日本化学会誌(化学と工業化学)
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2000 巻, 2 号
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一般論文
  • 満塩 勝, 小松 慎一, 鎌田 薩男
    2000 年 2000 巻 2 号 p. 83-90
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    不均一系触媒のアルミナ表面上で起こる加水分解反応機構について検討した。
    試料は,p-,o-置換ベンゾニトリルおよびp-,o-置換ベンズアミドであり,置換基としてメチル基,クロロ基およびニトロ基を用いた。アルミナ表面上に吸着している加水分解生成物を調べる方法として非弾性電子トンネル分光法を用い,得られたスペクトルから表面反応を解析した。
    その結果アルミナ表面では,酸触媒反応機構によって,ニトリルがアミドを経てカルボン酸に加水分解されていることがわかった。また,p-メチルおよびp-クロロベンゾニトリルは,メチル基およびクロロ基の電子供与性によるメゾメリー(+M)効果のためにプロトン求電子反応が促進され,カルボン酸への加水分解が速やかに行われていることがわかった。これに対し,電子求引性基であるニトロ基が置換された場合,アミドおよび分子状のニトリルが観測されていることから,−M効果のために求電子反応が抑制されていると考察される。また,o-置換ベンゾニトリルにおいては,メチル基,クロロ基では立体障害のために加水分解が進行せず,アルミナ表面に吸着できないことが明らかとなった。
  • 島田 紘, 濱岡 昌
    2000 年 2000 巻 2 号 p. 91-96
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    トルエン溶媒中での安息香酸およびフェノールの1-ブロモブタンによるアルキル化反応において,Mg2+-Al3+を構成イオンとし,CO32-やOH-を層間イオンとする層状複水酸化物(以下,LDHと略記する。)が,高収率で対応するブチル化生成物を与えることを見いだした。しかしながら,NO3-系では反応促進はほとんどみられなかった。一方,CO32-系とOH-系LDHは,トルエン中で安息香酸を作用させると安息香酸イオンとして層間に取り込むことが,基本層層間(d003)の拡張および赤外吸収スペクトルから示された。以上の結果より,塩基性の強い陰イオンを層間イオンとするLDHは,固体塩基として安息香酸やフェノールのようなプロトン性有機物質の求核性を高める機能を有することが明らかになった。
  • 宮越 昭彦, 角田 範義, 上野 晃史, 市川 勝
    2000 年 2000 巻 2 号 p. 97-105
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    2種類の異なる共沈殿法で酸化亜鉛(II),酸化クロム(III)系触媒を調製し,得られた触媒の構造特性とエチルベンゼンの脱水素反応活性を調べた。第一の調製法は亜鉛(II)とクロム(III)の混合硝酸塩水溶液を母液として,母液中に沈殿剤である炭酸カリウム水溶液を滴下させて共沈殿させる方法(ASP法)であり,第二の調製法はASP法とは逆に炭酸カリウム水溶液中に亜鉛とクロムの混合硝酸塩水溶液を滴下させて共沈殿させる方法(BSP法)である。各々得られた沈殿物は同じ工程で処理され,773K,空気中で焼成して触媒とした。エチルベンゼンの脱水素反応に関してBSP法で調製した触媒(BSP触媒)はASP法で調製された触媒(ASP触媒)に比べて高活性·高選択性であることがわかった。XRDとXPSによる触媒の分析結果からBSP触媒は均一なスピネル相(ZnCr2O4)と酸化亜鉛からなる安定な触媒構造であり,触媒表面ではCr3+とZn2+の電荷状態であることが確認された。一方,ASP触媒はBSP触媒に比べて不安定なスピネル構造であり,触媒表面にはCr3+とZn2+のほか,CrVIも検出された。CrVIはカリウムとクロムのオキソ酸塩に由来し,このCrVI塩は触媒構造の不安定化や脱水素反応の活性サイト発現を抑制する触媒毒として触媒性能に影響を与えるものと考えられる。
  • 武隈 真一, 佐々木 正人, 武隈 秀子, 山本 啓司
    2000 年 2000 巻 2 号 p. 107-114
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    アズレン-1-カルボン酸メチル(1)と1/4モル量のテレフタルアルデヒドとを酢酸に溶解し,希塩酸を加え,室温(25°C)で2時間かき混ぜたところ,3,3',3'',3'''-[1,4-フェニレンビス(メチリジン)]テトラアズレン-1,1',1'',1'''-テトラカルボン酸テトラメチル(2)が収率92%で得られた。次に,化合物2をクロロホルムに溶解し,2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)で酸化したところ,表題の新規キノジメタン化合物,3,3',3'',3'''-(p-キノジメタン-7,7,8,8-テトライル)テトラアズレン-1,1',1'',1'''-テトラカルボン酸テトラメチル(3)にほぼ定量的に転換されることがわかった。これら生成物の構造はUV/VIS,IR,MS,1H-および13C-NMRスペクトルを測定し,それらの解析結果から決定した。生成物2と3の合成,構造および生成機構の考察について詳述する。さらに,電子受容体[すなわち,テトラシアノエチレン(TCNE), 7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタン(TCNQ)あるいはDDQ]と速やかに電荷移動錯体を形成する3の熱分析(TGA/DTA)結果と電気化学的挙動(CV/DPV)についても報告する。また,WinMOPAC V2.0分子軌道計算ソフト(半経験的分子軌道法,ハミルトニアン:AM1)を用いて,3の分子構造(最適化構造),生成熱ならびに電子状態(π-HOMOとπ-LUMOの分布と相違)等についても検討したところ,興味ある知見が得られたので,それらについて紹介する。
  • 堀邊 英夫, 馬場 文明
    2000 年 2000 巻 2 号 p. 115-120
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    PVDF/PMMAブレンドの紫外線透過特性と相溶性との関係を検討した。ブレンド物の混合比,溶融状態からの冷却速度(急冷,徐冷)により,透過性は大きく変化した。ブレンド物は265nmに透過率のピークを有した。265nmの透過率は,急冷試料では,PVDF充填量の増加とともに増加し,PVDF70wt%において,最高値62%(0.5mmt)を示し,その後充填量とともに低下した。PVDFは無定形状態では高い透過率を示すが,結晶化速度が速いため容易に結晶化してしまい結晶状態では低い透過率しか示さない。したがって,PVDF充填量が70wt%まではPVDFとPMMAが相溶し,PMMAがPVDFの結晶化を抑制するためPVDF本来の高い透過率を示すが,PVDF充填量が70wt%を越えると相溶しなくなったPVDFが結晶化するため透過率が低下したと考えられる。一方,徐冷試料では,急冷試料に比較し,溶融状態からの冷却速度が遅いため,PVDFの結晶化が起こりやすく,すべての混合比で低い透過率を示した。PVDF/PMMAブレンドの紫外線透過特性と相溶性との間には,強い相関関係があることを明らかにした。
  • 堀邊 英夫, 馬場 文明
    2000 年 2000 巻 2 号 p. 121-126
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    PVDF/PMMAブレンドの混合比,溶融状態からの冷却速度を変化させ,X線回折により,ブレンド物の相溶性およびそのときのPVDFの結晶構造を検討した。混合比により,PVDFとPMMAが相溶した非晶状態と,ブレンド物が相分離した結果生成するPVDF(II型)の結晶構造との二形態を形成した。これら試料を熱処理(120°C)すると,PVDF/PMMA(70/30-80/20)の混合比で,PVDF(I型)の結晶構造が形成した。熱処理によりPVDF(I型)とPVDF(II型)の異なる結晶構造を形成するのは,PVDF/PMMAの相溶性が混合比で異なるため,相溶性が高い場合PVDFの結晶化速度が遅く,その結果PVDF(I型)を形成するためである。
    PVDFの結晶構造には一般に3種類知られているが,そのうちPVDF(I型)の結晶を得るのはこれまで非常に困難であった。本研究では,PVDFとPMMAを70/30-80/20の重量比で溶融混練し,急速に冷却した後,熱処理することにより,PMMA存在下でPVDF(I型)の結晶のみが優先的に成長することを明らかにした。
  • 杉本 岩雄, 瀬山 倫子
    2000 年 2000 巻 2 号 p. 127-133
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    熱反応を起こさない程度の高温でアミノ酸を昇華させて得られた薄膜は,溶液法では得られない,アミノ酸分子自身の性質を反映した構造を有することが期待できる。D-フェニルアラニン(D-Phe)を原料に用い,るつぼ温度200°Cの条件で,さんご巣状の内部骨格を有する球状団塊(直径:2-6μm)より成る蒸着膜が作成できる。この表面からは平板状の薄片が1-3nmの段差でずれ重なった組織が観測される。この膜はアミノ酸分析,赤外分光分析,X線光電子分光分析より原料D-Pheを2/3以上含有している。さらに蒸着中に誘導結合型高周波プラズマを照射してふく射の影響を調べた。これはプラズマ化学のみならず,生命科学の視点からも興味深い。プラズマ効果で薄膜は極端に平らになり(表面粗さ:1nm)し,原料含有率が2 %以下とD-Pheが構造変化した分子で大部分の膜分子は構成されている。また,電子スピン共鳴分析よりダングリングボンド由来の不対電子が104spins/cm3の低レベル濃度で確認できた。しかし原料D-Pheと比較して,すべてのD-Phe膜で構成元素比に関する顕著な変化は認められない。
  • 小暮 誠, 安島 聡, 佐藤 利夫, 鈴木 喬, 大矢 晴彦
    2000 年 2000 巻 2 号 p. 135-139
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    イオン交換膜面での水解離(H2O⇄H++OH-)現象を利用した新しい水の殺菌法であるイオン交換膜電気透析法において,従来の炭化水素系イオン交換膜より耐熱,耐薬品性および機械的強度が優れている無機素材からなる無機陽イオン交換膜の有用性を検討した。5室の電気透析槽を用いて,脱塩室の隔膜となる陽イオン交換膜に無機陽イオン交換膜を,陰イオン交換膜に炭化水素系陰イオン交換膜を用いた系で水中の大腸菌の殺菌実験を行い,その殺菌効果を炭化水素系陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を使用した系と比較することにより,無機イオン交換膜の電気透析殺菌法における有用性について検討した結果,無機陽イオン交換膜を用いた系は炭化水素系イオン交換膜のみを用いた系より低い電流密度条件で優れた殺菌効果を示すことが明らかとなった。また,脱塩室の隔膜を両方とも無機陽イオン交換膜とした系で殺菌実験を行うと,炭化水素系陽イオン交換膜のみで構成したときよりも低電流密度で顕著な殺菌効果が得られた。無機陽イオン交換膜が本殺菌法に対して有効であることが明らかになった。
技術論文
  • 村上 昌三
    2000 年 2000 巻 2 号 p. 141-146
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    高分子フィルムおよび繊維のX線測定用加熱延伸機を設計·製作した。特にイメージングプレート(IP)を備えたX線回折装置による延伸中のin situ(その場,実時間)測定のため,X線照射位置(観測位置)が変化しないように試料の両側から延伸できるようにした。また,X線測定と同時に応力測定を可能にさせた。高密度ポリエチレンインフレーション(extruded-blown)フィルムの延伸による結晶転移とポリエチレンナフタレートの高温延伸による結晶構造の形成·変化の研究例を示すことで本装置の有用性について論じる。
  • 山之内 昭介, 岡部 和弘
    2000 年 2000 巻 2 号 p. 147-153
    発行日: 2000年
    公開日: 2001/08/31
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,N,N′-ビス(3-メトキシサリチリデン)-2-メチルプロピレンジアミナトコバルト(II)に4-ジメチルアミノピリジン(以下4-DMAPと略記する)が配位した酸素輸送錯体(以下錯体Aと略記する)の溶液を用いた酸素輸送膜(以下輸送膜と略記する)の長期分離特性低下に対する水分の影響を明らかにすることである。
    本研究においては,フラスコに採った錯体A溶液に酸素窒素混合ガス(酸素21vol%,窒素79vol%)を導入した錯体(以下錯体Bと略記する)の溶液,および水中を通した酸素窒素混合ガス(以下湿潤混合ガスと略記する)を導入した錯体(以下錯体Cと略記する)の溶液を用いた輸送膜の分離係数の低下と,二種類の溶液の濃度変化および酸素結合体の酸素脱離特性の変化との相関性について検討した。
    錯体B溶液および錯体C溶液を用いた輸送膜の酸素窒素分離係数から直列二重膜モデルに基づき算出した液膜の酸素窒素分離係数は,ガス導入開始時それぞれ153(透過側酸素濃度98vol%),88(透過側酸素濃度96vol%)であったが,144時間,24時間後にはそれぞれ2.0(透過側酸素濃度34%),1.5(透過側酸素濃度28vol%)となり,液膜の酸素輸送能力は大幅に低下した。
    錯体B溶液および錯体C溶液を電子スピン共鳴により分析した結果,いずれも,輸送錯体はスーペルオキソ体(以下酸素結合体Iと略記する)に変化していることが示された。輸送錯体濃度はガス導入開始時,濃度を0.4molL-1に調整したが,酸素窒素混合ガスを144時間導入した錯体B溶液中の酸素結合体I濃度は0.065 molL-1,湿潤混合ガスを24時間導入した錯体C溶液中の酸素結合体I濃度は0.090molL-1に低下し,水が酸素結合体Iの濃度低下を促進していることが示された。このほか,錯体C溶液中の酸素結合体Iの酸素脱離特性が低下することが示された。
    錯体C溶液を用いた液膜の酸素窒素分離係数が錯体B溶液を用いた液膜よりも速く低下した原因は,酸素結合体Iの濃度低下が速く起こったこと,および酸素脱離速度の低下が起こったためであることが示された。
    錯体C溶液中の酸素結合体Iの濃度の減少速度が大きい原因は,酸素結合体Iが水と反応を起こすためであると考察した。また,酸素脱離速度の低下は軸配位子である4-DMAPが脱離し,代わって水が配位したために起こったことが核磁気共鳴の分析結果から示唆された。
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