Meyer, Ding, Li, and Zhang (2014)は、多国籍企業が進出国から受ける制度的圧力 (institutional pressures) に対応するために海外進出戦略を変化させることを述べた。その上で多国籍企業が受ける制度的圧力の度合いが一様ではないことを想定し、より制度的圧力を受けやすい国有企業は私有企業と比較してどのような設立形態及び支配比率を選択するかを調査した。中国の上場企業の海外子会社のデータを用いて検証した結果、国有企業は私有企業よりも制度的圧力を受けにくい設立形態と支配比率を用いて進出国の状況に適応することと、その違いが国有企業に対する正統性の圧力が強くなる環境で大きくなることを明らかにした。そしてMeyer et al. (2014) は制度理論の拡張に貢献し、組織分野への異なる参入者に対する差異をうまく説明するとともに、特異な出自を持つ外国投資者が進出国の社会でいかに正統性を構築することができるかに対する示唆を与えている点での貢献があると主張している。本稿では、Meyer et al. の内容を詳細に解説すると共に、この研究の問題点についての指摘を行う。
本稿は、1970年代後半から1990年代半ばにかけての日本のパソコン市場を対象に、市場の立ち上がりからNECによる寡占体制が確立し、やがてそれが崩れ去っていくまでのプロセスを時系列的に丁寧に記述することを通じて、リーダー企業が新たなイノベーションに十分に対応できず、競争力を大幅に毀損してしまう原因を探ることを目的としている。本稿では、事例を記述するにあたって、①プロセス戦略論の視点、②競争ダイナミクスの視点、③行為システム・アプローチの視点、という三つの視点を意識しながら、通常求められる以上に「厚い」事例記述を行う。