ブラジルは自動車市場としては世界4 位の大きな市場であり、生産台数でみても7 位の国であり、しかもメキシコやタイと並んで輸出の大きい国である。しかしその輸出台数の大半はメルコスール国向け輸出であり、先進国に対する輸出競争力はまったくない。国内生産は過度に国内市場とメルコスール国に依存している。国内市場への依存度が高く、なおも輸出比率が低いという点は、中国やインドと類似している。
Leonard-Barton (1992) は、企業に競争優位をもたらす「コア能力」の裏側にある「コア硬直性」の存在を指摘し、四つの次元からなるフレームワークを用いて分析を行った論文である。しかしながら、多くの後続研究では「コア硬直性」を単なる能力の負の側面として捉えてしまっており、その背後にある分析フレームワークについては言及されていない。そこで本稿では、まず、Leonard-Barton (1992) の解説を行い、コア硬直性の理論的な意義を改めて検討する。その上で、コア硬直性の貢献と限界を明らかにする。