雪氷
Online ISSN : 1883-6267
Print ISSN : 0373-1006
83 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 渡辺 興亜, 佐藤 和秀, 山田 知充, 遠藤 八十一, 成田 英器, 奥平 文雄
    2021 年 83 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    1970〜80年代に行われた南極雪氷広域観測計画の概要を俯瞰し,その展開を観測史的覚書として記した.観測は南極氷床の表面で毎年生じる「積雪層」の研究に始まったが,その後発展的に浅〜中層掘削観測に重点が移っていった.年々累積し,系統的に「雪氷層」というべき存在となった氷床現象の観測に発展していった.積雪層の巨大な堆積は氷床ダイナミックスを反映する流動体となり,また数十万年に及ぶ地球の気候・環境変動の記録媒体となって存在し,現在の雪氷学の主要な研究対象に発展しているが,ここではそれには触れない.しかし,その時々の大気-氷床相互作用を反映する年間表面収支の累積結果として存在する巨大な固体水圏は「表面積雪層」がその始まりである.年々の積雪層は一枚のシートではなく,年々の気候,氷床の地形に対応する降水量や斜面下降風の強弱に合わせて産状を変え,年層形成には1〜数年に及ぶ欠層が普遍的に生じ,また斜面下降風(カタバ風)が卓越する内陸域では長期堆積中断雪面(grazed surface)が特有の雪面形状で分布する.こうした雪氷現象は氷床の成り立ちに関わっており,氷床形成の理解に不可欠である.
  • 杉山 慎, 箕輪 昌紘, 伊藤 優人, 山根 志織
    2021 年 83 巻 1 号 p. 13-25
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    南極氷床の底面に湖や水路の存在が明らかとなり,その特殊な水理・水文環境,生体の存在可能性に注目が集まっている.また氷の底面流動や融解,地殻熱の流入や浸食・堆積作用などが生じる境界として,氷床底面は南極氷床の変動や役割を理解する上で重要である.さらに棚氷の変動が近年の氷床質量減少の鍵を握ることから,棚氷下の海洋循環と底面融解の把握が急務となっている.しかしながらその重要性にも関わらず,数100m から数kmの厚さを持つ氷に覆われた氷床底面の直接的観測は非常に難しい.その困難な観測を実現する手法が,熱水掘削と掘削孔を使った観測である.本稿では,南極氷床における熱水掘削を使った底面観測について,これまでに報告された研究例を概説する.また実施例として,筆者らが実施したラングホブデ氷河での掘削を紹介し,熱水掘削による氷床底面 探査の将来展望について述べる.
  • 庭野 匡思, 青木 輝夫, 橋本 明弘, 大島 長, 梶野 瑞王, 大沼 友貴彦, 藤田 耕史, 山口 悟, 島田 利元, 竹内 望, 津滝 ...
    2021 年 83 巻 1 号 p. 27-50
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    近年の極域での顕著な気温上昇に伴って,グリーンランド氷床では,雪氷融解とそれに起因する表面質量収支の減少が急速に進行している.南極氷床においても,将来の更なる温暖化に伴って同様の変化が引き起こされる可能性が考えられている.しかし,氷床の広大さゆえに,その詳細な実態と背景にあるメカニズムには不明な点が多い.我々は,この問題を解決する(プロセスを理解しモデル化する)ために,特に2010 年代以降,現地観測と最先端の数値モデリングを駆使した挑戦を続けてきている.本総説では,表面質量収支に焦点を絞り,グリーンランド氷床と南極氷床の昨今の表面質量収支の実態をレビューする.続いて,表面質量収支を計算することが可能な世界各国の最新の各種数値モデルを俯瞰する.その後,現在のモデルの限界・問題点を提示し,将来の研究の方向性を議論する.
  • 大沼 友貴彦, 竹内 望
    2021 年 83 巻 1 号 p. 51-66
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    北極圏の氷河や氷床の急激な融解の要因として,気温上昇だけでなく雪氷面のアルベドの低下が指摘されている.このアルベド低下の主要因は吸光性不純物で,大気由来の鉱物ダストや黒色炭素に加えて,寒冷環境で繁殖する微生物とその生物活動に由来する有機物の存在も近年明らかになってきた.この微生物過程によるアルベド低下効果はバイオアルベド効果と呼ばれ,世界各地の氷河や積雪で観測されている.微生物は雪氷上で光合成により増殖するため,その効果は大気から沈着する他の不純物とは異なる時空間的動態を示す.また,バイオアルベド効果は,微生物の細胞中の色素や有機物の吸光特性に依存し,他の不純物にはない特有の反射スペクトルを示す.現在,同効果の定量的評価および北極圏全域に広げた影響を評価するため,その雪氷アルベド物理モデルへの導入が進んでいる.さらに,雪氷上の微生物の繁殖モデルも提案され,任意の気候条件に対してバイオアルベド効果を推定する実現可能性も高まってきた.本稿では,このバイオアルベド効果の仕組みとそれに関わる近年の観測およびモデル研究について解説し,北極圏氷河の暗色化現象の理解,将来予測のための課題を述べる.
  • 平沢 尚彦, 本山 秀明, 山田 恭平, 杉浦 幸之助, 栗田 直幸
    2021 年 83 巻 1 号 p. 67-77
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
    超音波積雪深計を搭載したAWS(Automatic Weather Station)を,2016 年1 月から2019 年10 月 にかけて4 つの地点に新設した.それらの地点は,海岸域のH128,カタバ風が発達する大陸斜面域 のMD78,大陸斜面上部の内陸高地域のNRP,氷床頂上部のNDF である.この観測システムの目的 は,広域にわたる南極氷床の地域特性を把握しながら,総観規模擾乱や日変化による堆積の時間変化 を明らかにすることである.本論文はこれらの4地点で観測された雪面レベルの時間変動について調 べた.その結果以下のことが分かった.1)雪面レベルの時間変化には階段状の変動とパルス状の変 動がある.雪面レベルの上昇は主に階段状の上昇によりもたらされる.2)H128 及びNRP の比較に よって広域に同時に雪面レベルの変動が表れた4 つの事例が見いだされた.これらの事例では総観規 模擾乱に伴う雲域が氷床上に侵入していたことがNOAA の赤外画像から示唆された.3)雪面レベル の比較的大きな変動は異なる地点で同じ日に起こっていないことの方が圧倒的に多い.4)NRP 以外 の3地点において,暖候期にゆっくりとした雪面レベルの低下が観測された.
  • ─実験による着雪発達条件の検討─
    鎌田 慈, 室谷 浩平, 中出 孝次, 高橋 大介, 佐藤 研吾, 根本 征樹
    2021 年 83 巻 1 号 p. 79-95
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    冬季に積雪地域を走行する鉄道車両には着雪が成長し,これが落雪することで地上設備の破損などの被害が発生することがある.被害低減を目的とした着雪抑制方法を検討するため,数値シミュレーションで着雪状況を再現することが求められている.しかし,着雪状況を計算可能なシミュレータに反映する着雪の発達条件は明らかになっていない.そこで本研究では,立方体模型を風洞装置内に設置し,気温-2℃,風速2.5〜10ms−1の条件で人工雪を降雪させて2 種類の実験を実施した.一つは模型周囲の空気流と飛雪粒子の挙動を調べるための粒子画像流速測定実験,もう一つは風速や模型の回転角が着雪形状へ与える影響を調べるための着雪実験である.粒子画像流速測定法により,空気流は模型近傍で減速して方向を変えるが,飛雪粒子は風向に沿って減速せずに着雪表面に衝突し,衝突後,跳ね返った飛雪粒子は着雪表面に沿って流れることがわかった.また,着雪実験により,模型を回転させても風向と着雪表面のなす角度が風速毎にほぼ一定となることがわかった.十分に発達した着雪表面へ飛雪粒子が衝突した場合,衝突後の雪粒子は着雪表面に沿って流れると仮定して分析した結果,飛雪粒子の着雪表面の接線方向成分の速度は,風速が変わってもほぼ一定の値をとることがわかった.
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