本稿は、Howard-Grenville et al. (2016) の第6章「プロフェッショナル・ルーチンにおける接続性への人工物の役割を紹介したものである。第6章は、プロフェッショナル・ルーチンに焦点を当て、アクターと人工物は、それぞれ単独ではなく不可分な関係のなかでルーチンが構成されることを提言する。アクターと人工物が絡み合うなかで、プロフェッショナル・ルーチンにおける「個人」「専門職」「集合的業務」の接続性の基盤となっていると示唆し、フレームワークとして提示している。本稿では、第6章の概要を紹介したうえで、改めてプロフェッショナルとは何かを確認し、Jarzabkowski, Bednarek, and Speeからの発展の可能性を論じる。
本稿はルーチンハンドブックの第7章の解説である。第7章においては、ルーチンの遂行において組織内のアクターのパワーがどのような作用をもたらすかを明らかにすることが目的とされている。これにあたり上司が部下の1年の働きぶりを評価する業績評価面談が事例として用いられている。三つの業績評価面談を事例として、その録画を行い、それに基づいて会話分析が実施されている。分析の結果、ルーチンの遂行にあたり、上司と部下のパワー関係により直示的側面からの逸脱が発生するか否かが変わってくる点が明らかとなった。ただ、本章もルーチン・ダイナミクスのパフォーミングに関する議論に偏ってしまっているため、真にルーチン・ダイナミクスの研究とするためには、パターニングの要素の有無を再検証することが求められると考えられる。