雪氷
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78 巻, 5 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 松澤 勝
    2016 年 78 巻 5 号 p. 255-268
    発行日: 2016年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    吹雪対策を効果的に整備するためには,吹雪危険度の定量的な把握が必要である.この際,指標として吹雪量が用いられるが,吹雪量は直接計測することが難しいため,風速と吹雪量の経験式を用いて風速から推定される.しかし既往の経験式には降雪強度が考慮されていない.一方,我が国のように降雪の多い地域で,吹雪量を把握するためには,降雪強度を考慮することが必要と考えられる.そこで,本研究では降雪を伴う吹雪時の吹雪量推定手法を導き,その適用可能性を検討した.まず,全層の吹雪量を,浮遊層の吹雪量と跳躍層の吹雪量の和と仮定した.浮遊層においては,飛雪空間密度と風速の積を高さ方向に積分して吹雪量を計算する手法を導いた.また,跳躍層の吹雪量は,既往研究の中からKobayashi(1972)の経験式を採用した.これらの手法により推定した吹雪量を,飛雪流量の実測値から求めた吹雪量と比較した結果,両者は概ね一致した.
  • 今村 百太, 武田 一夫, 火ノ川 祐貴, 野堀 嘉裕, 木村 賢人, 瀧 誠志郎
    2016 年 78 巻 5 号 p. 269-279
    発行日: 2016年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    少積雪寒冷地域で土壌凍結が樹木の成長に及ぼす影響を明らかにするため,北海道東部の十勝地域に生育するカラマツ(Larix Kaempferi)を対象に,年輪幅と気象に関わるいくつかの要素との相関分析を行った.はじめに,20個体・40試料を解析して得た各年輪曲線を集約して,採取地を代表する1本の標準年輪曲線(個体間の相関係数0.646)にまとめた.この曲線を構成する年輪幅は,1981年11月〜2013年4月の32年冬期分の最大凍結深と負の相関があった.相関係数は,r=−0.451(p<0.01)となり,解析した要素の中で最も大きくなった.また,年輪幅は寒さの度合いを示す凍結指数とは相関が認められず,最大積雪深と正の相関(r=0.312,p=0.08)があった.32年分の最大凍結深の平均値は0.25mであり,カラマツ根系の細根分布の深さと一致した.カラマツ生育地の表土が凍上性であることを考慮すると,最大凍結深が大きいと,凍上による細根の切断リスクは高まることが予想される.このため,カラマツの肥大成長が抑制されて,年輪幅は小さくなると考えられる.
  • 太田 有香, 八久保 晶弘, 竹谷 敏
    2016 年 78 巻 5 号 p. 281-290
    発行日: 2016年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    海底堆積物中に存在する珪藻のような,大きな比表面積を有するサブミクロンオーダーの細孔は,メタンハイドレートの生成・解離過程に影響を及ぼすと考えられる.本研究では,シリカゲルおよび珪藻土の細孔中にメタンハイドレートを人工的に生成し,生成時のメタン安定同位体分析を実施するとともに,熱分析により解離過程を観察した.細孔中のメタンハイドレートがメタンガスと氷に分解する際の解離熱は,バルクのメタンハイドレートより約15% 小さかった.また,メタンハイドレート生成時の炭素・水素安定同位体分別について調べたところ,ハイドレート相のδD はガス相と比較して5.5±0.8‰小さく,バルクのメタンハイドレートに関する先行研究(Hachikubo et al., 2007)の結果と一致した.一方,ハイドレート相のδ13C はガス相と比較して1.1±0.6‰大きくなり,バルクのメタンハイドレートとは異なる結果を得た.
  • 柴田 有貴, 河島 克久, 鈴木 博人
    2016 年 78 巻 5 号 p. 291-306
    発行日: 2016年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    新潟県内の平野部から山間部にいたる広範囲を解析対象として,地上観測データを用いて積雪深および積雪期間の長期変動解析を行った.この解析のため,気象庁のみならず自治体,消防署,鉄道などの日単位の積雪深データを収集し,新潟県内17地点における1941/42年冬季から2012/13年冬季までの72年分の長期連続データを整備した.このデータセットに対して一次回帰分析とMann-Kendall 検定を適用し,年最大積雪深と積雪期間のトレンドの検定(有意水準5%)を行った.その結果,上記72年間において年最大積雪深は標高30m未満で有意な減少傾向がみられ(10年当たりの減少量2.3〜12.8cm),それ以上の標高では有意性は認められなかった.降水量及び気温の長期変動と比較することにより,標高30m未満における減少傾向には,冬季降水量の減少と冬季平均気温の上昇の両方が関係していることが明らかになった.一方,積雪期間については,少なくとも標高350m以下の標高では縮小傾向にあり(10年当たりの縮小日数1.7〜7.5日),特に積雪終日が有意に早まっている地点が多くみられた.積雪期間の縮小傾向の主要な原因は地点によって異なると考えられるが,標高30m未満の地点では,3月の平均気温の上昇による消耗期の早まりと融雪量の増加に加えて,2月の平均気温の上昇による堆積期の積雪量の減少が特に大きく関係しているものと推測される.
  • 渡辺 幸一, 平井 泰貴, 中川 佳祐, 小川 厚次, 上原 佳敏, 朴木 英治, 島田 亙, 青木 一真, 川田 邦夫
    2016 年 78 巻 5 号 p. 307-315
    発行日: 2016年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2009年から2014年の4月の立山・室堂平における積雪層中のナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl)の濃度を比較した結果,2011年までは両者の比がほぼ海水比に等しかったのに対し,2012年以降では過剰のClがみられ,立山・弥陀ヶ原(地獄谷)の噴気活動の活発化によるものと考えられる.2009年と2014年の積雪層を比較した結果,2014年では,Na+濃度のピークを伴わない高濃度Cl層がいくつもみられたが,いずれの層においても非海塩起源硫酸イオン(nssSO42−)濃度は高くなく,火山ガスによるnssSO42−への影響はほとんどないと考えられる.地獄谷の噴気活動の活発・拡大化は,2012年以降の室堂平での積雪中のCl濃度に影響を及ぼしているものの,nssSO42−などの人為汚染物質の輸送・沈着を考察する上で影響はほとんどないと考えられる.
  • 小花和 宏之, 河島 克久, 松元 高峰, 伊豫部 勉, 大前 宏和
    2016 年 78 巻 5 号 p. 317-328
    発行日: 2016年
    公開日: 2023/03/02
    ジャーナル オープンアクセス
    小型UAV,光学カメラ,SfM-MVSソフトウェアで構成されるUAV写真測量手法を用いて,山地斜面を対象とした積雪期と無雪期の2時期における測量を行い,詳細な3次元モデルを作成した.さらに,両時期の標高値の差分から積雪深の空間分布を推定した.推定した積雪深をsnow probeにより計測した実測値と比較したところ,その相対誤差は平均8%と評価された.また,本手法により求めた積雪深および地形データは空間解像度が高いため,任意の測線上の詳細な地形および積雪深断面図の作成,任意の範囲の積雪の体積の推定が可能である.本手法の雪氷分野での活用可能性としては,雪崩危険度評価パラメータの高解像度かつ高頻度な取得,地上からアクセスが難しい場所も含めた雪崩災害状況の迅速かつ詳細な調査が考えられる.一方,現状の課題としては,広域(おおよそ数km2以上)あるいは長時間(おおよそ1時間以上)の計測ができない,降水および強風時の運用ができない,機材が低温環境に弱い等が挙げられる.
  • 関口 辰夫, 阿部 孝幸, 阿部 修, 秋山 一弥
    2016 年 78 巻 5 号 p. 329-337
    発行日: 2016年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    大正7年(1918)年1月20日,山形県西南部の鶴岡市(旧朝日村)に位置する朝日山地西部の大鳥鉱山(現在は廃鉱)において,大規模な表層雪崩が発生して鉱山集落を襲い,死者154名という多数の犠牲者を出す雪崩災害となった.発生した雪崩は表層雪崩で,発生斜面の地形は概して平滑,傾斜は稜線直下で46.1°,見通し角は28.2°に達する急傾斜の斜面で,筋状地形など全層雪崩発生斜面に特有の地形を有していた.鉱山集落は雪崩発生斜面の下方の,狭小な河岸段丘上に密集して建てられていた.大鳥鉱山の雪崩は,大量の降雪や積雪による気象条件のほかに,雪崩発生斜面に特有の地形,狭小な河岸段丘上に家屋が密集していたことなどのために大きな災害になったと考えられる.
  • 中尾 正義
    2016 年 78 巻 5 号 p. 339-348
    発行日: 2016年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では,2001年から2011年にかけて行った,オアシス地域の水環境の変遷に関する研究プロジェクトの概要を解説します.対象地域は,中国の青海省,甘粛省,内モンゴル自治区にまたがる黒河と呼ばれる河の流域です.遠く2000年も昔の漢王朝の時代から現在に至るまで,同流域における水不足という問題が,人と自然との関わりの中で,幾度も繰り返し生じてきたという実態が明らかになりました.その歴史的変遷過程の復元を通して,現代の水問題,ひいてはいわゆる地球環境問題について考えたいと思います.
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