雪氷
Online ISSN : 1883-6267
Print ISSN : 0373-1006
79 巻, 6 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 平島 寛行, 勝島 隆史
    2017 年 79 巻 6 号 p. 483-495
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,融雪やrain on snowに関係した災害の予測に対する需要の増加に伴い,積雪中の水分移動のモデル化に関する研究がさかんに行われている.水分移動のモデル化の研究は数値シミュレーションの発展とともに進んできたが,そのモデルを構築するための基礎的なパラメータとして,積雪の毛管力及び透水係数の情報が重要である.本総説では,国内外で行われてきた水分移動のモデル化の研究として,毛管力及び透水係数の定式化に関する実験的研究,及び水分移動を再現する数値モデルに関する研究を中心に解説する.
  • 安達 聖, 山口 悟, 尾関 俊浩, 巨瀬 勝美
    2017 年 79 巻 6 号 p. 497-509
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    MRI(Magnetic Resonance Image/Imager)は撮像対象内に含まれる水の様子を非破壊かつ3次元的に描出が可能である.MRIを用いて雪試料を撮像するためにはMRIで使用している複数のコイルからの発熱が雪試料へ与える影響や,低温室内に永久磁石を設置することにより発生する静磁場歪みに起因する画像歪みなどの問題を解決する必要があった.それらの問題を解決するため,雪氷用MRIではコイルからの発熱を抑制するための空冷装置と,湿雪試料の温度を一定に保つための液冷装置を組み合わせた冷却装置の使用が求められる.また,静磁場歪みの補正には静磁場補正用のコイルを用いるか,画像歪み補正ソフトを用いる必要がある.本稿では,現在実際に湿雪研究に用いられている雪氷用MRIの現状に関して解説をする.
  • 勝島 隆史, 安達 聖, 山口 悟, 平島 寛行, 熊倉 俊郎
    2017 年 79 巻 6 号 p. 511-524
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,乾雪への浸透を対象とする数値計算モデルの検証である.ふるい分けにより粒径を調整した4種類の雪試料を用いて乾雪への鉛直1次元浸透実験を実施し,浸潤前線の先端部の位置を測定した.浸透実験の結果と,既存の水分移動モデルによる計算結果とを比較し,モデルの再現性能について検証を行った.その結果,粒径の小さな雪においてはリチャーズ式に基づくモデルにより浸潤前線の先端部の移動速度を概ね良好に再現することが出来ることが確認された.一方で,粒径の大きな雪では浸透初期において浸潤前線の移動速度が小さく,非常に高い含水状態になる現象が確認された.この測定結果を用いて数値計算結果と比較したところ,リチャーズ式に基づくモデルでは浸透初期の移動速度を過大評価する結果となった.また,水侵入圧の効果を考慮するために浸潤前線の前進に対してマトリックポテンシャルの閾値を導入したモデルでは,浸透初期に浸潤前線の先端部の移動速度が小さくなる現象を再現することは出来たが,その移動速度は実際の現象と比較して過小評価する結果となった.
  • 庭野 匡思, 青木 輝夫, 橋本 明弘, 山口 悟, 本吉 弘岐, 谷川 朋範, 保坂 征宏
    2017 年 79 巻 6 号 p. 525-538
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    積雪変質モデルSMAPを2015-2016冬期の新潟県内アメダス13地点に適用し,積雪深を再現した結果を示す.SMAPの入力データには,アメダス観測結果から捕捉率補正を施した降水量,気温,風速を与えた.捕捉率補正に際しては予め雨雪分離を行っておく必要があるが,本研究では分離の指標として気温を採用し,その閾値Tdiscを現実的な範囲で0,0.5,及び1℃に変化させる3パターンの入力データを作成した.モデルの駆動に必要なそれ以外のデータ(下向き短波・長波放射量,雲量,湿度,及び気圧)は気象庁非静力学モデルの計算結果から与えた.計算された積雪深は,長岡ではTdisc=0.5℃の時に最も良い再現精度が得られていたものの,津南を除く全地点においてはTdisc=0℃の時のスコアが最も良くなっていた.また,SMAPの計算結果がTdiscに非常に敏感であり,Tdiscが1℃と0℃の場合の積雪深計算結果平均偏差が最大で0.41m(小出)にまで達していたことも分かった.一方で,この平均偏差が0.10mと相対的に小さい場所(関山)も見られたことから,雨雪判別方法に敏感な場所とそうでない場所が存在することが示唆された.冬期降水曲線を用いた解析の結果によると,この場所による特性の違いは,降水量自体と降水が最も頻繁に起きる気温帯の違いによって説明出来ることが明らかとなった.
  • 島田 亙, 茂木 智行, 山口 悟, 小杉 健二, 阿部 修
    2017 年 79 巻 6 号 p. 539-548
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    人工的に作成した高密度層を含む乾雪低密度積雪に降水を加え,雪えくぼの形成を“その場”観察するとともに,断続的に断面観測を行った.密度,含水率プロファイルの時間変化とサーモグラフィー画像から,高密度層に帯水が起こり,下の乾雪低密度層へ局所的な初期流下が見られたが,積雪層の変形は見られなかった.この局所的な流下が断面全面で観察されたのち高密度層より上層の含水率が増加し,続いて積雪表面で凹部形成が進行した.乾雪低密度層は,初期の流下により雪温が0℃となり,積雪は粗粒化し,空隙サイズが大きくなったと考えられる.この積雪変態は,帯水の下層への流下を妨げ,より多くの水が貯まる原因となる.この結果,続いて起こる継続的な流下は,急速なざらめ雪への積雪変態を引き起こし,積雪表面に凹部を形成すると考えられる.
  • 中島 智美, 竹内 望
    2017 年 79 巻 6 号 p. 549-563
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    雪氷藻類は,融雪期の雪氷表面に繁殖する光合成微生物で,その細胞が持つ色素によって雪を赤や緑に着色することが知られている.本研究は,富山県の立山連峰の室堂平周辺の残雪表面において,2014年と2015年の融雪期に現れた赤雪を採取し,藻類の色素構成の空間的および時間的変化を明らかにすることを目的とした.採取した赤雪から抽出した色素の吸光スペクトルを測定した結果,合計7か所に吸収極大が認められ,各サンプルは現れた吸収極大の組み合わせによって4つのタイプにわけることができた.分析の結果,赤雪の色素タイプは,時期や場所によって変化し,同じ赤雪でも含まれる色素構成は異なることがわかった.顕微鏡観察の結果,藻類細胞は形態によって7種類に分類することができ,サンプル中に含まれる各細胞形態の割合は,色素タイプによって異なることがわかった.このことは,赤雪の色素構成が異なる要因は,含まれる藻類の種構成または各藻類細胞が持つ色素構成の違いであることを示している.まだ詳しい要因はわからないが,立山に現れる赤雪は,年,季節,場所によって藻類の種および色素構成が多様に変化することがわかった.
  • 佐藤 研吾, 小杉 健二
    2017 年 79 巻 6 号 p. 565-571
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    乾雪の樹枝状人工雪を用いて,その乾雪内に温風を強制的に通風させる方法で短時間に湿雪を作成する装置を紹介する.その装置は,上面および底面が直径5mmの多孔板で形成された湿雪作成箱に乾雪を敷き詰め,その下に4℃に制御した恒温箱を連結し,湿雪作成箱の上面から吸気することにより乾雪下面から乾雪内部に一様に通風させるものである.この装置により,10分程度の時間で,−10℃の乾雪から重量含水率1〜3%の湿雪を作成できる.この装置は,樹枝状結晶の形状を維持しながら,湿雪化させることが可能であるという従来の装置にない特徴を有する.本装置は簡易に短時間で湿雪を作成可能でありかつ再現性が高いため,人工雪のみならず自然雪を用いて湿雪を生成できるので,人工着雪実験の効率化,高精度化に貢献すると考えられる.
  • 島田 亙, 浅地 泉, 朴木 英治
    2017 年 79 巻 6 号 p. 573-579
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2017年4月15〜17日に実施した立山室堂平における積雪断面観測で,埋没した雪えくぼおよび水みちが観察された.雪えくぼは,こしまり雪層の一部が流下水によってざらめ雪や氷板となり形成されたと考えられた.より深い部分での水みち周辺の積雪構造から,積雪中の一様に見える厚いしまり雪層に,流下水による局所的な氷板が多数形成されていることが確認された.これらは,立山浄土山の気温データと室堂平ライブカメラ映像から,4月8日午後と11日の降水により形成され,12〜13日と15日の降雪により埋没したと考えられた.
  • 若濱 五郎
    2017 年 79 巻 6 号 p. 581-600
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    中谷宇吉郎先生は雪氷学の世界的な研究者である.天然雪の結晶の分類,人工雪の作成,種々の結晶形の生成条件など世界に先駆けた独創的な研究は,戦後発展した雲物理学,人工降雨,結晶成長などの基礎となった.中谷ダイヤグラムは現在も世界の科学者が結晶成長,形の物理の立場から研究されている.先生は更に積雪,凍土,着氷雪,霧など,寒冷地における自然現象と人間との関わり合いを総合的に研究する新分野「低温科学」を創始された.これは「雪氷寒冷圏の環境研究」の先駆けとなった.先生は実用研究も重視され,雪氷災害の軽減防除,水資源の調査などを広汎に行なった.戦後,先生はアメリカに招かれ,雪氷永久凍土研究所(SIPRE)の創設の指導をされる傍ら,念願の雪氷三部作(雪,積雪,氷)の完結を目指し,グリーンランドを舞台にして積雪の氷化過程,深層氷の物理研究を開始された.その途上,病に倒れられ,未完に終ったのは残念至極である.先生は寺田寅彦を師と仰ぎつつ,講演,文筆を通じて科学を一般に普及した.誰にも分かり易く面白く,かつ哲学や教訓も含む中谷独自の世界を展開した多数の随筆は,今も広く愛読されている.先生は今なお生きておられるのである.
  • 武田 一夫
    2017 年 79 巻 6 号 p. 601-609
    発行日: 2017年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    日本の凍上研究の原点を顧みると,中谷宇吉郎に行き着く.今から80年ほど前の太平洋戦争直前に,北海道や満州(現在の中国東北地域)の寒冷地の鉄道では,列車の速度を夏期だけでなく冬期も高速に保ち,輸送力を増強したいという需要の高まりから,線路の凍上対策が切迫した課題であった.中谷はもち込まれたこの課題をどのような視点で捉え,どのように解決を図ったのか,その過程を論文や随筆から回顧した.学生時代,寺田寅彦の門下生であった中谷は,寺田から霜柱の現象の面白さを知り,現象をよく観察することの大切さを学ぶ.やがて同窓の友人・三石巌が指導した自由学園の霜柱研究の成果をみて絶賛する.後に地表の霜柱と凍上を起こす地下の霜柱・アイスレンズとは同じ現象であると考え,現場調査で現象をよく観察し,室内凍上実験でそれを再現し,満州の永久凍土調査で凍上量・沈下量を予測する.中谷の凍上研究の背景には,寺田の他に,門下生で物理学科の同級生・桃谷嘉四郎や,満州鉄道の保線責任者で高校時代からの友人・高野與作の存在が欠かせない.雪結晶の研究で世界的に有名な中谷宇吉郎であるが,凍上研究でも彼の偉大な研究者の側面が伺える.
feedback
Top