雪氷
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58 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 佐藤 冬樹, 笹賀 一郎, 藤原 滉一郎
    1996 年 58 巻 4 号 p. 285-294
    発行日: 1996/07/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    日本最北の森林地帯である,北海道北部の天塩地方演習林において1990年12月から5冬季にわたり降雪の化学成分を調査した.その結果,工場など産業活動による酸性物質の発生源が周辺にないにもかかわらず,降雪のpHは5.6以下の酸性雪である場合が多かった.また,低気圧が北海道付近を通過した後の降雪のpHは通過前のpHよりも低く,季節風の吹き出しが降雪の酸性化に関与していることが推定された.また,厳冬期の降雪の飛来方向は,日本海方面とオホーツク海方面に大別され,中国大陸より飛来する酸性汚染物質をモニターするためには,日本海方面からの降雪の化学的性質が重要と考えられた.
    大気汚染物質起源と考えられる非海塩性SO42-の濃度は日本海方面からの降雪で高かったにもかかわらず,降雪の平均pHは降雪の飛来方向による差は認められなかった.また,日本海方面からの降雪で非海塩性Ca2+の濃度も高くなっていることから考えると,大陸上空を覆っているレスなどの土壌粒子により,現時点では中国方面からの降雪の酸性度の低下が抑えられている可能性が強い.
    日本最北の森林である北海道大学天塩地方演習林において,1990年12月~1995年3月にかけて降雪の化学的性質に関する観測をおこなった結果,以下のことがわかった.
  • 鈴木 啓助, 渡辺 泰徳
    1996 年 58 巻 4 号 p. 295-301
    発行日: 1996/07/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    林冠環境の異なる3地点(コナラ林,アカマツ林,林外)において,積雪中の化学物質濃度および生物量の変化を調べた.積雪中の陰イオン濃度は,アカマツ林内でコナラ林内および林外よりも高くなっている.各地点とも積雪中のCl-,NO3-,SO42-濃度は,融雪の進行によって低下する.しかしながら,積雪中のPO43-濃度は,いずれの地点でも融雪最盛期に増加する.その濃度が,アカマツ林内とコナラ林内で林外よりも高いことから,積雪中のPO43-は有機物の二次生成物と考えられる.顕微鏡観察によると,林内の積雪中には細菌・カビ・藻類の存在が認められるが,積雪初期には低密度で,融雪最盛期に増加する.積雪中のクロロフィルaとフェオフィチンaの濃度は,アカマツ林内においてコナラ林,林外よりも高い.また,アカマツ林内およびコナラ林内のクロロフィルa濃度は,融雪最盛期に増加し,藻類が増加することを示している.積雪中のバクテリア数は,アカマツ林内>コナラ林内>林外の順であり,融雪最盛期に多くなる.積雪融解試料による培養実験の結果,アカマツ林内の試料を明所に置いた場合のみ,NO3-濃度が減少し,25日目以降NO3-が検出されない.積雪融解試料に緑藻を添加した培養実験では,アカマツ林内の試料で,2週間でクロロフィルaとして14.7μg/lの緑藻が増加した.この結果から窒素の消費量を見積もると,藻類の増加によって積雪中からNとして220μg/lが消費されたことになる.
  • 近藤 純正, 徐 健青
    1996 年 58 巻 4 号 p. 303-316
    発行日: 1996/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    熱収支・水収支計算モデルを用いて,中国北西部における積雪が地表面の熱収支と水収支に及ぼす影響を調べた.主な結果は次の通りである.(1)積雪の堆積・融雪過程の計算結果はルーチン観測とよく対応した.冬期間の最大積雪水当量(または根雪の消失日)と,融雪期~初夏にかけての長期間の顕熱・潜熱輸送量の積算値との間には高い相関関係が見出された.(2)消雪の直後,地表面温度が上昇し始め,顕熱・潜熱輸送量は急激に増加し,マイナスの値からプラスに転じる.表層土壌の水分量は融雪水によって約10日間にわたり増加するが,その後,約20日間にわたり減少して小さな値になる.その結果,それ以後の潜熱輸送量は小さくなる.(3)乾燥~半乾燥域では,降雨によってもたらされた大部分の水分は数日のうちに蒸発によって失われるので,水資源量はきわめて少ない.しかし,積雪地域では春の融雪水のかなりの部分が水資源量となる.
  • 坊城 智広, 松田 宏, 小山 嘉紀
    1996 年 58 巻 4 号 p. 317-320
    発行日: 1996/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    雪崩が斜面の上位の急傾斜側から下位の緩傾斜側に移る地点すなわち傾斜遷緩点では,屈折によって雪崩が減速すると考えられている.従来はその計算式は,遷緩点前後の傾斜角またはその差としての遷緩屈折角などの,角度に関する要素だけをパラメータとしていた.これに対して著者らは,屈折減速の主な原因は,遷緩屈折角の大きさに対応した局部的な摩擦抵抗力が更に雪崩に加わるためであると考え,遷緩屈折角の他に動摩擦係数も含む新しい計算式を理論的に誘導した.著者らの計算式では,遷緩屈折点の下方の勾配が水平または上昇勾配となった場合や,斜面に直角な壁面に雪崩が衝突した場合のような,従来の計算式では再現できなかった屈折減速の再現が可能である.
  • 梅村 晃由
    1996 年 58 巻 4 号 p. 321-328
    発行日: 1996/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    流雪溝と管路による雪の水力輸送に関して,力学的立場から,最近の研究の統一的な解説を試み,つぎのことを紹介した.流雪溝では,雪塊が底についた場合と水に浮く場合について,力のバランスから,水の流量Qwと雪の流量Qsをもとめると,水深とともに雪処理能力を決定する因子が何であるか明確になる.管路では,雪水二相流の水力勾配が水との比較で知られていて,これから輸送動力が計算される.管路に雪を押込む雪押込機や流雪溝端末処理装置では,雪濃度の変動解析と,撹拌限界を求める実験から,経験式が作られていて,装置設計の諸元が決められる.しかし,流雪溝では解析結果の直接的検証が,管路ではQsとQwを分離した解析が,そして押込装置では撹拌における両相の力学解析が,未だ実行されておらず,今後の進展が期待される.
  • 石坂 雅昭
    1996 年 58 巻 4 号 p. 329-338
    発行日: 1996/07/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    日本の冬期の気候的な特徴と積雪との関連をメッシュ気候値をもとに量及び質の両面から検討した.湿り雪地域の積雪については,定義を詳細に論じるとともに,一冬期を通じた層構造の変化をあらわす簡単なモデルを提案した.また,各雪質ごとに緯度と標高の関係,平均気温と積雪深との関係を求め,日本の積雪地域の地理的および気候的な特徴を明らかにした.この中で,しもざらめ雪地域を指定する推定ラム硬度の式と同等な積雪と気温による関係式を見いだすことができた.さらに,メッシュ気候値を用いたデータベースや積雪の数値情報地図などにもふれながら,メッシュ気候値による雪質区分の有用性を解説した.
  • 水分子,水,および氷の原子間ポテンシャルモデル
    河村 雄行
    1996 年 58 巻 4 号 p. 339-342
    発行日: 1996/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    1970年代初めに出現した水分子の相互作用モデルは,溶融塩のための分子シミュレーション手法の出現とともに,それまでほとんど「統計物理学の実験手法」のみとして位置付けられていた分子動力学法とメトロポリス・モンテカルロ法のユーザーを広く化学とその応用分野に拡大した.最近では,バルク状態の純粋な水や氷だけでなく,膜と気相の系や水中の電極表面など,あるいは超臨界状態を含む高温高圧下の水や氷,電解質や有機分子の水溶液などにも適用されている.水の分子・原子間相互作用モデルは,初期の経験的剛体分子モデルから(黎明期:BNS,ST2),分子軌道法を用いた第一原理的剛体分子モデルを経て(発展期:MCY,CC),最近では,再現性が優れていることから,再び経験的モデルが多用されるようになっている(充実期(回帰):TIPS,TIP4P).また,剛体分子としての取り扱いから,内部自由度を持つモデル(剛体分子からの発展と中心力での構成の2種がある),さらに全自由度を持つモデルへと発展してきた.
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