牛,馬,犬,鶏などの各種動物に分布するコアグラーゼ陽性ブドウ球菌の相違を知るために,これら動物の体表,粘膜面ないし病巣から本菌を分離し,種々の生物学的性状を調査した.また,食中毒罹患者に由来する大系株についても,同様の検査を行なった.その結果,これら菌株間には,宿主特異性に基づいて,色素産生佳,溶血能,家兎線維素融解性(FL),卵黄因子(EY),VP反応およびクリスタル・バイオレットテスト(CVT)からなる生物学的性状に,片寄りのあることが認められた.すなわち,人の食中毒由来株は黄色,α溶血,rL(+),EY(+),VP(+),CVT(黄色または菫色).牛系株は黄色,FL(一),VP(+),CVT(黄色または菫色)を示した.健康牛由来のものではEY(一)であるのに反し,潜在性乱房炎より分離したもののそれは(+)であった.また溶血性は,前者においてはαβないしβであったが,後者ではα,αβ,βなど穐々で,特徴は認められなかった.馬由来株においては,色素産生能とVP反応との間に密接な関係が認められ,これら菌株を2型に大別することができた.すなわち,黄色色素を産生ずるものはVP(+)であり,白色系のもののそれは(一)を示した.溶血性はいずれもβで,FL(=),EY(=),CVT(菫色,黄色,白色など不定).大由来株は白色,β,EY(+),FL(-),VP(一),CVT(白色).鶏由来株は黄色,α,FL(一)であるが,緬羊線維素を平板法で融解し,EY(-),VPおよびCVTはいずれも不定である.さらに,各宿主における代表株で,家兎を用いて免疫血清を作成し,交叉吸収試1験によって得た吸収血清で,スライド凝集反応を行なった.その結果,これらは血清学的にもほぼ独立していることが推定された.以上の成綾より,コアグラーゼ陽性ブドウ球菌は,由来動物種によって,それぞれ異なるものと思われる.
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