前報において, 猫に自然感染した鉤虫の種類には, A. tubaeforme とA. caninum の2種があることを確認した. ついで, この両種を猫に人工感染試験した結果, A. tubaeforme は感受性が強く, 高率な寄生率をもって, 容易に感染が成立した. これに反して A. caninum は, 感受性が弱く, 少数の感染仔虫では, 猫への感染が全く起こらなかった. 大量の仔虫を投与した場合には, きわめて低率ながら, かろうじて感染が成立したことを報告した. そこで今回は, 人工感染猫において, 体内の諸臓器中における両種仔虫の分布状態を定期的に迫究し, さらに仔虫の体長および stage の発育状況についても, 詳しく検討を加えて, 前報の成績の解明を試みた. 1. A. tubaeforme 仔虫を猫に経口感染させた場合には, 仔虫の大部分が, 消化管内に長期滞留し, 仔虫の体長と stage は, 腸内容においてのみ, 次第に発育成長をとげた. 一方, その他の諸臓器からは, ほとんど仔虫が検出されなかった. 2. A. tubaeforme 仔虫を経皮感染させた場合には, 仔虫が皮膚・筋肉から, すみやかに消化管に移行し, 1週間後には, 大部分の仔虫が腸内容から検出された. これらの仔虫は, その体長と stage が, 腸内容において発育成長をとげた. また一方, 仔虫は肺・気管・食道からも検出されたが, その体長は少しも発達していなかった. 3. A. caninum 仔虫を猫に経口感染させた場合には, 仔虫は消化管ではすみやかに減少するが, 初期には腸間膜・肺・気管・食道から, 未期には筋肉から長期間にわたって, 多数検出された. しかし. その間において, 仔虫の体長と stage は, 少しも発達しなかった. すなわち, 主として Somatic migration を行なうことが認められた. 4. A. caninum 仔虫を経皮感染させた場合には, 皮膚・筋肉から, 長期間にわたって. 仔虫が検出された. その間, 仔虫の体長と stage の発達は, 全く行なわれなかった. 一方, 肺・気管・食道から, 少数の仔虫が検出されたが, 消化管からは, 全く検出されなかった. 5. A. tubaeforme 仔虫は, 経口・経皮両感染とも, 猫の腸内容から多数検出された. 腸管内では, 仔虫の体長が発達し, その stage は, 第3期から第5期へと, 次第に発育をとげた. 一方, その他の諸臓器からは, 少数の仔虫しか検出されなかったが, それらは, すべて脱嚢した感染仔虫の形態のままであった. すなわち. これは猫を固有宿主とする態度であった. 6. A. caninum 仔虫は, 経口・経皮感染とも. 主として猫の筋肉内に寄生し. 消化管には寄生しなかった. 一方, 仔虫の体長と stage は, 筋肉その他のいかなる臓器においても. また長い期間が経過しても, 少しも発達しなかった. すなわち, これは非固有宿主における態度であると認められた.
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