雪氷
Online ISSN : 1883-6267
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79 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 中村 和樹, 山之口 勤, 青木 茂, 土井 浩一郎, 澁谷 和雄
    2017 年 79 巻 1 号 p. 3-15
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    1996年から1998年のJapanese Earth Resources Satellite-1(JERS-1)衛星搭載のSynthetic Aperture Radar(SAR)の15 シーン,2007年から2010年のAdvanced Land Observing Satellite(ALOS)衛星搭載のPhased Array type L-band SAR(PALSAR)の17シーン,2014年から2015年のALOS-2衛星搭載のPALSAR-2の12シーンから,それぞれ12ペア,12ペア,11ペアの画像に対して画像相関法を適用し,南極・白瀬氷河の流動速度変動を調べた.2014年から2015年において,上流からGrounding line(GL)へと向かって流動速度が急激に速くなり,GLを挟む幅20kmの流域において一定となり,GLから下流そして浮氷舌へと再び流動速度がなだらかに速くなる傾向が見られた.この傾向は,1996年から1998年にJERS-1/SARおよび2007年から2009年にALOS/PALSARで観測された流動速度プロファイルから大局的には変化していないと考えられ,また流動速度も2.33kma−1(1996年)から2.26kma−1(2015年)で大きな変化は見られなかった.しかし,GLからの距離の関数として示した中央流線上では,上流域での速度に有意な経年変化が見られた.GLより5km上流から上流方向へ流動速度は増加しており,約18km上流では1996年から1998年を基準とした場合,2007年から2010年および2014年から2015年のそれぞれで0.57kma−1,0.72kma−1と最大の速度上昇に達した.30km上流ではそれぞれ0.25kma−1,0.35kma−1を示した.
  • ALIMASI Nuerasimuguli, 榎本 浩之
    2017 年 79 巻 1 号 p. 17-30
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    温暖化が進む北極圏における雪氷状況の監視は気候研究にとって重要である.北極域の調査・研究活動も活発化している中で,雪氷変化は大気,海洋,陸域など様々な変化に関係するため重要な観測項目になる.また,既に得られた観測データの地域や時期の代表性評価についても,時間的・空間的に連続した長期衛星観測が有効な情報となる.さらに,観測前に広域・長期情報より調査の地域や期間を効果的に選定することにも衛星観測は有効である.本研究では,日射のない極夜でも観測可能で,雲や霧など天候の影響を受けにくいマイクロ波観測データより,積雪期間と融雪期間の推定を行なった.注目した北極域は,日本の観測グループが活動している地域を中心に,北アメリカの高緯度域,シベリア,スカンディナビア周辺域及びスバールバル諸島,グリーンランドである.北アメリカでは南部から北東方向に向かっての融雪域の移動により,7月にはグリーンランド,スバールバルに至る.グリーンランドでは,南部の顕著な融解に対し,北部の内陸高所ではほとんど融解が起きていないが,最高所においてもDAVより融解の可能性を探査できる.ユーラシア大陸ではスカンディナビアなどの西部からシベリア方面の東部への融雪域の移動などが観察され,大陸による違いや南部や東西の傾向の差が観察された.
  • 直木 和弘, 長 幸平, 牛尾 収輝
    2017 年 79 巻 1 号 p. 31-42
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    衛星搭載マイクロ波放射計による海氷観測は,1978年以降観測を継続しており,海氷面積の変動が明らかになっている.海氷面積の推定には,海氷のマイクロ波輝度温度特性の把握が重要である.融解期の多年氷は,融解の影響により輝度温度特性が変化する.そこで本研究は,融解期の多年氷のマイクロ波輝度温度特性を明らかにすることを目的に観測を行った.観測は,南極昭和基地沖の多年氷上で多年氷表面,積雪内部層,積雪表面の輝度温度を測定し,積雪断面観測を実施した.多年氷表面からのマイクロ波輝度温度は,表面状態によって輝度温度が大きく異なるが,積雪内部層は,湿雪が存在するために輝度温度が一定であった.また,積雪表面の輝度温度は,表面が湿雪の場合は高く,乾雪の場合は乾雪の光学的厚さが増加すると,垂直偏波と水平偏波共に36GHzの方が18GHzより低くなる周波数特性を示した.これらのことから,融解期における昭和基地沖の多年氷のマイクロ波輝度温度は,多年氷上の積雪に湿雪が存在する場合,多年氷の輝度温度は影響せず,海氷上積雪の状態に依存することが明らかになった.
  • 永井 裕人, 田殿 武雄
    2017 年 79 巻 1 号 p. 43-61
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    人工衛星などを用いた宇宙からの地形測量は,近年まで様々な手法で行われてきた.得られた地形のデータはDEM(Digital Elevation Model)と呼ばれ,商用利用も拡大しており,氷河研究においても重要な基盤データの一つである.この解説では,光学ステレオ立体視および合成開口レーダを用いたDEM作成技術の発展を総括する.そして無償公開されている画素サイズ30mのDEM を日本国内の各種地形およびヒマラヤ氷河域で比較し,生じる差異を検証する.国内の平地から山岳地域まで3種類の地形において精度検証したところSRTM1とASTER GDEMに対して,ALOS World 3Dがすべての地形で最も高精度であることが分かった.またヒマラヤ氷河域で生じるデータの欠損は,SRTM1では急斜面に多く存在するのに対して,ALOS World 3Dでは積雪の可能性が高く,平坦で標高の高い地表面に多く存在する傾向が明らかになった.山岳氷河の研究においては,これらの精度や特性の差異を考慮したうえで,適切なDEMを選択することが望まれる.
  • 榊原 大貴
    2017 年 79 巻 1 号 p. 63-71
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,人工衛星により取得されたデータを氷河の観測に使用することはごく一般的となった.特に人工衛星に搭載された光学センサーにより取得された画像は多量のデータアーカイブが存在するとともに,データの入手と解析が比較的容易であることから,氷河変動および流動の観測に広く利用されている.本稿では人工衛星による光学センサー画像を使用した氷河・氷床の流動測定について解説する.光学センサー画像を使用したフィーチャートラッキング法による氷河流動の測定の歴史と方法を説明するとともに,流動測定によく使用されている人工衛星画像について紹介する.
  • 中村 和樹, 森山 敏文, 長 康平
    2017 年 79 巻 1 号 p. 73-81
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    衛星観測から得られる海氷情報抽出には未だ不確実性が残されており,精度向上と信頼性の評価が課題となっている.衛星観測による海氷モニタリングに最も適したセンサの1つに,合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar:SAR)がある.SARを用いた海氷厚の抽出には,海氷表面の誘電率を正確に知る必要がある.SARデータによる海氷厚推定のためのアルゴリズム開発には,現場観測データによる評価やフィードバックが必要不可欠であるが,誘電率の直接計測は計測機器が高額かつ可搬性に乏しいため,現場観測での使用は現実的ではなく,誘電率モデル等により算出するのが一般的であった.近年,可搬性に優れたベクトルネットワークアナライザ(Vector Network Analyzer:VNA)が利用できるようになり,雪氷域において自由空間法を基礎とした,マイクロ波を観測対象に垂直入射する場合の反射係数計測を用いた誘電率計測手法が提案され,その利用可能性が示されている.このことから,本研究では可搬型VNA と自由空間法を組み合わせたシステムを現場観測に応用することにより,海氷上の氷表面における誘電率の直接計測を実施した.誘電率の計測結果を誘電率モデルと比較した結果,過小評価の傾向にあるものの調和的な結果を得られた.
  • 河田 剛毅
    2017 年 79 巻 1 号 p. 89-104
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    水循環式雪冷房における冷熱取り出しとして,貯雪下層部に水を流す方式に着目し,雪を保存した場合の雪水間の熱交換特性を明らかにすることを目的とする.そこで,貯雪の規模と保存期間が異なる条件として,1)実験室規模の貯雪を用いて雪を0〜15日保存した場合,2)貯雪量12 ton規模の物流用コンテナでの貯雪を用いて雪を約4か月保存した場合,3)貯雪量150 ton規模の雪冷房実稼働設備で雪を約4か月保存した場合の3種類について,雪からの流水による冷熱取り出し実験を行い,貯雪の寸法・形状と水の冷え具合(水温低下量)の時間変化を測定した.貯雪の形状変化については,浸水部での空洞の成長による見かけの形状変化の停滞,貯雪の割れ,雪塊の倒れ込み・沈み込みといった現象が保存条件によらず観測され,この形状変化挙動に連動して水の冷え具合が変動することがわかった.貯雪の割れ発生状況は雪の保存条件による違いが見られた.雪を保存することで水の冷え具合は悪くなり,その影響は保存日数1日でも明確に認められた.水の冷え具合を表す水温低下率は初期およびその時点での雪長さ,貯雪と側壁の隙間の大きさ,保存期間により変化することなどがわかった.
  • 後藤 博, 梶川 正弘, 高橋 洋二, 高橋 弘毅, 吉田 功, 秋田雪の会雪渓観測グループ
    2017 年 79 巻 1 号 p. 105-116
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    秋田雪の会では鳥海山の北東斜面に位置する吹きだまり型多年性雪渓の一つ,七ツ釜南東部雪渓を1980年から定期的に調査してきた.本研究ではこの35年間の観測結果に基づき,雪渓規模の長期変動の特徴と涵養・消耗を制御する要因に関する解析を行った.得られた結果は次のように要約される.(1)雪渓規模(8月の体積)の変動を35年間通してみると,統計的に有意な縮小又は増大の長期トレンドは見られない.(2)8月の雪渓規模に影響を与える気候要素として,北東山麓に位置する矢島の冬期降水量,冬期平均気温,冬期降水量の前年差,秋田の冬期850 hPa等圧面平均風速,寒気の吹き出しに関与する冬期850 hPa等圧面平均高度および輪島との高度差が統計的に有意である.(3)8月から10月までの雪渓の消耗に関わる気候要素として,矢島の積算日照時間と積算気温が統計的に有意である.
  • 保井 みなみ
    2017 年 79 巻 1 号 p. 117-132
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    氷は,地球上だけではなく,太陽系の様々な固体天体に存在し,それが多種多様な地形や雪氷学的現象を起こしている.近年の天文観測や氷天体探査の進展によって太陽系の氷天体に関する情報は激的に増加し,宇宙雪氷学と呼ばれる宇宙の雪や氷を研究する学問分野は飛躍的に進んだ.それに伴い,2014年に出版された新版雪氷辞典では,宇宙雪氷学に関する多くの見出しが掲載された.本解説文では,新版雪氷辞典に掲載された見出しを基に,太陽系における雪氷研究の現状を最新情報も含めながら述べていく.そして,宇宙雪氷学の発展と深く結びついている氷天体探査に関して,現在計画中の将来探査をいくつか紹介する.
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