フェニル酢酸ο-トリル[1]の沸騰クロロベンゼン中におけるAlCl
3を触媒として用いたFries転位では,58.0%の収率で4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル=ペンジル=ケトン[8]が得られたが,2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル=ベンジル=ケトン[9]の収率はきわめて低かった(図1)。この反応で生成した[9]は逆Fries転位によって[1]に変わるが[8]から[1]への変換はわずかであって,このためクロロペンゼンを用いた[1]のFries転位は低いオルトーパラ比([9]/[8])を与えている(図1,表4)。
沸騰ニトロメタン中フェニル酢酸m-トリル[2]のFries転位では,2-ヒドロキシ-4-メチルフェニル=ペンジル=ケトン[15]の収率が反応時間とともに増加し,4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル=ベンジル=ケトン[16]の収率は減って,3時間後には高いオルトーパラ比([15]/[16]=15.3)を与えた(図2,表2)。
フェニル酢酸p-トリル[3],フェニル酢酸2,4-キシリル[4]およびフェニル酢酸2,6-キシリル[5]を同じ反応条件でFries転位を行なって,得られたそれぞれの転位生成物収率を比較したところ,4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニルニペンジル=ケトン[13]の収率が,2-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル=ペンジル=ケトン[14]や2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル=ベンジル=ケトン[17]の収率より高かったので,パラ転位はオルト転位より速く進むことがわかる(表3)。
[4]および[5]をそれぞれAlCl
3存在下トルエン中で還流すると,[14]と[15]の収率はいずれも低くなり,2-トリル=ベンジル=ケトン[6]と4-トリル=ベンジル=ケトン[7]が生成した(表3)。[6]と[7]の収率および生成物比([6]/[7])のいちじるしい違いを考慮すると([4]から[6]:7.0%,[7]:4.1%,[6]/[7]=1.71。[5]から[6]:3.8%,[7]:47.2%,[6]/[7]=0.08),パラ転位は分子間性であり,オルト位への転移は分子内転位であると考えられる(表3)。
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