ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)は,脊椎動物の神経筋接合部や電気魚電気器官に存在し,神経終末から放出されるアセチルコリンに応答して,陽イオンの透過性を増大させる機能をもつ膜糖タンパク質である。nAChRは,α2βγδという4種のサブユニットからなる五量体構造をもち, nAChR,としてのすべての機能はこの分子中に含まれている.最近,電気魚やいくつかの哺乳動物のnACbRサブユニットの一次構造が,遣伝子組み換え技術を用いて解明されたが,四つのサブユニットは相互に高い類似性を有しており,擬対称的に配列しているものと考えられる。これらのサブユニットは,それぞれ五つの膜貫通ドメインをもち,そのうちの一つは両親媒性のドメインで,イオンチャンネルの形成に寄与していると推測される。サブユニットのうち,δサブユニットはイオンチャンネルの開口時間を決定する機能をもつ。また,ウシのnAChRでは,発生過程で構成サブユニットが変化する可能性が示唆されている。
αサブユニットはAChと結合する機能をもち,したがってnAChR単量体あたり二つの結合部位が存在することになるが,これらの反応性は等しくない。この違いは,受容体の構造的非対称性によるもらのと思われる。最近,αサブユニットのCys192とCys193の間でS-S橋が形成され,しかもこれらの残基がアセチルコリン結合部位の近傍に位置することが解明された。アゴニストの結合により,この隣合うCys残基間のS-S橋は配座変化を起こし,イオンチャネルの開口へ受容体を誘導すると考えられる。
著者らに最近T.californica AChRの糖鎖構造を明らかにしたが,2種のハイマンノース型糖鎖,Man
8GlcNAc
2とMan
9GlcNAc
2が全体の70%以上を占めており,これらの糖鎖はすべてのサブユニットに,異なった割合で存在していた。その他の糖鎖は数種類のコンプレックス型糖鎖で,おもにγとδサブユニットに存在した。これらの糖鎖のリガンドとの結合における関与を検討したところ,シアル酸やハイマンノース型糖鎖を除いてもほとんど影響を受けないことがわかった。nAChRの化学構造はかなり解明されつつあるが, 構造と機能の関連に関しては不明な点が多い。また,nAChRのリン酸化や受容体に密接して存在する43Kタンパク質などの機能がさらに明らかになれば,nAChRの働きに関する理解が一層進むものと思われる。
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