鱒鞭毛虫症(Octomitiasis)に関しては既にDAVISにより原因学的に又病理発生的に詳細な研究が挙げられている. 著者等はl959年初頭盛岡市の近郊某養鱒場に発生した虹鱒の大被害に際し, その被害材料について病理学的に検索する機会を得た. その結果Octomitus salmonisの寄生繁殖による腸管粘膜の顕著な病変を認め, 本邦における鱒鞭毛虫症とこれによる被害の存在を確認し同時にその病理学的所見を闡明し得た. 1) 幽門垂及び前部腸粘膜上皮に多数の円形又は楕円形を呈する多核状小体の侵入があり, このものはDAVISの記載によるOctimitusのintracellular stageたるcystに一致する. 2) Octomitus cystの侵襲により上記領域の粘膜上皮は一様に退行性変化を現し, その空隙形成, 不全壊死又は全懐死更にその剥離を来し腸腔内に剥離上皮片, 原虫cyst, 及びそれらの頽廃物の集塊を容る. 3) 原虫cystの寄生が極めて稀な中及び後部腸粘膜上皮も多くの場合略〃前同様の変化を現し亦粘膜下において著明な血管の充盈, 白血球の浸潤等炎性過程を示す. 4) 肝の脂肪化は斃殺何れの例においても殆んど例外なく認められるが特に斃魚の大半例において肝実質の不全壊死像が認められたことは注目を要する. 5) 胃粘膜下織に一種の真菌の侵入するもの多くこれにより肉芽組織の増殖を来し胃壁の肥厚を示す. かかる病変は特に致死例においてその頻度が高い傾向を示した.
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