両端を錘で引かれたワイヤーが半円柱氷に貫入する復氷実験で,ナイロン線から銀線までワイヤーの熱伝導率λが10
3倍に変っても,貫入速度Vの変化が10倍以内の小さい値に留まる事実を考察した.この事実は従来の熱的説明では解釈が難しいとされていたものである.同一最大圧力下でのVを比較したところステンレス線,銅線ともV は太さに反比例する結果を得た.ワイヤー前面の水が後方に流れた分だけワイヤーが貫入するという見地からすると,ワイヤーの太さと最大圧力が同じなら,水膜の流量はワイヤーのλに依存しないことになる.熱流支配からは説明の難しかったV に及ぼすワイヤー太さやλの効果が水流支配の立場から直観的に説明できた.次に,通常の貫入速度計測定に加え,ワイヤーに滑りを与えたときの力と滑り速度測定の結果を組み合わせることにより,従来決定が困難と考えられていたワイヤー前面水膜厚さd と水の粘性係数ηの同時決定を可能にした.ナイロン線(太さ0.3mm)に対し,d=0.6μm,ηとしてバルクの水の粘性より200倍も大きい0.4 Pa・sを得た.
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