本稿は、各社へのインタビューとアンケートを通じて直接収集したデータに基づいて、1980年代後半の日米欧主要自動車メーカーの製品開発プロセスおよび開発組織の実態を明らかにする。本章(1章)では基礎概念となる情報処理システムとしての製品開発プロセスを概観し、日米欧の自動車メーカーを対象とした調査に基づき、製品開発における情報処理を円滑化させる組織構造、および製品開発プロジェクトにおける部門間の調整機能を担うプロダクト・マネジャーの役割を明らかにする。製品開発は技術の商品化、および製品の量産化に必要とされる情報資産を創出するプロセスであり、ほとんどの自動車メーカーが製品開発において部門間統合メカニズムを活用し、情報処理の促進を図っていた。しかしプロダクト・マネジャーの機能は、特定の開発段階に限定されるケースとプロジェクト全体に及ぶケースが混在し、開発の効率性を左右する要因と考えられる。
トヨタの海外工場の中で、3T(Thailand、Taiwan、Turkey)の工場レベルのパフォーマンスは最も高い。このような3Tのケースは学術的には大変参考になり、価値がある。通常の仮説では、本社は大きな市場に大規模な工場を直接投資する傾向がある。結果として、その工場は強くなると考えられる。しかし、この3Tは完全にこの仮説を覆す。結論から言うと、この3Tは厳しい環境の中で苦難に耐え、長く一所懸命をやり続けることによって能力を構築し、強い競争力を発揮し続けていると言えよう。本発表ではトヨタがトルコに事業進出する経緯、そしてどのように競争力をつけてきたかを説明する。
近年、情報家電や携帯機器などをはじめとした多くの製品分野において、半導体チップとして組み込まれたMPUとソフトウェア(ファームウェア)の重要性が高まっている。機械製品の代表であった自動車ですら、MPUとソフトからなる電子コントロールユニットがいまや100程度も登載されている。そのようなファームウェアが、製品の高機能化、耐久性向上、多機能化、低コスト化に果たす役割は大きく、日本の電子製品、機械製品の競争力を支える重要な要素となっている。しかし、その役割が増大するにともなって、ファームウェアの大規模化や複雑化が進んでおり、開発コスト増大、開発リードタイム長期化、製品不具合の頻発といった深刻な問題も起こしている。そのような状況の中で、多様な機能をつかさどる一群のファームウェアをどのようなアーキテクチャで設計するかが、製品開発の重要なテーマとなっている。機能の増加に対して追加的・場当たり的な対応では、全体としての製品機能を達成できず、様々な問題が生じる。本報告では、デジタル複合機におけるファームウェア・アーキテクチャの変遷についての事例を取り上げて考察する。