海鞘類に濃縮されている金属元素を特定するために,誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて,AI,Ba.Ca,Cd,Ce,Co,Cr,Cu,Fe,Hf,La,Mg,Mn,Mo,Nb,Ni,P,Pb,Sc,Sr,Ta,Ti,V,W,Y,Zn,Zrの27元素を選び04種の海鞘類を最大9組織に分け,同一試料からの分析を試み・各組織の元素含有量を調べた。さらに,海鞘類のえさと考えられる2種のプランクトン(またはネクトン)についても,同じ分析を行った。その結果マボヤ(Halocynthia roretzi),シロボヤ(Styela plicata)およびカラスボヤ(Pyura uittata)の各組織には,本報告で分析された元素の中では, V,Nb,Ta などの元素の濃縮は認められなかったが,マミラータ(Phallusia mammillata)には,Vが組織によって 190~810μg/g乾燥重量濃縮されていることがわかった。この分析に先立ち,分析手順を検定するために,国立環境研究所(旧公害研究所)の海産生物標準試料 NIES No.6 ムラサキイガイを分析した。保証値,参考値の報告されている元素では, Cr,Co に問題はあるが, Ca,Zn (5%以内の精度), Cd,Cu,Ni,Fe,Mg,Mn,Pb,Al,P,Sr は,1ケタの精度・確度の分析には十分耐えられることがわかった。また,これら以外の元素については,濃縮元素として重要だと思われる 100μg/g 乾燥重量程度の添加回収率の測定により,このレベルでは十分に分析が可能であることを確認した。
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