日韓鉄鋼企業の技術移転に関する事例研究を通じて、企業が創発的な戦略形成により、特定の「ものづくり組織能力」と「製品・工程アーキテクチャ」を選択するプロセス、およびその結果として発現する「微細な産業内貿易」を実証的に分析する。その際、設計立地の比較優位説(国ごとに偏在する組織能力とアーキテクチャの間の適合関係が当該製品の国際競争力に影響するとの仮説)に依拠しつつも、この分析枠組の動態化を試みる。
旭硝子が1993年に上市した建築用Low-E複層ガラス「サンバランスR」は、高機能な省エネ対応ガラスとして国内の新築戸建住宅を中心に普及が進められてきた。その結果、市場で事実上の業界標準を獲得している。こうした成果獲得の背後には、どのような組織的あるいは戦略的取り組みがあったのであろうか。分析の結果、機能が「見える」コンセプト作りをし、かつ機能を「体感」できるコンセプト提案をしたことが成功要因のひとつとして浮かび上がってきた。旭硝子では、こうしたアプローチを社内展開し、他の機能性ガラスの開発でも採用している。同社における一連の提案型開発の取り組みは、サプライヤーにとってのひとつの有効なアプローチを示していると考えられる。