ヒトにおいて多数例報告されている大動脈弓とその分枝異常は,ウシ,ブタ,イヌ,ネコなどの家畜においても観察されている.家畜において,これらの分枝異常が発見された背景を文献的に考察してみると,先天的な右側大動脈弓遺残による食道狭窄などが主な原因となって,顕著な臨床症状を伴っている場合が極めて多い.したがって臨床症状を伴わないこれらの分枝異常に関する報告は甚だ少ない.特に臨床症状を伴わないイヌの大動脈弓分枝異常についての報告は,遠位の右鎖骨下動脈を最終技とする分校異常に関するものである.今回,著者らが観察したと同様な分枝異常についての報告は見当たらない.著者らは,160例の大体を解剖し,そのうち,雌の雑種成犬2例に,極めて類似した右鎖骨下動脈破格を認めた.これらの状態を観察するとともに,発生学的に若干の検討を加えてみた.それらを要約すると,次の通りである.1.正常位に位置する大動脈弓は,腕頭動脈に相当する総頚動脈幹,左鎖骨下動脈,右鎖骨下動脈の3枝を分枝し,それらの起始部の位置は極めて近接していた.2.総頚動脈幹の先端は2枝のみに分岐し,左・右総頚動脈となる.本来,腕頭動脈から分岐すべき右鎖骨下動脈は,左鎖骨下動脈起始部の右側から,大動脈弓より直接単独に分岐し,食道と気管の背側を右側に向かって,斜め頭方に通過していた.3.右鎖骨下動脈による食道の狭窄は認められなかた.
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