野外調査の結果から肝障害を伴う乳牛の多いこと, 肝賦活, 肝蛭駆除によって「ア」反応が陰転することなど, 肝と「ア」陽性乳の間にはかなりの関係があると思われた.それ故著者は人工的に肝障害を作製し, 「ア」陽性乳の発生するか否かを試みた. 1)肝障害剤としてヘキサクロールエタン, 四塩化炭素および蟻酸アリルなどを使っで肝障害をおこさせ, 「ア」陽性乳の発生の可否を検討した. その結果いずれの薬物を使用しても「ア」陽性乳を発生させることが出来た. ヘキサクロールエタンは薬用景をやや越していたためか急性に「ア」反応が陽転し, 異常乳型を示した. 蟻酸アリル, 四塩化炭素群は薬物の微量投与を行ったためか5~18日で「ア」反応陽転した. 肝臓機能検査としてはあまり顕著な変化なく, BSP, 血清蛋白分画に異常を示すものがあったが, 肝の組織については大部分の例が生化学的, 組織学的に機能減退と思われる所見が得られた. この結果人工的肝障害により「ア」陽性乳の作製は可能と考えられ, 野外における「ア」陽性乳分泌乳牛の肝障害と思われるものが多いことから野外発生の「ア」陽性乳牛は何らかの作因により肝障害を生じた結果「ア」陽性乳を分泌するものと考えられる. 2)野外発生例の乳牛については乳中イオン性カルシウムの増加が「ア」凝固の原因と結論したが, イオン性カルシウム増加がいかなる機構に基ずいて増加するものか, 他の乳汁成分の変化との関連性を検討するため各種の状態で発生した「ア」陽性乳の乳汁成分についてその推移を検索した. その結果「ア」反応陽転時には一般に総蛋白, カルシウム, マグネシウムなど各種成分が増加するが, 陽転後漸次減少した. しかしイオン性カルシウムのみは減少せず一定値を保持していた. またカゼイン分画, リン, クエン酸などは減少の傾向であった. また少数例であるが乳中非蛋白体-Nやアミノ体-Nは増加した. このほか急性の陽転を示した例ではカリウム減少し, クロール, ナトリウムが増加し異常乳型を示した. これらの結果から乳中イオン性カルシウム増加の原因は蛋白系のカゼインの減少, 限外濾過性リン, クエン酸の減少などが結合型カルシウムを減少させ, イオン性カルシウムとして乳中に分泌されるためではないかと考えられた. これらの発生試験における乳質検査の成績は急性の「ア」陽転を示したものを除いては「ア」反応陽転によって異常乳を示すと思われる例は得られなかった. 終りに臨み種々御懇切なる御指導御校閲を賜った東京大学農学部大久保義夫教授に衷心より感謝し, 御協力を戴いた兼清, 須田の両技官に深謝する.
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