犬の胸部大動脈を第5肋間の高さで40分間にわたって閉塞し, 後躯及び後肢に発現する hypertonus を, 閉塞解放後4~5時間から約24時間まで, 筋電図学的に検索し, 次の結をえた. 1. 後肢は強制的に伸展し, 痛覚も後躯及び後肢では著明に鈍麻し, いわゆる paraplegia-in-extension となる. 膝蓋腱反射は, 1回の腱叩打が同側の後肢全体に波及する細かい tremor 様の反覆運動に発展する時期を経て, 後には1対1の振幅の小さい jerk に終るか, あるいは強い伸展に蔽われて jerk を見極め難くなる. 後肢の足蹠に適用した触あるいは痛刺激によって起こる引込み反射は, 閉塞解放後は殆んど現われない. 2. 後肢における hypertonus の分布は, 伸筋タイブあるいは伸屈筋タイプであり, 一定しない. 3. Hypertonic な筋から誘導される筋電図の放電叢のパターンは, 閉塞解放後早期では, 著明な群化を示すが, その後, 群化は崩れる. 4. 放電叢(外側広筋)を構成する単一放電波形は, 閉塞解放後の経過時間に従って, 群化した放電, double spike potential, 次いで single spike potential の順に変遷する. なお, double spike potential には, continuous type と discontinuous type の2型があり, 閉塞解放後の時間経過が進むと, discontinuous type が多くなる. 5. Double spike potential には, 次のような共通した性質が認められる. 1) Normal motor unit potential と同じ大いさの振幅をもつ第1スパイクに引続いて, 3~9 msec. の間隔をおいて, 振幅の小さい第2スパイクが現われる. 2)第1スパイクと第2スパイクとの間隔が大となるほど, 第2スバイクの波形は第1スパイクの波形に近似の度を増し, また, 第2スパイクの振幅も大となる. スパイク間隔が約9 msec. になると, 第2スパイクの振幅は, 第1スパイクのそれとほぼ等大となる. 3) Discontinuous type では, double spike の部分に比較して, Single spike の部分の放電リズムは速い. 6. Single spike potential は, 波形, 振幅及び持続時間では, normal motor unit potential と区別し難いものが多いが, 長い放電系列中にdouble spike を散発的に含むものが多い. 7. 外側広筋の放電は, 膝関節を被動的に hyperextension すると, 著明に減弱あるいは消失する. 8. 組織学的検査によって, 脊髄神経細胞の chromatolysis と, 主として灰白質に限局して現われる出血斑が認められる. Hypertonic な筋から特異的に, しかも頻繁に誘導された double spike potential を, 分析, 検討の結果, double discharge と同定し, その発生機序に関して, 若干の推測を行なった.
抄録全体を表示