3,4-ジヒドロキシ安息香酸(プロトカテク酸,PAH)をエステル結合でβ-シクロデキストリン(β-CD)のC-6位またはC-2位に一置換修飾した配位子(β-CD-6-PAとβ-CD-2-PA)を合成した。それら配位子と鉄(III)の錯体を触媒とし,過酸化水素(H
2O
2)によるHamilton類似系でのベンゼンの直接ヒドロキシ化反応を試み,PA基の反応に及ぼす置換位置効果などについて検討した。鉄(III)とβ-CD-6-PAはpH2.5で1:2,pH6.0で1:3のキレート錯体を形成し,それらの錯体の安定性は1:3錯体(λ
max536nm,ε=2030,logK′=13.8)»1:2錯体(λ
max667nm,ε=860,logK′=8.66)であった。これらの錯体構造はベンゼンのヒドロキシ化反応に大きな影響を与え,触媒量(H
2O
2基準で0.005モル量)の1:2錯体(pH2.5)反応ではH
2O
2基準での収率は99%以上,ターンオーバー数200の最大の反応活性を示したが,1:3錯体触媒(pH6.0)は全く反応を活性化しなかった。プロトン濃度の高いpH1.0では錯体は形成されず,反応活性は著しく低下した(収率(H
2O
2基準)11.4%)。pH2.5でC-6およびC-2修飾体触媒を用いた反応で得られた主生成物はジヒドロキシ化合物であり,C-6修飾体ではオルト置換体のカテコール(73%)が,C-2修飾体ではパラ置換体のヒドロキノン(24%)が最大収率で得られた。β-CDに修飾されたPA基の置換位置による生成物選択性の相異は,一次生成物として生成したフェノールがヒドロキシ基を先頭にしてβ-CD修飾体の第二級ヒドロキシ基側から出入りするモデルにより説明できると考えた。
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