積雪中の水分移動に関する研究が精力的に進められている.こうした多孔質体中の水分・熱・溶質移動問題についての知見は土壌物理の分野でも多く蓄積されている.中でも水分移動については,粒子表面や間隙での保水形態と間隙の径や形状の分布や変化を考慮した上で,いかに現実の問題を表現するかが肝要である.そこで,こうした土壌物理学的知見の応用と再確認を目的に,本稿では多孔質体中の保水や移動特性モデルの基礎について,間隙の圧縮や連続性の変化,マクロポアなどの間隙構造の視点から解説した.
斜面積雪中において斜面に平行に流れる水は側方流と呼ばれ,積雪底面から地中に浸透する際の不均一化や局所集中化を引き起こし,融雪災害の発生や河川流出へのタイミング等に大きく影響する.これまで積雪層内の側方流に関する研究は,国内外において観測や野外実験等により行われ,最近では積雪内での斜面浸透流の数値モデルの開発も進められている.本稿では,モデル化する上で参照すべき既往の斜面浸透過程に関する野外実験や観測,また測定技術等の知見を体系的に整理し,理解することを目的として,解説した.
雪氷用Magnetic Resonance Imaging(核磁気共鳴画像法.以下,MRI)を用いて湿雪試料中の水分分布を計測するために,数十分から数時間必要としていた撮像時間を数分にまで短縮する撮像法を検討した.他分野で使用されているMRIでは様々な高速撮像法が開発され利用されているが,いずれの撮像法も解析に耐える画像を取得するためには極めて綿密な最適化が必要であり,雪氷用MRIに応用することは難しい.本研究では,画像化に必要な核磁気共鳴信号の取得を間引くことにより撮像時間を短縮する圧縮センシングを,これまで雪氷用MRIで使用してきた撮像法と併用することで,従来の撮像法の30 %の時間で撮像できることを確認した.0.4 mmの空間分解能で撮像視野一辺51.2 mmの立方体の3次元画像を取得する撮像時間は3.3分であった.また,撮像シーケンスにおける繰り返し時間を水の縦緩和時間よりも短く設定し,段階的にこれを短くすることで撮像時間の短縮を図り,これにより得られた各画像より,画質の目安となる信号対雑音比や,真水が占める面積比,撮像時間を比較することで,湿雪試料中の水分分布を計測する際に最適な撮像法を選択するための指針を検討した.
氷点下でも含水する,塩を含む積雪の含水率を測定する方法について検討した.積雪が塩を含むことで凝固点が0℃を下回るため,このことを考慮せずに熱量式含水率計で含水率を測定すると,これを過小評価してしまう.そこでまず,熱量式含水率計を用いて,試料が氷点下温度から0℃に至るまでの比熱補正を加える厳密な方法を考案した.次に,試料の液体・固体部分が結氷温度で熱的平衡状態にあると仮定して,熱量式含水率計を用いずに試料の温度と塩分から計算する方法を考案した.その結果,自然積雪および塩化ナトリウムを添加した積雪試料の含水率について,両者の方法で得られたデータはよく一致した.前者は手間がかかる反面,どのような温度・塩分条件下でも測定できる利点がある.一方,後者は雪温が-1℃以上で誤差が大きくなるが,測定が簡便な点で有用である.これらの手法を北極海海氷上の積雪,およびサロマ湖氷上の積雪の含水率測定に適用し,幅広い条件で測定できることを確認した.
本稿では,まず冬期道路管理の多様性や現状について述べる.次に,シャーベット路面のすべり摩擦特性に関する研究を紹介する.最後に,車両が路面に及ぼす熱的影響として,タイヤを通じた熱伝導,車両底面からの放射熱および車両通過に励起される風に伴う伝達熱を説明するともに,これらの車両に関連する熱が路面や路面雪氷に及ぼす影響について解説する.
米原・関ケ原地区の降雪時,東海道新幹線は走行中の雪の舞い上げによる車体への着雪を防ぐため「列車の速度を落とした運転」,「スプリンクラー散水」を行っている.これらの着雪防止対策は気温が上昇した日中には有効であるが,早朝の低気温下には着雪防止効果が低いという課題があった.この要因は氷点下の気温時にスプリンクラー散水による濡れ雪の度合いが低いためと推定された.本研究では,室内試験や屋外観測を通してこのことを確かめ,氷点下の気温で効果的に積雪表面を濡れ雪化するスプリンクラーを開発した.東海道新幹線沿線で実地検証も行い,その有効性が確認された.
これまでに,水分子の双方の底面からの隣接面移動(AST)があって柱面が成長する薄角板の存在が明らかになった.本研究では,平滑な片方の底面と稜線模様などの凹凸がある面を主な表面とする樹枝状結晶について,水分子の隣接面移動(AST)の効果を調べる.
過去の実験の樹枝状結晶が,水分子の拡散場からの入射と片方の底面からの隣接面移動(AST)によって柱面が成長して生じていると仮定すると,多くの新たな理解や説明が可能になる.その内容は,片方の底面の役割が明確になること,凍結微水滴などからは水分子の隣接面移動(AST)の継続を可能にする薄い板状の張り出し形成があって樹枝状成長が始まること,先端部分のc軸に平行な向きのサイズに影響がない長時間の成長が説明できること,付着凍結雲粒が樹枝状成長の妨げになる明確な理由があること,稜線模様の成因の新たな説明が可能になること,などである.
“樹枝状結晶は,水分子の過冷却雲中の拡散場からの入射と片方の底面からの隣接面動(AST)によって柱面が成長する雪結晶である.” が結論である.