著者らは第v報において, Toxascarisleoninaの固有宿主である犬,猫に対する感染実験について述べた.本編では,非固有宿主であるマウス,ニワトリ,さらに無脊椎動物であるミミズおよびゴキブリに対する3種回虫の感染実験について報告する.3種回虫の幼虫のマウス体内における移行態度を検討することは,マウスと同じ哨乳動物である人の体内におけるvisccra11arvamigrans解明の有力な手段と考えた.またニワトリ,ミミズ,ゴキブリに対する感染実験は,これらの動物が,3種回虫のparatenichostとなり得るか否かを検討することで意義がある.本研究で得られた結果は,次の通りであった.1. T.leoninaの犬系と猫系では,マウス体内における幼虫の移行態度は同一であったが,筋肉内の第3期幼虫の体幅に差が認められ,大系が猫系に比して大であった.犬猫両系のマウス筋肉内における第3期幼虫の体長は,3カ月後まで伸長を続け,0.84~0.88mmに達した.2. T.leoninaの幼虫は,マウス体内においてsomaticmigrationを行ない,3カ月後も筋肉内に生存する幼虫が確認された.しかしニワトリの体内ではsomaticmigrationを行なわず,幼虫は主として消化管壁に存在し,2カ月後には消失した. 3. T.leoninaの幼虫のマウスから第2代マウス,さらに第3代マウスへ,またニワトリからマウスの移動が証明された.幼虫の第1次感染動物体内における滞留期間が永くなると,第2次感染が不成立となることも認められた.4. T.canisをマウスに感染させた場合は,脳・筋肉内に,またニワトリに感染させた場合は肝に,長期間生存する第2期幼虫の存在が確認された.本回虫の幼虫のマウスから第2代マウスへ,またニワトリからマウスへの移動は,常に成立した.5. T.catiの幼虫は,マウス,ニワトリの両種の体内でsomaticmigrationを行ない,筋肉内に長期間生存する第2期幼虫が確認された.本種回虫の幼虫のマウスから第2代マウスへ,またニワトリからマウスへの移動は,常に可能であった6. ミミズに対しては,T.leoninaは感染しなかったが,T.canisおよびT.catiでは感染が成立した.ミミズより採集したこの2種の幼虫は,さらにマウスまたはニワトリへの感染が可能であった.7. ゴキブリに対しては,3種回虫とも感染を認めなかった.以上の結果から,犬・猫の3種回虫の幼虫は,自然界で下等動物から高等動物を含むparatcnic110Stの間を広く移動していることが推定され,人体も paratenichostの一種として,これらの回虫の幼虫の侵襲を受ける危険性があることを認めた本実験により,ニワトリが3種回虫のparatenichostであることが明らかとなった.この事実は,鶏肉が人の食料であることから,公衆衛生上の問題を提起するもの゛である.
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