日本化学会誌(化学と工業化学)
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1999 巻, 2 号
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  • 犬塚 功三
    1999 年 1999 巻 2 号 p. 77-85
    発行日: 1999/02/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    3-メチルビラゾールの溶液状態における分子種の決定ならびに3-メチルビラゾール-酢酸系における酢酸との相互作用による,水素結合体ならびにプロトン移動による3-メチルピラゾリウム酢酸塩のようなカチオン体の生成を明らかにするために,IRスペクトルと分子軌道法によるモデルの安定化エネルギーと基準振動計算を行った.これらの結果によって以下のような結論を得た。(1)溶液状態では3-メチルビラゾールは単量体と二量体ならびにその異性体である5-メチルピラゾールの単量体と二量体の4種類の分子種が存在する.(2)酢酸を添加した系では3-および5-メチルビラゾ-ルは酢酸との間に水素結合体を形成し,さらにプロトン移動によつて生成したカチオン体が存在する.水素結合体ならびにこれらのカチオン体の存在はIRスペクトルによつて確認した。(3)3-および5-メチルビラゾールの水素結合体に対する基準振動は,両者においてあまり差がないので,IRスペクトルでは両者を区別することはできない。(4)プロトン移動によつて生成したカチオン体を通して,3-メチルビラゾールと5-メチルピラゾール間の異性化は可能である。(5)構造最適化によつて求めた3-メチルピラゾールに関連したモデルのN-H結合距離とその伸縮振動数(V)の間には直線関係が存在する。IRスペクトルにおいて,関連化合物の伸縮振動に帰属した吸収帯の波数はこの直線に沿つていることが判明した。
  • 和田 美記子, 長谷川 美貴, 小林 迫夫, 吉永 鐵太郎, 平塚 浩士, 星 敏彦
    1999 年 1999 巻 2 号 p. 87-92
    発行日: 1999/02/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    トロポロソとニッケル(II)の間に形成される2種類の錯体,単量体troNi(II)および二量体(troNi(II))2について,NMR,X線光電子,電子吸収スペクトルの測定を行い,この結果と分子軌道計算から,これらの錯体の電子および分子構造について考察した。固体状態でtroNi(II)の中心金属は,四面体構造のsp3混成を取っている.一方,溶液状態では溶媒分子が配位し,中心金属は八面体構造のd2sp3混成になる.また,溶液状態で2個のトロポロナトイオソは共平面上にあり,トラソス的に配位している。エタノール中で観測されるtroNi(II)の402,339および240.2nm帯は,計算によるππ2,ππ3およびππ11遷移に帰属される.674m付近に観測される弱い吸収帯は,d-d遷移に基づくものである。XPSで観測されるtroNi(II)のNi2p帯は857.8eVに,(troNi(II))2のNi2P帯は858eVにある.両帯は高エネルギー側にシェークアップに基づく副帯を伴つており,両錯体が固体状態で常磁性であることを示している。
  • 大石 修治, 森川 宏樹, 干川 圭吾, 北村 健二, 小林 壮, 若林 信一
    1999 年 1999 巻 2 号 p. 93-96
    発行日: 1999/02/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Na2MoO4フラックスの徐冷による液相エピタキシャル法で,八面体のCaMoO4基板結晶(約3mm×3mm)の麺上にネオジムを含むCaMoO4:Nd離結晶を育成した.少量のネオジムを漁したCaMoO4(28.5mo1%)-Na2MoO4(71.5mo1%)組成の高温溶液(1000℃)中に基板結晶を浸し,6℃h-1の速度で冷却した。きわめて淡い紫色透明で厚さが約58μmまでのCaMoO4:Nd薄膜結晶が基板結晶の表面上にエピタキシャル成長した.徐冷温度範囲によつて薄膜結晶の厚さが変化した.薄膜結晶の大きく発達した結晶面の指数は,[112]であつた。ネオジム濃度は,薄膜結晶中でほぼ均一であった。フラックスの構成元素であるナトリウムも薄膜結晶中に固溶していた。
  • 岡島 俊哉, 深澤 義正
    1999 年 1999 巻 2 号 p. 97-103
    発行日: 1999/02/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    [2,3]-Wittig転位は炭素-炭素結合を構築する最も有用な反応の一つであり,適切な基質を選択すれば,薪たに生成する不斉炭素上の立体化学も制御しうる(Chart1).著者らは[2,3]-Wittig転位の遷移状態における反応中心の構造として提案されている三つのエンベロープ構造のうち,Rautenstrach型(1)およびTrost型(II)の遷移状態のC1およびC5炭素上に最も簡単なアルキル基としてメチル基を置換したモデル化合物(1および2)を設定し,リチウムイオンに配位する溶媒分子による遷移状態の構造や相対エネルギーの変化を調べた。遷移状態の構造最適化にはRHF/3-21G基底,エネルギー計算には密度汎関数法(DFT理論,Becke3LYP/3-21Gレベル)を用いた。計算の結果,以下の知見を得ることができた。
    (1)Trost型遷移状態においては多中心相互作用のため,無溶媒系ではI型よりII型の方がはるかに有利である.しかしながら,Liへの溶媒の配位によりII型に対してI型の安定化が極めて大きくなる。
    (2)II型構造においては,Liに2分子の溶媒が配位しているにも関わらず,C4炭素とLi間のクーロソ相互作用は切断されない.
    (3)一般に,シスオレフインの反応においては,無溶媒系ではII-XCが優先生成物を与えるIXC,E-NCよりも安定となる.しかしながら,配位する溶媒分子が増えるにしたがいそのエネルギー差が小さくなり,I型に特有の3分子配位系ではI-NCと優先生成物を与えるI-XCの差はほとんどなくなる。
    以上の知見は,[2,3]-Wittig転位における立体選択性の制御に溶媒効果が大きく関与することを示している.また今回の,遷移状態における溶媒関与を含めた研究から,[2,3]-Wittig転位においてRautenstrach型エソベローブ構造(I)がTrost型(II)より溶媒による安定化を大きく受けることがわかった。シスオレフイン1の反応では,無溶媒系では立体選択性を再現することが困難であつたが,溶媒の関与を考慮することによりシスーエリトロ選択性も含めた系統的な説明が可能になることが期待される。
  • 小川 和郎, 西川 彩成, 山崎 偉三雄, 吉村 敏章, 小野 慎, 蓮覚寺 聖一, 中村 優子, 島崎 長一郎
    1999 年 1999 巻 2 号 p. 105-112
    発行日: 1999/02/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    非環状シアナミド類がWaxyComStarch(WCS)懸濁液の糊化に及ぼす影響を,示差走査,熱量計,X線回折,全反射法によるフーリエ変換赤外分光分析を用いて検討した.WCSはアミロペクチンのみで構成されるためデソプンのモデル化合物として用いた.尿素,チオ尿素,ビウレットを添加したWCS懸濁液は,無添加の懸濁液と比較して,添加物の濃度増加とともに糊化温度が下降した.これらの結果から,糊化の促進効果は添加物のアミノ基,イミノ基,カルバモイル基,およびチオカルバモイル基がWCS分子のヒドロキシ基と容易に水素結合を形成することによつて,WCS分子内あるいは分子間の水素結合が切断されることによつて起こつたものと考えられた。一方,グアニジニウム塩を低濃度で添加した懸濁液の糊化温度は無添加の懸濁液と比較して上昇し,高濃度で添加した懸濁液の糊化温度はグアニジン塩酸塩を除くすべてのグアニジニウム塩で上昇を続けた。糊化の阻害効果はグアニジニウムイオンによるものではなく,グアニジニウム塩を形成するアニオンに起因すると考えられた。
  • 渡部 修, 長井 勝利
    1999 年 1999 巻 2 号 p. 113-121
    発行日: 1999/02/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ウルシオールの分子構造から想定される,漆中で逆ミセル構造をとつた分子集合体を電子線マイクロアナライザー(EPMA)によつて調査した.鉄イオンを含む漆塗膜を分析した結果,くろめ過程からの硬化物が逆ミセル構造の集合体を形成していることを示していた。
    異なる条件の下で硬化させた漆塗膜の光劣化について,曝露時間に対するIRスペクトル,含有酸素量,昇温加熱時の発熱量の変化により検討した。その結果は漆塗膜における逆ミセル構造を指示することとなった。
    さらに,この研究で行つた測定結果は,光劣化の初期状態の評価に有用な情報を与えることがわかった。
  • 渡部 修, 長井 勝利
    1999 年 1999 巻 2 号 p. 123-130
    発行日: 1999/02/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    漆塗膜の色差,光沢度,表面形状を測定することで,各々光劣化について推察することができ,そしてその結果を受けて前報で提案した漆塗膜の逆ミセル構造に基づいて内部構造と光劣化の機構を討議した。劣化は視覚的に捉えられる現象と化学的な構造変化とを相互に関係づけることによって容易に評価できることがわかった。
    逆ミセル構造を持つ粒子の化学的な劣化は,色差を測定することによって得られる色の変化で評価することができた。赤色系の減衰,黄色系の呈色,白色度の増加の明確な傾向は,曝露時間の作用に伴つた硬化漆塗膜の測定から確認された。
    さらに光沢度と表面形状の測定結果から,逆ミセル間の弱い相互作用のために硬化漆塗膜から逆ミセル構造粒子が解離することが示唆された。曝露時間に対するこれらの結果の違いは解離する粒子の大きさの違いによると推論した。
    これらの研究で得られた結果は,ウルシオールが漆塗膜で逆ミセル構造をとっていることを指示する結果となった。
  • 岩元 隆志, 木下 尚志, 正本 順三
    1999 年 1999 巻 2 号 p. 131-136
    発行日: 1999/02/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ビスフェノールAとテレフタル酸ノイソフタル酸ジフェニルエステル(反応物のモル比1/0.510.5)との溶融重縮合により得られたオリゴエステル(以下ポリアリーレートという)を適当な結晶化溶剤と接触させることにより,結晶化させることに成功した。オリゴマーの結晶化は溶解度パラメータ-が8から10の値を有する溶剤中で可能であった.このポリアリーレートの融解熱は2から20J/9であり,また,融点は用いた結晶化溶剤および用いたオリゴマーの還元粘度により140から220℃ の間で変化した.同一オリゴマーを用いて結晶化させた場合には,融点は融解熱の上昇と共に増大したが,還元粘度の上昇と共に,融解熱は減少した.一方,融点およびガラス転移点は,還元粘度の上昇と共に増大し,最後には一定値となった。この溶剤により結晶化が誘導されたオリゴマーはX線図からも部分的に結晶性であることを示していた。光学顕微鏡により球晶構造を観察し,詳細な構造を走査電子顕微鏡で観察した。
  • 白樫 高史, 田中 邦明, 田村 寿康, 吉原 佐知雄
    1999 年 1999 巻 2 号 p. 137-143
    発行日: 1999/02/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Br-共存下に活性炭へHg2+を吸着させ,吸着後の溶液中の全水銀濃度およびBr-イオン電極による測定値から算出した全Br-イオン濃度から活性炭へ吸着した水銀錯体の平均配位数を算出するとともに,水銀を吸着した活性炭を熱分析することにより活性炭への水銀の吸着状態を検討した.活性炭としてはヤシガラ系および石炭系のものを用いた.熱分析の結果から,中性条件では活性炭はHg2+を還元し,その還元力はヤシガラ系の方が石炭系より大きいことが明らかとなつた.吸着の平均配位数を解析した結果,中性では還元態の水銀のほかに,[HgBr2],[HgBr3]-の吸着があり,これらの錯体の吸着性は両活性炭で大差ないことが示された.酸性では,還元態の吸着は少なく,[HgBr2],[HgBr3]-の吸着が主であるがBr-濃度が高くなるとBr-あるいは[HgBr4]2-の吸着も存在することが示唆された.また,[HgBr3]-の吸着性は両活性炭で大差なかつた.これらのことから,Br-共存下での活性炭へのHg2+の吸着状態は単一ではなく,液性,Br-濃度あるいは活姓炭の種類により異なることが明らかとなつた.
  • 香山 英彦, 澤口 昌弘, 永田 親清
    1999 年 1999 巻 2 号 p. 145-148
    発行日: 1999/02/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    The effect of microwave irradiation on Michael addition of β-dicarbonyl compounds (acetylacetone, methyl acetoacetate, dimethyl malonate and diethyl ethylmalonate) to methyl vinyl ketone was investigated by using six different metal acetylacetonate catalysts, i. e., Cr (acac)3, Mn (acac)2, Fe (acac)3, Co (acac)2, Ni (acac)2 and Cu (acac)2 without any solvent.
    The microwave irradiation markedly accelerated the addition reaction, reducing the reaction time dramatically in comparison with the case of mechanical stirring (1/100 1/1400). The yields of the products were also moderately improved, and the values of the yield were dependent on the metal acetylacetonate catalysts. Thus, the order was well correlated with the electronegativity of the metal cation of the metal acetylacetonate catalysts.
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