反芻動物における低Mg血症に関する研究の一環として, 4頭の非泌乳雌羊を用い, 通常飼料, 低Mg・低Ca飼料および低Mg飼料の順に飼料を切りかえて給与し, MgとCaのバランスを急激に変化させたときのMgおよびCaの出納と血清濃度の変化を調べた. 低Mg・低Ca飼料給与時には, MgおよびCaの糞・尿中排泄量, みかけの吸収量, 体内残留量は著しく減少し, 血清濃度も有意に低下し, MgとCaの間には終始有意の相関関係が認められた. 1頭の高齢羊は, 他の3頭に比べMgおよびCaの変動が著明であった. 低Mg・低Ca状態の羊にCaを補給すると, 飼料切りかえ4日目に1頭の高齢羊は, 血清Mg濃度が0.29mg/dl (血清Ca/Mg比, 24.7) と著しく低下し, 典型的な低Mg血症性テタニーの症状を示した. さらに5日目には, 起立不能, 採食・飲水不能となり, 7日目に死亡した. 他の3頭の羊も, 4日目に血清Mg濃度が1.15mg/dlとなり, 5-6日目には食欲を失ったが, 7日目以降は徐々に食欲を回復し, 血清Mg濃度も上昇した. 以上を要約すると, 1) 低Mg状態下での飼料中Caのバランスの急激な変化は, 低Mg血症性テタニー発症の重要な要因となりうる, 2) 急性のテタニーは, 飼料の切りかえ後3-4日以内に発生する可能性がある, 3) 同一環境条件下では, 老齢動物ほどMgおよびCaの調節機能が低下している可能性があり, テタニーを起こしやすい, ことが示唆された.
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