本稿では、ものづくり企業の組織能力を測定する視点として「7M+R&Dアプローチ」を提示し、企業収益性の指標である総資産利益率(ROA)との関係を検討する。「7M+R&Dアプローチ」とは、ものづくりに関する重要な組織能力である、Man、Machine、Material、Method、Market、Money、Management、R&Dの8項目を用いてものづくり企業の組織能力の評価を行うものである。これら8項目の評価点を合算した指標を「ものづくり組織能力(MOC)」と定義する。 この「7M+R&Dアプローチ」を用いて、国内外の16企業のものづくり現場に対するインタビュー調査を実施してMOCを算出し、同時に各々の企業の当該年のROAも算出した。これらMOCとROAについてスピアマンの順位相関係数を求めたところ、ρ=0.76で正の関係にあることが分かった。 これは企業の「ものづくり組織能力(MOC)」の高低が、「総資産利益率(ROA)」の高低と相関があることを示している。したがって、企業のROAを向上させるためにはMOCを向上させればよいことになる。すなわち、MOCを構成する「7M+R&D」の各要素の一部または全てについて改善を行えば、それに見合ったROAの改善が見込めることになる。 この手法は、ものづくり企業の利益改善を図りたい企業経営者やコンサルタントに対し、「7M+R&D」のどの分野を改善すべきかの優先順位の指針を与えるものとして活用が期待される。
かつて、半導体の光露光装置は、「物理的法則」によって技術的限界を迎えると考えられていたために、次世代技術として、X線や電子ビームを用いた装置の開発が進められていた。しかし実際には、ユーザーの要求や選好の変化、部品性能の向上、および補完技術の進歩によって、光露光装置は「物理的法則」が示していた技術的限界を乗り越え、依然としてドミナント・デザインであり続けているとHendersonは主張する。果たして、本当にそうだったのか?
本稿では、携帯電話を中心とする組み込みソフトウェア会社の視点から見た21世紀における現代工学の方向性を論ずる。まず、アンチガラパゴス論として、巷間にいわれる日本の携帯は特殊な進化を遂げてグローバルに適用できなくなったとの世評に反駁する。次に、オフショア開発、オープンソース、クラウドコンピューティングの三大課題に直面するソフトウェア産業の現状を鳥瞰し、現代ソフトウェア工学の方向性として越境ソフトウェア工学という概念を提起する。続いて、携帯電話データサービスの現状と、制約、多様性、変化という携帯電話における三大課題、そしてApple、Googleというふたつの黒船の到来が携帯電話ソフトウェアおよびサービスにどのような影響を与えているかを論ずる。あわせてサービスにおける総合エンジニアリング、および、プラットフォームを作るための標準化エンジニアリングについて述べる。最後に、越境ソフトウェア工学を前提にした現代大学教育について示唆を行う。