シソ科植物「シモバシラ」による氷晶析出機構を,野外観測や室内実験を通して,物理現象として説明することを試みた.シモバシラは,野外では生きた根系が土壌水を,室内実験では根系のない生きた茎や死んだ茎が容器の水を吸引して,茎の木部表面から多くの薄い板状の氷晶を放射状に析出した.その結果,吸水や氷晶析出は,根系とは無関係に,茎の生死を問わず,木部の構造によって起こることが示された.木部表面には,電子顕微鏡画像から1μm 大のピット(壁孔)が見つかった.以上のことから,このピットによって木部表面にある氷が木部内部への侵入を阻止されると,ピットの大きさから氷〜水界面の過冷却度(界面の温度と平衡温度との差)は0.11K,界面の間隙水圧は−1.4×10
5Paと試算される.この吸引圧が駆動力となり,土壌水は根系や茎内部を経て木部表面に移動して凍結し,氷晶が木部表面から外に向かって連続して成長する.仮に,木部内部へ氷が侵入しても,放射柔組織や導管のピットが同様の役割をすると考えられる.析出は,最大析出速度とΔTa(冷却温度Taと平衡温度との差)との関係で,茎の透水係数や氷の熱伝導係数などを反映した直線よりΔTaが大きい範囲で起こると考えられる.
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