日本化学会誌(化学と工業化学)
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1996 巻, 11 号
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  • 鷲田 伸明
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 921-931
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    大気の化学は大気中の分子,特に微量成分気体の起源,大気中での反応,大気中での蓄積やその分布・変動をあつかう化学である。したがって,大気中での微量気体の光化学反応や,それに続くフリーラジカル反応は,大気中での微量気体の蓄積や分布・変動を理解する上で重要である。本論文においては,光イオン化質量分析法を用いたフリーラジカルの直接検出とそれを用いたフリーラジカル反応の反応速度と反応機構の決定について報告する。光イオン化質量分析法は反応中間体であるフリーラジカルを選択的に高感度で検出できる方法で,特に炭化水素を中心とする多原子のブリーラジカルの検出に有効である。ここでは希ガスの共鳴線を光イオン化光源に用いたラジカルの検出例を紹介する。次にこの方法による炭化水素フリーラジカルと酸素原子,酸素分子の反応の速度と反応機構の決定法について述べる。特に放電流通法やレーザー閃光光分解と光イオン化質量分析計の組合せを用いた反応速度の決定と反応速度の評価が述べられている。すなわち,酸素原子との反応では全て気体の衝突頻度に近い非常に速い反応であること,反応の中味には付加型と水素原子の引抜き型の 2 種類があることが述べられる。酸素分子の反応は,アルキル,ヒドロキシアルキル,置換メチルラジカルと酸素分子の反応を中心に紹介され,全て三体反応で,その高圧限界速度(R値)とラジカルのイオン化電圧や電気陰性度との相関が議論されている。最後に大気化学におけるフリーラジカル連鎖反応の例として,光化学チャンバーによるフロンによるオゾン破壊モデル実験の例が示される。
  • 梅田 実
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 932-937
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Extrinsic 型の光キャリヤー発生機構を示す積層有機感光体(0PC)のキャリヤー発生過程を朗らかにし,かつ高感度化設計指針を得ることを目的に,電荷発生層(CGL)にトリフェニルアミン構造を中心とするトリスアゾ顔料と電荷輸送層(CTL)に N,N-ジフェニル-4-ビフェニリルアミン誘導体を用いた積層 OPC のキャリヤー発生について調べた。その結果,光キャリヤー発生経路は,(i)アゾ顔料の光吸収により CGL バルクで生成した励起子が, CGL/CTL 界面へ拡散する過程と,(ii)励起子が,基底状態に失活する過程と競争して,電荷輸送材料(CTM)と光誘起電子移動によりジェミネートペアを形成する過程と,(iii)ジェミネートペアがジェミネート再結合を逃れてフリーキャリヤーに解離する過程よりなることがわかった。提出された overall の量子効率を表す速度式から,キャリヤー発生効率は四つのキー反応に集約できることがわかり,その式に基づき OPC の高感度化の方向性を明確化することができた。また,光キャリヤー発生に関与する CGL/CTL 界面の電子移動反応は,頻度因子が小さいことから,電荷発生材料と CTM の接触状況が著しく低いことが示唆された。
  • 上原 麗樹, 佐治 哲夫
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 938-943
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    カラー写真に用いられる発色現像主薬(PPD)の電解酸化および後続のカップリング反応による有機色素薄膜の作製法について検討した。ITOを指示極とし,窒素置換した 0.1M(1M=1mol dm-3)NaOH の水溶液に PPD と,その 2 倍の濃度のカプラーを加え,定電位電解したところ,三原色 の透明で均一な薄膜が生成した。薄膜の SEM 像写真より,薄膜は直径が 0.1μm 程度の粒子より構成されており,膜厚は 0.4~0.5,μm であった。薄膜作成から 1 か月後の色素の吸光度変化から,安定な色素薄膜を与える最適な現像主薬とカプラーの組み合せを求めた。サイクリックボルタンメトリーにより, PPD の酸化により生成するキノンジイミン(QDI)の脱アミノ化速度と色素形成速度を求めた。これ らの速度より, pH は 9 から 11 の範囲が最適であることがわかった。マゼンタ色素薄膜作成時におい てPPD の濃度が 4mM 以下で均ーな薄膜が得られなかった理由は QDI の脱アミノ化にあり,生成した キノンが均一な色素薄膜の生成を妨げていることがわかった。また,色素薄膜作成における電流効率が PPD の濃度の高いほうが良い理由は,脱アミノ化の速度に比べ,色素生成速度が速くなるためであ ることが明らかとなった。
  • 石田 浩, 小野 満司, 加地 元, 渡部 敦司
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 944-951
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    2-シクロヘキセン-1-オールの液相脱水による 1,3-シクロヘキサジエンの合成反応をゼオライトやイオン交換樹脂を中心とした固体触媒を用いて検討した。
    その結果, H-ZSM-5 とイオン交換樹脂・アソバーリスト-15 が 40% 以上の収率で 1,3-シクロヘキサジエンを与えたが,他のゼオライトでは主生成物はジシクロヘキセニルエーテルであり,1,3-シクロヘキサジエンの収率は極めて低かった。
    反応経路を,イオン交換樹脂と H-ZSM-5 について調べた結果,イオン交換樹脂では 2 分子間の脱水で生成するジシクロヘキセニルエーテルを中間体とする逐次反応経路で進行していること,および,生成した 1,3-シクロヘキサジエンがさらに逐次反応で重合物に転化しやすいことがわかった。一方, H-ZSM-5 では 4-メチルキノリンの被毒実験から,ジシクロヘキセニルエーテルは主として細孔 外酸点で生成しており,細孔内では形状選択性によりジシクロヘキセニルエーテル生成が抑制されるために,主として 2-シクロヘキセン-1-オールからの直接脱水経路によって 1,3-シクロヘキサジエンが生成していること,および,形状選択性によって重合物の生成が抑制されていることがわかった。
    他のゼオライトにおいて主生成物がジシクロヘキセニルエーテルである理由について酸強度,細孔の大きさ,失活速度から考察した結果, H-Yでは酸強度が弱く,また,細孔が大きいため分子径の大きい中間体であるジシクロヘキセニルエーテルで反応が止まるものと考えた。一方,H-β,H-モルデナイトでは,酸強度的には 1,3-シクロヘキサジエンが生成可能であるが,活性が高く,細孔が大きいため分子径の大きい 1,3-シクロヘキサジエンの重合物が生成しやすく,失活が非常に速いために中間体のジシクロヘキセニルエーテルで止まるものと考えた。
    以上の点から,ゼオライトでは H-ZSM-5 が,酸強度,形状選択性の点で 1,3-シクロヘキサジエン生成に有利であり,また,形状選択性により重合物が生成し難いため,失活の点からも 1,3-シクロヘキサジエン生成に有利なことがわかった。
  • 古澤 源久, 橘 正樹, 菖蒲 智之, 市岡 謙二
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 952-957
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    多環芳香族化合物をシンクロ蛍光法で定量する際,通常法と比較して,定量限界ならびに分析精度が劣ることのない測定条件を求めた。シンクロ蛍光法で分析する際の精度は,測定波長間隔の設定の正確さ,ならびに波長間隔の変化に伴うシンクロ蛍光強度の変動割合の大きさが関係している。同時定量の際,ある成分に適した測定条件が,必ずしも他の成分の定量に適しているとは限らない.フルオレン,カルバゾール,アントラセンの混合溶液の場合には,波長間隔を狭くして,例えば, 6nm で測定すればシンクロ蛍光スペクトルは分離するが,各成分に適した測定条件とは一致しないので,相対標準偏差は 2.4~3.8% であり,通常法と比較して誤差が大きい。この混合溶液のシソクロ蛍光強度を求める際,スペクトルを測定する波長領域を,適当な波長範囲に分けて,各成分に特有な波長間隔でスペクトルを測定する。これからシンクロ蛍光強度を求めて定量したときの相対標準偏差は,いずれも 1% 以内であった。波長間隔は 13~24nm で測定できるので,通常法と比較して定量限界および精度が劣ることのない測定条件が得られたこの方法をアントラセンソケーキ中の各成分の分析に応用したところ,良好な結果が得られた。
  • 澤本 博道
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 958-963
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    ニトリル類化合物の吊下水銀滴電極での吸着-脱者挙動を微分容量一時間曲線を測定するフローインジェクション法により研究した。研究した物質はアセトニトリル,ブチロニトリル,バレロニトリルであった。-0.6V におけるアセトニトリルの吸着は不可逆,バレロニトリルの吸着は可逆,吸着したブチロニトリルの一部は脱着する。吸着させる電位を変化させると,アセトニトリルの場合 -0.4V から不可逆的に吸着しはじめ, -0.6V までは不可逆吸着, -0.7V では吸着したアセトニトリルの半分は脱着する。 -1.2V になると,完全に可逆吸着となる。ブチロニトリルの場合は不可逆吸着が -0.45Vから -0.55V までみられるが, -0.6V では吸着したブチロニトリルの半分は脱着する。 -0.7V ではほぼ可逆で, -1.0V になると完全に可逆になる。バレロニトリルの場合は, -0.45V で不可逆吸着であるが, -0.5V からほぼ可逆吸着になる。不可逆吸着はシアノ基を電極に向けて吸着しており,・可逆吸着はアルキル基を電極に向けて吸着していると考えられる。また不可逆吸着は第一水分子層の水分子との交換であり,可逆吸着は電極に直接接していない水分子または水和カチオンとの交換であると考えられる。
  • 町野 彰, 秋山 順一, 内田 郁野, 松延 邦明, 吉森 貴柱
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 964-968
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    テトラヒドロチオフェン(THT)は,国内において最もよく使用されている都市ガス用付臭剤である。都市ガスの品質を管理するために THT 簡易測定法の開発が求められている。そこで,著者らは天然ガス中の THT を測定するための検知管を開発した。この検知管は検知剤および硫化水素除去剤から構成されている。検知剤には,シリカゲルに担持した過マンガン酸カリウムを用いた。過マンガン酸カリウムによる THT の酸化反応の際の変色によって THT 濃度を測定することができる。試作検知管を用いて測定濃度範囲,変色層の長さに対する測定温度・妨害物質などの影響について検討した。その結果,(1)293K における測定範囲は,検知管式ガス測定器で天然ガスを 1 回吸引した場合において 10~200ppm(vol)であること,(2)天然ガス中に妨害物質であるエチレン,プロピレン,硫化水素およびエタンチオールが単独で存在する場合でも,それぞれの濃度が 5000, 2000, 300, 3.Oppm(vol)までは測定値に影響を及ぼさないことがわかった。
  • 阿部 芳首, 元山 賢一, 小林 孝之, 岩崎 智之, 郡司 天博
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 969-974
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    トリイソシアナトシランもしくはテトライソシアナトシランとエタノール,イソプロピルアルコール,かブチルアルコールとの反応により,アルコキシイソシアナトシランを合成した。この反応でのイソシアナトシランの温和な置換反応性に基づき,アルコールの立体因子や反応モル比および触媒などの反応条件を選択,検討したところ,置換反応が容易に制御され,アルコキシ基で部分置換された各誘導体が選択的に生成した。
  • 大植 弘義, 藤原 秀樹, 松田 治和
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 975-980
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    溶融金属カリウムを用いる石炭の還元メチル化反応で,炭化度の異なる 2 種の石炭を用いて,反応の第 1 段階のアニオン化時に超音波(US)照射を併用し,照射時間の変化に伴う可溶化物収率やその成分の構造について考察し, US 照射による可溶化性と石炭化学構造との関係について検討した。その結果, US 照射を併用すると,石炭中の構造単位体間を結ぶエーテル結合の切断反応と,これに続く芳香環の還元メチル化やメチル化およびヒドロキシ基のメトキシ化が反応初期段階で顕著に進行し可溶化性が短時間で向上した。また反応の初期以降においては,高石炭化度炭ではこれらの諸反応が引き続き進行して可溶化性が顕著に増大した。一方,低石炭化度炭ではこの傾向は認められなかった。このように炭種により可溶化性に違いが認められることは, US 照射に基づく長鎖アルキル側鎖による絡み構造の緩和,芳香族積層構造の緩和およびヒドロキシ基による架橋構造の緩和がそれぞれ影響していると推察される。すなわち, US 照射による効果は,もとの石炭化学構造の違いによってかなりの差異のあることが認められた。
  • 稲垣 健治
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 981-986
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    抗癌活性白金錯体の nonleaving ligand が,その主要標的である隣接グアニン塩基(GpG)との付加物に及ぼす影響を 1H-NMR により調べた。シクロヘキサンジアミン白金(II)錯体の誘導体であるdichloro (1R,2S,3R)-3-methylcyclohexanediamineplatinum(II)(以下 Pt(RSiR-dach)Cl2 と略す)とr(GpG)を反応させると,Pt(RSR-dach)が両グアニン塩基の N7 間を交差結合した 2 種類の 17 員環キレート,Pt(RSR-dach)(GpG-N7,N7),が生じる。この 2 種類の異性体の構造を 1H-NMR により明らかにした。さらに, nonleaving ligand である RSR-dach 部分が配位 GpG 部分に及ぼす影響およびGpG 部分が配位 RSR-dach 部分の立体配座に及ぼす影響を調べた。 2 種類の異性体の RSR-dach 部分の立体配座には違いは見られなかった。 GpG 部分については,二つのグアニン塩基を結んでいるリン酸ジエステル結合の立体配座に違いがあることが強く暗示された。抗癌活性白金錯体と GpG との付加物において, nonleaving ligand は GpG のリソ酸ジエステル結合部分の立体配座に影響を与えると考えられる。
  • 石原 良美, 高野 二郎, 安岡 高志, 光澤 舜明
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 987-990
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    近年,芳香族ニトロ化合物は動植物の代謝系に影響を及ぼすことが報告されており,また環境汚染物質の一つとして注目されている。芳香族ニトロ化合物のうちアニリン,フェノール,アニソール,トルエン,安息香酸,ベソゼンのニトロ化合物について 20℃ における水への溶解度を TOC (全有機炭素量)法により測定した。
    その結果,芳香族ニトロ化合物の溶解度と融点との間には一次相関関係が存在し,アニリン,フェノル,アニソール,トルエン,安息香酸,ベンゼンを母核とすると,各々母核ごとに一次方程式で表ーすことができた。また,測定した芳香族ニトロ化合物のうち,オルト位に置換基を有する化合物の溶解度は,母核に関係なく融点との間に一次相関関係が存在することがわかった。芳香族ニトロ化合物の水に対する溶解度は測定の簡便な融点からある程度予測できる可能性を見いだした。
  • 宍戸 統悦, 鄭 玉桐, 堀内 弘之, 吉川 彰, 細谷 正一, 戸澤慎 一郎, 齊藤 晃宏, 田中 雅彦, 福田 承生
    1996 年 1996 巻 11 号 p. 991-994
    発行日: 1996/11/10
    公開日: 2011/05/30
    ジャーナル フリー
    Crystalline phase of CeGaO3 has been successfully synthesized by two kinds of methods; arc- and skull- melting methods. In the case of arc -melting method, CeGaO3 is finally obtained by a reaction of Ce2O3 and Ga2O3, where, Ce2O3 is produced by a “thermal effect on the reduction” from the source CeO2 in the first reaction stage. On the other hand, in the case of skull-melting method, . CeGaO3 is obtained by a “direct reduction” of Ga2O3 by Ce. Both crystallographic data on CeGaO3 obtained by two methods are consistent. The structure belongs to tetragonal system with space group, P4/mmm, which is different from cubic system as reported in literatures. Lattice constants are a= 0.3873 (1) nm, c= 0.3880 (1)nm, V= 0.5819 (3) x 10-28 m3, Z=1. This compound is unstable at high temperature in air and decomposes to CeO2 and Ga2O3 by heating up to 1250°C.
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