反芻動物のMg低血症に関する研究の一環として, 飼料のMg, Ca組成と泌乳が被毛中MgとCa組成に及ぼす影響を調べた. 実験には2頭の泌乳羊(L)と2頭の非泌乳羊(NL)を用い, 通常飼料(C期), 低Mg・低Ca飼料(E-I期), 青刈牧草(E-II期)を切りかえ給与して羊毛産生量, 羊毛中蛋白(ケラチン)含量, 羊毛および血清中MgとCa量を測定し, それらの相互関係を検討した. 1)血清Mg濃度は, E-I期にはC期, E-II期に比べ全例で有意に低く, Lの2頭は低Mg血症を示した. Lの血清Mg濃度は, NLのそれに比べ常に低かった. 血清Ca濃度は, E-I期にLの1頭で低下が認められたが, 全般を通じて上昇傾向を示した. 2)羊毛生産量は, 実験期を通じ有意の変化はなかった. 羊毛の蛋白含量は, E-I期にはC期に比べ4頭中3頭が, E-II期に比べ全例が少なく, 羊毛生産量に対する蛋白含量の割合は, E-I期にはC期, E-II期に比べ全例で低かった. 3)羊毛のMg含量は, E-I期にはC期に比べ4頭中3頭で少なく, 羊毛のCa含量は, D-I期にはC期, E-II期に比べ全例で少なかった. 羊毛中MgとCaの含有率は, E-I期にはC期, E-II期に比べ全例で低下した. 羊毛中MgとCa含量の間には, 常に一定の関係が認められた. 以上の結果から, Mg, Ca欠乏飼料の給与は, 羊毛中Mg, Ca含量と蛋白生産量の減少を誇発する可能性が強いと考えられた. また, 泌乳羊の羊毛中Ca/Mg比は, 血中Ca/Mg比を反映し, 非泌乳羊のそれに比べ高いことが示唆された. 謝辞: 稿を終えるにあたり, 本実験に終始御協力を頂いた岩手大学農学部獣医学科家畜生理学教室 長岡彦光氏(現長野県庁), 岩崎 隆氏(現岩手県庁), 大浪幸子氏, 佐藤孝男氏(現栃木県庁)ならびに白岩利恵子氏(現岩手県庁)に深謝する. また, 本実験に関し, 有益な御助言を頂いた同教室 菅原 伯教授に深謝する.
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