日本化学会誌(化学と工業化学)
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2001 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総合論文
  • 川上 浩良
    2001 年 2001 巻 5 号 p. 257-265
    発行日: 2001年
    公開日: 2004/02/20
    ジャーナル フリー
    透過性 · 選択性を併せ持つ気体分離膜の実現は膜研究の一つの大きな課題である.これまで多くの高分子膜が合成されその気体透過性と選択性が検討されてきた.本論文では,高分子気体分離膜で見られる従来のTrade-offの関係を打ち破る,新しい気体分離膜の作製方法を紹介する.ここで著者らは芳香族含フッ素ポリイミドが持つ分子間相互作用に注目し,まずスピノーダル分解を利用した乾湿式層転換法により,含フッ素ポリイミド非対称膜の表面スキン層の薄膜化をナノオーダーで制御した.その結果,ポリイミド非対称膜の気体透過性は飛躍的に向上した.さらに,薄膜化を行うことにより分子間相互作用が促進されポリイミドがより緻密な高次構造を形成,拡散選択性は向上し,結果的に気体選択性も同時に増加させることに成功した.つまり,含フッ素ポリイミド非対称膜は従来不可能とされた,気体透過性の向上とともに気体選択性が増大する“正の相関”を初めて可能にした.また,超薄膜スキン層を有する含フッ素ポリイミド非対称膜の気体透過性の経時的安定性は,高分子の分子量と化学構造に著しく依存することも明らかとなった.この乾湿式相転換法は相分離条件を変えるだけで,表面および断面に孔を規則的に形成させることもでき,三次元レベルで膜構造全体を精密設計する新し製膜工程としての可能性が示された.
一般論文
  • 島田 紘, 笹ノ間 隆
    2001 年 2001 巻 5 号 p. 267-272
    発行日: 2001年
    公開日: 2004/02/20
    ジャーナル フリー
    CO32−あるいはClを層間イオンとするLi+–Al3+系の層状複水酸化物(以下,LDHと略記する.)が,トルエン中でのベンジルアルコールの臭化ベンジルによるベンジル化を著しく促進することが示された.例えば,200 °Cで加熱処理したCO32−系を用いた反応では,6時間の反応でベンジル化生成物のジベンジルエーテルが93%の高収率で得られた.Cl系では,150 °Cで加熱処理したものを用いた際に同様の反応時間で78%の収率を示した.一方,Mg2+–Al3+ LDHの反応促進効果は,Li+–Al3+ LDHに比べると小さい.CO32−系を用いた際のジベンジルエーテル収率は,250 °Cで処理したものを用いたときの34%が最大であり,Cl系では処理温度によらず数%であった.
     以上の結果について,これまでに報告されたLDHの酸/塩基特性からの検討を加えた結果,ベンジル化の促進に層間イオンの塩基作用とともに基本層のLewis酸としての作用の関与が示唆された.
  • 成田 榮一, 松野 豊, 高橋 諭, 梅津 芳生
    2001 年 2001 巻 5 号 p. 273-279
    発行日: 2001年
    公開日: 2004/02/20
    ジャーナル フリー
    尿素を沈殿剤として用いる均一殿法によるAl–Li系層状複水酸化物(LDH)の生成について,溶液組成,熟成温度,熟成時間を因子として検討を行った.尿素を含むAl(NO3)3とLiNO3の混合水溶液を加熱すると,尿素の加熱加水分解によって溶液pHは次第に上昇し,80–90 °Cの温度範囲ではpH 5.7–6.1で白色沈殿が生成し始めた.固体生成物の結晶性は反応条件によって影響され,0.10(0.166 mol dm−3 Li+)以下のAl/Liモル比,1.0 mol dm−3以上の尿素濃度,85 °C以上の熟成温度,3–5時間の熟成時間で,7.83 Åの基本面間隔を持つ高結晶性のAl/Li系LDHが得られた.典型的なLDH生成物は,Al2.17Li1.00(OH)6.83(CO3)0.34 · yH2Oの化学組成を持つ,約2 μm横径の六角板状晶の集合体粒子であった.また,熟成過程で得られた固体生成物の分析結果から,最初に無定形の水酸化アルミニウムが生成し,ついでその水酸化アルミニウムと溶液中のLi+イオンが反応することにより次第にLDHが結晶化することがわかった.
  • 西田 雅一, 小野 泰蔵, 阿部 隆
    2001 年 2001 巻 5 号 p. 281-288
    発行日: 2001年
    公開日: 2004/02/20
    ジャーナル フリー
    ペルフルオロ環状イミンとしてペルフルオロ(5,6-ジヒドロ-2H-1,4-オキサジン)(1)およびペルフルオロ(3,4-ジヒドロ-2H-ピロール)(2)を用い,トリメチル(トリフルオロメチル)シラン(3)との反応によるトリフルオロメチル基の導入を試みた.等モル量の3を用いた場合でも,一置換体のみならず複数のトリフルオロメチル基を有する多置換体が得られた.この際に,1からは5,5-二置換体が生成したのに対し,2からは2,2-二置換体以外にも2,5-二置換体が生成した.この二置換体の収率は溶媒を代えることにより変化した.さらに,23の反応においては,トリフルオロメチル化と同時にヘテロ環の二量化反応も進行し,3種類の二量体が生成していた.ヘテロ環に結合している置換基の影響を調べるために,イミノ基の炭素に結合したフッ素原子を2,2,2-トリフルオロエトキシ基で置換した化合物に対して3との反応を行った.無置換のペルフルオロ環状イミンと同様に複数個のトリフルオロメチル基が導入されていたが,2,2,2-トリフルオロエトキシ基の脱離-付加反応も同時に進行していた.一方,ピロリジン環の二量化は置換基の導入により阻害されることがわかった.
  • 藤山 光美, 稲田 仁志
    2001 年 2001 巻 5 号 p. 289-297
    発行日: 2001年
    公開日: 2004/02/20
    ジャーナル フリー
    鎖長の異なるリン酸水素ジアルキルエステル,および比較としてリン酸二水素アルキルエステルおよびステアリン酸を用い,エタノールを溶媒として蒸発して付着させる方法により,炭酸カルシウムおよび水酸化マグネシウム粉体の表面処理を行った.被処理物について,水との接触角,沈降体積,溶媒抽出試験および熱分析による検討を行った.リン酸水素ジアルキルエステル処理の場合,二分子膜としての付着を予想していたが,実際には二分子膜は形成されず,すべての場合,アルキル鎖が外を向いていると推定した.すなわち,水酸化マグネシウムの場合,全処理剤(すべてのリン酸アルキルエステルおよびステアリン酸),全処理量(処理剤が水酸化マグネシウム粒子の表面を完全に覆う量の0.5–2.1モル量)において,処理剤は単分子膜として水酸化マグネシウムにイオン結合していた.一方,炭酸カルシウムの場合,ステアリン酸処理では,界面のイオン結合はあっても弱く,アルキル鎖が外を向いて吸着していた.リン酸アルキルエステル処理では,第一層ではリン酸エステル部分が炭酸カルシウム粒子表面のカルシウムとイオン結合しており,おおむねアルキル鎖が外を向いて二層,三層とイオン的相互作用により付着しているものと推定した.
  • 岡林 南洋, Zhi-Ping BAI, 加藤 寛, 岡崎 茂輝, 服部 愛子, 仙頭 友也
    2001 年 2001 巻 5 号 p. 299-306
    発行日: 2001年
    公開日: 2004/02/20
    ジャーナル フリー
    ハロゲン化銀の前駆物質として,銀錯体bis[3-(2-aminoethyl)aminopropyl(trimethoxy)silane]silver(I)nitrateとトリアルコキシハロアルキルシランとを用い,コアにハロゲン化銀の微結晶が分散した二層構造のシリカ粒子を合成した.オルトケイ酸エチルの部分加水分解物にハロゲン化銀前駆物質を混合して共重合体を調製,これをアンモニア水–メタノール混合液に滴下して,コア粒子を合成した.続いて,この混合液にオルトケイ酸エチルを滴下することによりコア粒子をシリカで被覆し,コアとシェルの二層構造のシリカ粒子を得た.ハロゲン化銀の前駆物質として銀錯体と塩素化合物を用いた場合には,塩化銀が析出したが,臭素化合物,または,塩素化合物と臭素化合物の混合物を用いた場合には,臭化銀のみが生成した.X線回折測定により,700 °Cで加熱した粒子でも,塩化銀や臭化銀の結晶が検出された.走査型電子顕微鏡観察により,粒子は粒子系分布が狭く形状は球状であり,平均粒子径は約0.2 μmであることがわかった.
  • 岩田 友夫
    2001 年 2001 巻 5 号 p. 307-315
    発行日: 2001年
    公開日: 2004/02/20
    ジャーナル フリー
    平板型支持膜方式固体酸化物型燃料電池の複合セラミックスセパレーターを,La(Sr)MnO3基板とそれにプラズマ溶射されるLa(Ca)CrO3溶射膜で形成した.La(Ca)CrO3の組成がLa0.7Ca0.35Cr0.95O3とLa0.8Ca0.22Cr0.98O3の溶射膜のガス透過率は10−7–10−6 cm4 g−1 s−1であり,SEM観察で溶射膜表面にはひび割れが観察された.しかしこれらの溶射膜を1473 Kで大気中2時間焼成したところ,ひび割れは消失してち密質の焼結体が観察され,ガス透過率は1 × 10−8 cm4 g−1 s−1以下に向上した.また組成によらず溶射材粉末や溶射膜にはXRDでCaCrO4やLa2CrO6の第二相が観察され,焼結膜ではそれらが消失してLa2O3とCaOが観察された.またLa0.7Ca0.35Cr0.95O3では焼結膜の格子定数は溶射膜のものより大きく,La0.8Ca0.22Cr0.98O3ではほとんど変わらなかった.さらにWDX-SEMによる焼結膜断面の組成分析から,特にLa0.7Ca0.35Cr0.95O3焼結膜では表面にCaOの生成が観察された.このようにCa2+をドープしたLa(Ca)CrO3溶射膜は溶射膜の熱処理過程で第二相成分が融解してLa(Ca)CrO3の焼結が促進され,溶射膜はち密化して,CaO等は第二相成分の分解や溶射膜の焼結過程で生成されるものと推察された.これらにより固体酸化物型燃料電池のセパレーター材には電子伝導度に劣るCaOの生成が少ないLa0.8Ca0.22Cr0.98O3を用いるのがよいことがわかった.
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