本稿の目的は、いわゆる「リーン生産方式」という同じ製造パラダイムを指向している企業の間で、なぜ具体的な製造活動のパターンに違いが観察されるのかを説明するための、分析枠組と諸仮説を提示することである。具体的には、自動車メーカーの組立工場における「ボディ・バッファー」に焦点を当てて、仮説と分析枠組の構築に取り組む。また、ボディ・バッファー管理方針の進化は、組織学習および組織能力構築に関する企業間の違いが顕著に観察される事例であり、こうした動態的なテーマについても最後に付言する。
1980年代半ば以降、経営学で台頭したRBV (the resource-based view) は、競争優位の持続可能性をもたらす条件を模索してきた。不確実な模倣可能性、取引可能性、模倣可能性/代替可能性が競争優位を持続させる条件であると議論されてきたが、その前提となる異質性を醸成する制度、リーダーシップの存在も重要である。