猫の肥満細胞白血症に関しては, すでに1907年以来, 十数例の報告をみるが, その多くは, 単に白血病として取り扱っている. しかし, 白血病とは血液腫瘍であるという概念からみれば, 既報の症例をすべて白血病と呼ぶことが妥当であるとは考えられない. まして, この腫瘍構成細胞が, 組織肥満細胞であるか, または骨髄好塩基球であるかは, 今日の細胞学的知見では容易に断定し得ない. したがって本症の命名については, なお多くの論議があるように見受けられる. 著者らは, 教室剖検例の中2例に本症を経験した. いずれも老令の雌猫で, 著明な脾腫と肝腫を主徴としたものである. 組織学的には, 脾髄は腫瘍細胞によってみたされ, 肝では, 静脈洞および門脈周囲の結合織における腫瘍細胞の増生がみられた. このほか, 腸間膜リンバ節髄洞, 腸漿膜, 肺胞壁などに腫瘍細胞の集簇をみとめ, 肺胞壁における以外のものは, 明らかに増殖性浸潤性の性格をそなえていた. これらの腫瘍細胞は, 円形核を有しヘマトキシリン・エオジン染色で, 原形質は赤味を帯びて染まり大小の空胞を有するものが多く, 原形質縁は必ずしも明瞭でない. 原形質内には, Ciemsa 染色で青紫色, cresyl violet で赤紫色にメタクロマシアを呈する微細顆粒がみたされている. また酸化酵素反応陽性顆粒を有するものが, およそ1/3に認められている. 細胞増殖巣における嗜銀線維の発達はみられず肝では膠原化, 脾髄では断裂を示すものが多い. このうち1例に endotheliomatous meningioma を認めた. これについては, いうまでもなく本症と直接の関連がみられなかったが, 重複腫瘍として興味あるものであった. これらの2例を得た同期間中の教室における猫剖検例は, わずかに8例であることから,本症の存在は決してまれでないことがうかがわれた. 今後における本症の追究は, 肥満細胞および骨髄好塩基球を含む, 塩基性顆粒細胞の細胞学の進展に寄与するものと考えられる.
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