本稿は自動車産業におけるトヨタ九州を事例に専属的な受託生産企業の発生と存続のメカニズムについて歴史的経緯、企業行動と戦略、コーポレート・ガバナンスから検討した。中核企業であるトヨタが子会社であるトヨタ九州を通じて委託生産を行う理由は、中核企業の経営資源不足を契機とし、資源不足代替のため設立された専属的な受託生産企業は強制された能力構築競争を通じて競争優位を構築し、結果として専属的な委託生産の経営合理性が高まったからだった。またトヨタ九州はトヨタの事前合理的な意図通りのガバナンスに基づく子会社に育った一方、市場変化に伴う中核企業の経営資源の変動と高度化に対応する能力を創発的プロセスにより構築した。
ダイナミック・ケイパビリティについて、多数の論者から多様な定義が行われてきた。しかし、「劇的な環境変化に対応する能力」というTeece流の代表的なDC定義下では、DCと業務能力を客観的に分離し研究するのが困難であるという指摘が、近年HelfatとWinterによってなされている。Helfat and Winter (2011) による上記の指摘とそれを乗り越えるための処方箋は、DCを単純に企業成長の源泉として捉え直すというものだと考えてよい。彼女らの論点は、その意味で、エディス・T・ペンローズの『企業成長の理論』の観点との類似点を見出しうる。