雪氷
Online ISSN : 1883-6267
Print ISSN : 0373-1006
80 巻, 5 号
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  • 鎌田 慈, 宍戸 真也, 根津 一嘉
    2018 年 80 巻 5 号 p. 427-440
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    冬の晴れた夜間に架線に発生する霜により離線が発生し,これに伴うアーク放電がパンタグラフの損傷等の事故の原因となることがある.本研究では,全国の架線着霜被害の実態と対策の分析,岐阜県中津川駅における観測,観測結果と霜の発生メカニズムに基づいて翌朝の架線着霜を予測する簡便な手法の検討を実施した.観測の結果,気温は0.5℃以下,相対湿度は80%以上,風速は1ms−1以下,放射収支量は−70Wm−2以下の条件が重なる時に着霜発生の可能性が高いことがわかった.このような条件下では,架線表面付近の水蒸気が過飽和となって架線表面に昇華凝結し,霜が発生することを確認した.また,架線着霜が発生する日は,夕刻から朝まで一晩を通して水蒸気濃度の変化が小さいことを確認した.そこで,温度と水蒸気濃度の関係に着目し,夕刻の気温,相対湿度の実測値と翌朝の予想天気,予想最低気温から架線着霜の発生を予測する手法を開発した.本予測手法の精度を検証した結果,高い適中率で架線着霜の発生予測が可能なことがわかった.また,これを霜取り列車等の運行判断に用いた場合,適中率が向上し,かつ空振りを削減可能な見込みが得られた.
  • 松下 拓樹
    2018 年 80 巻 5 号 p. 441-450
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    雪崩対策施設や積雪寒冷地の建築物の設計に用いられる積雪密度は,これまで積雪深のみ用いた関係式から求められてきた.しかし,実際の積雪の密度は地域により多様性をみせる.本稿では,積雪の地域特性に即した積雪密度の推定方法を示すことを目的として,積雪密度の地域特性に影響する要素として雪温や気温に着目し検討を行った.新潟県と長野県の9地点における積雪断面観測の結果に基づき,積雪の全層平均密度を目的変数とする重回帰分析を行ったところ,積雪深と全層平均雪温を説明変数とする推定式を得た.雪温を用いることで,同じ積雪深でも雪温に応じた積雪密度の幅を持った推定が可能になると考えられる.
  • 小嶋 真輔
    2018 年 80 巻 5 号 p. 451-459
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    効率的で安全な研究・開発手段の1つとして,自然現象を人工的に再現する環境試験設備が産学官で活用されている.多種多様な自然現象の中でも,特に雪氷は天候や季節の影響を受けやすく,このことが研究・開発の足かせとなることも少なくない.そこで,環境試験設備を用いた季節に依らない実験的な検証が,雪氷関連の研究・開発の効率化に大きく寄与することとなる.また,環境試験設備を用いることで,同一条件での繰り返し試験や,危険を伴うフィールド試験を安全に行うことが可能となる.環境試験設備で使用される人工雪には,自然界における雲の中の環境を再現して生成する樹枝状結晶雪,低温空気中に微水滴を噴霧して生成した球形の微粒氷を併合させた雪片状の雪,氷を細かく粉砕した粒状雪があり,それぞれ目的に応じて使い分けることが重要となる.雪氷分野の環境試験設備に対するニーズは年々高度化しており,要求事項の多様化も見られる.本稿では,当社の雪氷再現技術に基づく環境試験設備で使用される人工雪の種類と特徴を紹介すると共に,工学的な用途事例についても解説する.
  • 松宮 央登, 江口 譲, 西原 崇
    2018 年 80 巻 5 号 p. 461-474
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2005年12月,日本海側の地域が暴風雪に見舞われ,雪害による大規模な停電被害が発生した.この被害を受け,経済産業省の諮問機関に設置された「送電設備の雪害対策ワーキンググループ」において,観測される機会の少ない雪害については,電気事業全体で一元的に観測とデータ管理を行い,雪害事象の更なる探求と解析技術の向上を図るべきとの提言がなされた.その後,電力中央研究所では,電力各社の協力のもと,2007年から10ヶ年にわたる研究プロジェクトとして,雪害発生メカニズムの解明および,その発生評価手法の開発や対策技術の向上に取り組んできた.本解説では,同プロジェクトの取り組みおよび成果の概要を紹介する.
  • Alimasi Nuerasimuguli, 榎本 浩之, 平沢 尚彦
    2018 年 80 巻 5 号 p. 481-499
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    夏季の南極氷床縁辺部のマイクロ波輝度温度の時間変化や融解発生時の特徴を明らかにするために,S17にて2017年1月に6, 18, 36GHzの可搬型マイクロ波放射計を用いて定点観測を行った.融解による輝度温度の急上昇は複数回観測できた.輝度温度上昇幅は6GHz水平偏波で最大であり,70Kに及んだ.輝度温度上昇時は,高周波の18, 36GHzの輝度温度が先に上昇し,低周波の6GHzは遅れて上昇した.6GHzの放射が,表面付近からだけではなく,より深い積雪層からの放射の影響を受けているためと考えられる.S17と約80km内陸のH128間の6GHzの雪上車による移動観測から,輝度温度の全体的な変化傾向は内陸から沿岸に向かっての上昇であるが,S17付近が特異的に低い輝度温度であることがわかった.この原因として積雪層内に形成されている融解・再凍結により形成された氷板により射出率が低下したと考えられる.この低輝度温度域では,融解時の輝度温度上昇幅が大きくなる.衛星観測でも,沿岸から内陸に向かって6GHzの輝度温度が上がる傾向は観測されたが,S17付近で輝度温度が低くなることは観測されなかった.また,S17付近での融解時の輝度温度上昇は約5Kの上昇幅に留まっていた.氷床縁辺部のマイクロ波放射に関して時間空間分解能の限られた衛星観測が捉えていない変動がある.
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