中部山岳地域は世界でも有数の豪雪地域であり,春から夏にかけての融雪水は重要な水資源である.冬期間に堆積した雪は,天然の白いダムとしての役割を果たしている.しかしながら,わが国の高標高地点での降雪量の観測がなされていないため,山岳地域における降雪量の地球温暖化への応答を,観測されたデータに基づいて議論することができない.中部山岳地域の上高地における気象・水文データを取得することができたので,近年68年間の気候・水循環変動を検討した.1945年から2012年までの年平均気温,年最高気温,年最低気温の長期変動傾向は認められない.同期間の年降水量は統計的に有意に減少傾向にある.1969年から2012年までの年累積降雪量は統計的に有意に増加傾向にある.また,1945年から2012年までの上高地梓川の年流出高とともに,融雪期(5月から7月まで)の流出高は統計的に有意に増加傾向にある.上高地梓川下流側の大正池では,年降水量は統計的に有意に減少傾向を示すが,融雪期には増減傾向は統計的に有意ではない.さらに,大正池での推定された年蒸発散量も融雪期の蒸発散量も増減傾向は統計的に有意ではない.これらのことから,上高地梓川流域における年降雪量は近年68年間で増加傾向にあると言える.
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