成鶏と, 孵化後1週間および3カ月の雛を用い, その摘出腸管運動に対する Nicotine 作用をみた. 実験にさきだって, 従来, 哺乳動物または鳥類の摘出臓器実験に用いられている種々の保生液の適否について検討した. 家鶏摘出腸管運動の持続性と規則性からみて, Krebs-Heselite 液がもっとも好適であった. 出現する Nicotine 反応は, 家鶏の年令によってかなり異なる. すなわち, 成鶏より得られた新鮮標本では, Nicotine 投与直後, 亢進, ついで抑制に移行するという定型的な反応のみがみられた. 3週令または1週令の幼若な鶏よりの標本では, このような定型的な, 亢進→抑制の反応のほかに, 一過性の抑制(前抑制)と, それに続く亢進反応を示すもの, または, 最初の抑制のみしか示さないものがみられた. これらの出現する反応型と, 投与 Nicotine 濃度(10
-4~10
-7g/ml)との間には, 特別な関連はみとめられなかった. Hexamcthonium を前処置しておいた場合には, Nicotine による"前抑制"も, それに続く亢進も, ともに消失した. したがって, これらは, いずれも腸壁内在神経節由来のものと考えられる. 標本を2~4℃に18~24時間冷蔵した場合には, 成鶏の腸管においても, Nicotine による"前抑制"を示した例がかなりみられた. 1週令および3カ月令の標本における抑制反応出現率も, 腸管を冷蔵することによって増加した. 以上の事実から, 家鶏腸管においても, 腸壁内在経には, 抑制性と亢進性の線維が存在し, 年令を加えるにしたがって, 亢進性線維の支配が強力となって, 抑制性のものを mask するものと考えられる.
抄録全体を表示