雪氷
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80 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 鈴木 啓助
    2018 年 80 巻 2 号 p. 103-113
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    中部山岳地域は世界でも有数の豪雪地域であり,春から夏にかけての融雪水は重要な水資源である.冬期間に堆積した雪は,天然の白いダムとしての役割を果たしている.しかしながら,わが国の高標高地点での降雪量の観測がなされていないため,山岳地域における降雪量の地球温暖化への応答を,観測されたデータに基づいて議論することができない.中部山岳地域の上高地における気象・水文データを取得することができたので,近年68年間の気候・水循環変動を検討した.1945年から2012年までの年平均気温,年最高気温,年最低気温の長期変動傾向は認められない.同期間の年降水量は統計的に有意に減少傾向にある.1969年から2012年までの年累積降雪量は統計的に有意に増加傾向にある.また,1945年から2012年までの上高地梓川の年流出高とともに,融雪期(5月から7月まで)の流出高は統計的に有意に増加傾向にある.上高地梓川下流側の大正池では,年降水量は統計的に有意に減少傾向を示すが,融雪期には増減傾向は統計的に有意ではない.さらに,大正池での推定された年蒸発散量も融雪期の蒸発散量も増減傾向は統計的に有意ではない.これらのことから,上高地梓川流域における年降雪量は近年68年間で増加傾向にあると言える.
  • 荒木 健太郎
    2018 年 80 巻 2 号 p. 115-129
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    降雪現象の高精度予測のためには,降雪雲の物理特性の実態解明が必要不可欠である.本研究では,関東甲信地方で降雪時に市民から雪結晶画像を募集する「#関東雪結晶プロジェクト」を実施し,2016〜2017年冬季観測結果により,シチズンサイエンスによる雪結晶観測の有効性を確かめ,降雪特性の実態把握を試みた. 雪結晶の撮影にはスマートフォンのカメラを採用し,ソーシャル・ネットワーキング・サービスを用いた画像収集を行った.これにより,ごく簡易な雪結晶観測手法を確立し,シチズンサイエンスとして効率的な観測データ収集を実現した.この結果,ひと冬を通して1万枚以上の雪結晶画像が集まり,そのうち解析可能なものは73%だった.この取り組みによって首都圏での時空間的に超高密度な雪結晶観測が実現できた.観測結果は,現象の実態解明だけでなく,数値予報モデルの検証・改良などにも応用可能である.一方,シチズンサイエンスデータの特性として,人口の多い都心部での現象では観測数が増えるものの,内陸部のみでの降雪の場合は観測数が少ない傾向が見られた.今後,シチズンサイエンスによる雪結晶観測のネットワークを拡充するために,自治体や教育機関との連携,効果的な広報・普及活動が必要である.
  • 荒木 健太郎
    2018 年 80 巻 2 号 p. 131-147
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2017年3月27日,本州南岸を通過した低気圧に伴う大雪により,栃木県那須町で表層雪崩による災害が発生した.表層雪崩発生には短時間での多量の降雪が重要と言われているが,山岳域での大雪時の降雪強化メカニズムやその水平分布等の特性は理解が不足している.そこで,本研究ではこの大雪の事例解析を行った.また,1989〜2017年の那須における降雪事例について統計解析を行い,降雪・気象場の諸特性を調べた. 事例解析の結果,3月27日の大雪事例では低気圧接近に伴い,湿潤な北〜東風の強まりとともに形成された地形性上昇流が過冷却の水雲を下層で発生させていた.この下層雲と低気圧に伴う雲からの降雪が,Seeder-Feederメカニズムを通して那須岳の北〜東斜面で降雪を強化し,局地的な短時間大雪をもたらしていた.統計解析の結果,この事例と同規模の大雪は約3年に1度,3月としては約19年に1度発生していた.那須で大雪となる気圧配置は西高東低の冬型が63%,低気圧が30%であり,いずれも日降雪時間が長いほど日降雪深が大きかった.しかし,低気圧による降雪の場合には例外的に短時間で大雪になることがあり,これらの事例の多くは閉塞段階の低気圧が関東付近を通過していた.
  • 阿部 修, 山口 悟, 小野 正光
    2018 年 80 巻 2 号 p. 149-157
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    月山(標高1984m)における,過去(1954,1955年)と近年(2003,2004年)に実施された4冬期の3月下旬の積雪調査から,積雪深の標高依存性および積雪深から積雪水量への換算式を検討し,月山山頂を中心にした東西南北それぞれ20km四方の積雪賦存量を推定した.その結果,標高ごとの積雪賦存量では900-1000mに最大値が出現すること,全体の積雪賦存量は約5.2億tとなることがわかった.また,平均積雪水量は1300mmとなり,この地域が我が国有数の多雪地帯の一つであることが確認された.
  • 斉藤 和之, 森 淳子, 町屋 広和, 宮崎 真, 伊勢 武史, 末吉 哲雄, 山崎 剛, 飯島 慈裕, 伊川 浩樹, 市井 和仁, 伊藤 ...
    2018 年 80 巻 2 号 p. 159-174
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    北極陸域モデル相互比較(GTMIP)は観測-モデル研究連携の構築,現行の陸域過程モデルの不確実性把握,次世代モデル構築のための課題抽出を目的とし,物理系から生態系にまたがる国内外の21モデルと6観測サイトが参加して行われた.評価項目は熱・水収支,積雪・凍土,炭素循環にわたるが,本稿では4サイト(フェアバンクス,ケヴォ,ティクシ,ヤクーツク)の観測値をもとに構築した共通駆動データを使用した34年間(1980-2013)の比較(stage 1)での熱・水収支について,その結果を報告する. 大気との熱・水収支に関して,物理系と生態系モデルの間では系統的な差異は見られず,個々のモデルの特徴のほうが大きかった.サイト間でも挙動の違いがあるものの,モデルの種類や複雑さとは必ずしも連動せず,背景(植生や凍土状況)に起因する違いのほうが大きかった.全体的に,モデル中央値は観測値をよく代表する推定値であったが,特に地下部との熱・水収支に関わる積雪や土壌水分・地温については,既定値設定や実装過程の有無によるモデル性能の差異もしくは系統的誤差が生じており,今後のモデル改良・高度化における重要性が示唆された.
  • 松村 伸治
    2018 年 80 巻 2 号 p. 175-184
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    寒候期における大気と雪氷(積雪および海氷)との関係は近年の中緯度域の寒冬と関連して近年急速に理解が進んでおり,関連するレビュー論文も数多く出版されているのに対し,暖候期に関しては未だ発展途上であり理解に乏しい.そこで,今後の研究の一助とするために暖候期の大気-雪氷相互作用に関する最近の研究を紹介する.前半は積雪や凍土を介した北ユーラシアの大気-陸面相互作用,後半は大気循環を介した春季ユーラシアの積雪と夏季北極海の海氷とのリンク,最後に北極温暖化増幅を理解するための課題に触れている.本稿は,気象・気候学の観点から雪氷と大気との相互作用を論じており,最近の北極域の気候変動は関連する分野の横断的な理解,つまり気候システムとしての理解が必要不可欠であると考える.
  • 鈴木 和良
    2018 年 80 巻 2 号 p. 185-192
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    極域などの寒冷圏は観測空白域が広がり,人工衛星観測の利用が重要な地域である.近年,衛星観測データの増加に伴い,そのデータの利活用を目的として,観測とモデルをつなぐデータ同化研究が活発になってきている.雪氷─大気・海洋結合モデルは,一般的に結合プロセスの予測可能性を改善する.こうした結合モデルにおけるデータ同化の役割(例えば,初期値の提供)は重要である.結合データ同化は大きく3つに分かれ,非結合,弱結合,ならびに強結合データ同化が存在する.本総説では,結合データ同化の概要,並びに海氷・海洋や寒冷陸域での研究例を紹介し,最後に今後の展望について述べる.結合データ同化研究は,観測データが乏しい寒冷圏のモニタリング手法として有効であり,今後の気候変動研究への応用や効率的な観測ネットワーク設計に適用できる.
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