雪氷
Online ISSN : 1883-6267
Print ISSN : 0373-1006
84 巻, 1 号
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研究ノート
  • 島田 亙, 伊東 慎司, 大島 基
    2022 年 84 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/16
    ジャーナル フリー

    雪結晶は,六回対称性を持った単結晶がよく知られているが,六回対称性を持たないものもあり,鴎状結晶はその一つである.この結晶の観察は,ほとんどが北極圏のカナダ北部など寒冷地に限られているが,2007年3月に上富良野町吹上温泉で,2020年12月に稚内市内で観察された.このうち2020年12月の稚内での観察は山岳地以外の国内では非常に珍しく,上空の強い寒気により地上で-9.6℃,雲頂と考えられる高度2106 mで-27.7℃という気象環境になっており,対流圏下層で成長したと考えられる.

論文
  • 阿部 隆博, 岩花 剛, 曽根 敏雄, 内田 昌男
    2022 年 84 巻 1 号 p. 13-27
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/16
    ジャーナル フリー

    寒冷地帯の広範囲に分布する永久凍土は,近年の気候変動によって大きな影響を受けている.特に山岳地域に存在する永久凍土の融解は,地面の安定性を変化させうる.永久凍土の融解量は,各年の凍土の季節的な凍結・融解の正味量に関係する.山岳永久凍土の融解速度を明らかにすることは,気候変動適応対策の構築のために重要であり,その監視手法の開発が望まれる.そこで本研究は,国内で最も広く山岳永久凍土が分布すると考えられる大雪山系において,現地測量と合成開口レーダ干渉解析により,凍土の季節的な融解沈降量の検出を試みた.2020年無積雪期の現地測量では,5月下旬から6月下旬にかけて2 cm強の沈降が測定され,その後8月末までの沈降は0.5 cm強であった.干渉解析で得られた沈降分布は,植生のほとんどない風衝砂礫地と概ね一致していた.また,現地測量点における沈降の時間変化は実測変位データと同様の変化傾向を示しており,干渉解析の有効性が確認できた.しかし,干渉解析で検出された5-6月の沈降量は1 cm弱であり,測量結果と比べて過小評価となった.この差異は,現地測量と干渉解析の空間代表性の違いによると考えられる.

速報
  • 永淵 修, 中澤 暦, 篠塚 賢一
    2022 年 84 巻 1 号 p. 29-37
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/16
    ジャーナル フリー

    マイクロプラスチック(MPs)は,都市域のみならず,世界最高峰のエベレスト山の雪やマリアナ海溝の最深部の堆積物,北極圏の雪など地球上のあらゆるところで発見されている.しかし,その輸送経路については未知の部分が多い.ここでは,北および西風が卓越する冬季に人為汚染のない自由対流圏にある高山で樹氷と積雪を採取し,MPsの有無についてFTIRイメージングを用いて検証した.その結果,積雪と樹氷中にMPsの存在が明らかになった.樹氷中には,8.34×106 m-3 から12.3×106 m-3 の範囲でMPsが検出され,積雪中には1.34×106 m-3 のMPsが存在した.樹氷中のMPsの濃度は積雪中の約10倍であった.樹氷中のMPsの粒径分布をみると,100 µm以下に90 %以上が存在し,その大部分が断片であった.構成成分はポリエチレン(PE)が主成分であった.

    都市域から離れた自由対流圏にある高山にもMPsによる汚染が存在していることが明らかになった.

総説
  • 対馬 勝年
    2022 年 84 巻 1 号 p. 39-64
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/16
    ジャーナル フリー

    復氷の実験と理論を主に実験法とその結果および理論仮定に着目して概説した.初期のBottomleyの実験,Ornsteinの理論から最新のDrake and Shreve,外塚ら,対馬らの研究まで,復氷は圧力融解と融け水の後方への流れ,および再凍結で説明された.しかし,ワイヤー上下の氷が荷重を半分ずつ支え合うとする仮定に問題があり,最大圧力と0℃からの圧力融解見積りも問題だった.温度差解析によると貫入速度vの理論値が実験値に近いナイロンやクロメルのワイヤーは水膜厚さtの関与が小さかった.vの理論値が実測値より著しく大きい銅線など高熱伝導率ワイヤーではtと水膜の粘性係数 η が関与した.温度差バランスの解析によるとtが薄すぎた.その原因として η の値が小さすぎる点を指摘した.

    ワイヤーが氷中に埋まって大気圧が加わらない場合,融点降下は氷温0℃からではなく三重点0.01℃からに変更される.従来の遷移領域は不純物由来ではなく,圧力融解発生の有無で説明できた.今後の展望として真空中でのv測定の必要性,ワイヤー下面氷・水境界の最低温度およびワイヤー上面水・氷境界の最高温度の各測定の必要性,ワイヤー下面氷中温度分布式の理論的導出などの重要性を指摘した.

論文
  • 亀田 貴雄, 蜂谷 衛, 仁平 慎吾, 細川 音治
    2022 年 84 巻 1 号 p. 65-88
    発行日: 2022/01/15
    公開日: 2022/02/16
    ジャーナル フリー

    摩周湖の結氷状況を近くの展望台で1974年から2021年まで毎年観測した.その結果,摩周湖は48年間で27回全面結氷をしており,全面結氷率は56.3 %であった.摩周湖に近い川湯と弟子屈のアメダスデータを用いて,摩周湖が全面結氷する条件を調べた結果,川湯アメダスの2月の月平均気温が-8.9℃以下になると,95.5 %の確率で全面結氷年を推定できることがわかった.弟子屈アメダスの日平均気温の61日間の移動平均での年最低値が-7.8℃以下になった時にも95.5 %の確率で全面結氷年を推定できることがわかった.摩周湖は一定の日積算寒度に到達すると全面結氷するのではなく,前年の夏の気温の影響を受けて,全面結氷に必要な日積算寒度が変化することもわかった.この関係を用いて2021年の摩周湖の全面結氷日を2020年9月1日,2021年1月1日,1月16日時点で予測した.その結果,全面結氷日はそれぞれ2月22日,2月10日,2月8日と予測できた.2021年は2月14日に全面結氷したため,予測誤差はそれぞれ+8日,-4日,-6日であり,前後1週間程度の予測誤差となった.現在,摩周湖周辺では2月の月平均気温が上昇しているため,摩周湖が全面結氷する確率は,今後減少すると考えられる.

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