel bis-type 7-azanorbornane derivatives, in fairly high yields. Spectral analyses of the products showed that the cycloaddition proceeded stereoselectively, giving the exoadducts.
    Difference of the reactivity of bismaleimides from that of conjugated unsaturated compounds, reported previously, is discussed.
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