LCD産業は技術革新を通した経済的価値の創出という日本政府や日本企業が目指すビジョンの手本となる産業であるが、韓国・台湾メーカーの参入により、日本メーカーのシェアは急速に低下してしまった。このような事態に陥ったのは、それまでイノベーターであり続けた日本メーカーが第4世代において積極的な設備投資を行わなかったことがきっかけとなっている。第4世代の投資判断時点では、目標市場は拡大することが予想されており、技術的不確実性もきわめて小さな状況であったが、日本メーカーは積極的な投資を行わなかった。その背景には、日本メーカーがTFT-LCD産業を創出し、発展させていく過程で蓄積した赤字があった。
新古典派成長理論は経済成長の重要な要因である技術変化をうまく取り扱えていないことを指摘し、進化的アプローチに基づいたシミュレーション・モデルを構築する。各企業が生産コスト低減のためのイノベーションを行うモデルはSolow (1957) が利用した米国のマクロデータによく似た時系列データを生成する。経済成長の進化モデルは、(A) 企業の意思決定についての実証研究と整合的であり、(B) 技術変化についてのミクロレベルの知見に整合的であると同時に、(C) マクロレベルの経済全体の振る舞いを説明できるという点で新古典派のモデルよりも優れている。