すでに第II報において, ひな白痢菌のI型(中間型)菌は溶原菌であって, これらから放出されるファージのうち, II群は S および V型菌を, またIII群は V型菌を, 特異的に溶菌する事実を明らかにした. そして, この溶菌関係は, 井関らと植竹らによって明らかにされた, ファージによるサルモネラO-抗原の, 溶原化変換におけるファージ産生菌と, 受入菌との抗原関係にきわめてよく似ていることを指摘した. 次いで第IV報においては, ファージの溶菌特異性を決定する因子として, 感受性菌がもつ抗原特異多糖体が, 主要な役割をはたすことを述べた. これらの知見から, ひな白痢菌の12
2抗原に見られるForm variationが, ファージによって起こるものと予想した. そこで, 著者の IIa, IIb型およびII1群ファージと, S および V型菌のリゾゲン系, および Ia型ファージと S型菌, IV群ファージと I型菌の溶菌系の組み合わせによって, ファージの感染を受けた細胞に, 抗原の変化が起こるかどうかを試験し, 次の成績を得た. 1. II群ファージの感染を受けたV型菌では,ずべて溶原化を見た. これらの細胞は, 12
2および12
3因子血清に反応するが, 約半数は, 数代の継代後に原株の抗原構造に復帰した. 他の半数は, そのままの性状を子孫に伝え得る. III群ファージと V型菌の組み合わせでも, 少数ながら, 12
2および12
3因子血清に反応する性状が固定された細胞が作られる. 2. Ia型およびII群ファージの感染を受けた S型菌からは, 一時的に12
2血清にも反応する細胞が得られたが, すみやかにもとの表現型に復帰した. 3. IV群ファージは, I型菌に対し, 抗原構造にも, プロファージにも変化を与えない. 4. わが国で標準菌株として用いられている S および V型菌の中には, 一時的にI型を思わせる表現型をもつ細胞が, ごく少数ではあるが, 見いだされる. しかしこれらの細胞は, ファージの感染によって生じた変異型とは異なる. 本論文は, 北海道大学審査学位論文で, 規定に基づき公表する
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