雪氷
Online ISSN : 1883-6267
Print ISSN : 0373-1006
80 巻, 4 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 森 啓輔, 伊藤 陽一, 西村 浩一, Patra Abani
    2018 年 80 巻 4 号 p. 277-287
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    雪崩を質点や剛体と仮定した運動モデルでは,雪崩の厚さや広がりがわからないなど防災上不備な点も多い.こうした背景のもと,土石流や地すべりなどの粒状体に加えて溶岩流の流動や堆積の再現にも実績がある連続体モデルTITAN2Dを用いて雪崩の運動シミュレーションを試みた.本稿では,実際の雪崩への適用に先立ち,雪粒子を含む3 種類の粒子を用いた室内実験を実施し,TITAN2Dによる計算結果との比較を通してモデルの性能評価を行った.TITAN2Dが浅水流近似により導かれたモデルであること,さらには底面摩擦角の測定の困難さが起因して,流れの先端速度,最大高さ(厚さ)と広がりに相違が見られた場合があるものの,全体的にはTITAN2Dは実験結果を再現しており,実際の雪崩現象への拡張も十分に可能と結論された.
  • 森 啓輔, 西村 浩一, 常松 佳恵, 阿部 修, Patra Abani
    2018 年 80 巻 4 号 p. 289-296
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    雪崩を質点や剛体と仮定した流動モデルでは,雪崩の高さや広がりがわからないなど防災上不備な点も多い.こうした背景のもと,連続体モデルTITAN2Dを用いて雪崩の運動シミュレーションを試みた.本稿では2012年1月16日に山形県最上郡大蔵村肘折地区で発生した乾雪全層雪崩への適用例を紹介する.モデルに入力する底面摩擦角は,雪崩の発生規模と到達距離に関する先行研究から,また内部摩擦角は雪玉状となった雪塊の堆積形状から安息角をそれぞれ見積もって計算を行った.その結果,先端速度と流下距離を高い精度で再現することに成功した. 次に,上記の結果に基づいて,当該地区の雪崩斜面を対象に,多項式カオス求積法(Polynomial Chaos Quadrature:PCQ)を用いて,雪崩の発生規模や底面摩擦角など,モデルに入力するパラメータの不確定性を考慮した確率論に基づく雪崩ハザードマップを作成した.
  • 星野 聖太, 舘山 一孝, 田中 康弘
    2018 年 80 巻 4 号 p. 297-317
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,南極海では確立されていない衛星高度計Cryosat-2 SIRAL(Synthetic Interferometric Radar Altimeter)を用いた海氷厚推定の足掛かりとして,近年Alfred Wegener Institute(AWI)から公開されている北極海の海氷厚推定手法を改良し,南極海への応用を試みた.改良した手法を用いて北極海における海氷厚プロダクトESA Level2(ESAL2)を作成し,AWIとNational Snow and Ice Data Center(NSIDC)から公開されている既存のCryosat-2海氷厚プロダクトとの比較を行った.また,ブイや航空機ミッションIceBridgeにおいて航空機レーダーなどを用いて観測されたフリーボードと海氷厚を検証データとしてESAL2の妥当性を検証した.ESAL2とブイまたはIceBridgeの海氷厚の平均二乗誤差は0.47mと0.97mであり,AWIやNSIDCの平均二乗誤差との差は0.01m以下であった.以上からESAL2は既存のプロダクトと同程度の精度で海氷厚を推定可能であることが示された.同手法を南極海に応用し船上観測データと比較した結果,平均二乗誤差は約1mであり,平均海氷厚値の2.06mに比べると大きいものの,相関係数0.70と高い正の相関関係がみられた.推定海氷厚は定着氷縁部や一年氷域といった海氷の種類への依存が見られたことから,今後の推定精度向上には,正確な海氷の種類を分類する手法の開発が必要であるということが考えられる.
  • 島田 亙
    2018 年 80 巻 4 号 p. 319-325
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    着雪着氷が大量に発生する冬期山岳地などの環境では,無人での風向風速測定は困難である.本研究では,南北方向と東西方向の差圧を測定する装置を製作し,風向及び風速値への変換を試みた.夏期において,この装置での測定値と市販の風向風速計での測定値を比較したところ,風速に関しては相関係数0.79,風向に関しては相関係数0.70を得た.また,冬期の立山浄土山における差圧測定結果から,着氷の防止とその検出が今後の課題であることがわかった.
  • 松田 宏, 本間 信一
    2018 年 80 巻 4 号 p. 327-334
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    わが国の雪崩予防柵の斜面上の列間斜距離はスイスから導入された計算式をもとに求め,雪崩予防柵の配置を計画しそれに基づき設置している.しかし,列間斜距離を求める式には,列間斜距離に関する変数は直接入っていない.このことは,式を使う側の技術者にしてみると,その式の意味合いが不明確となってしまう.また,この式の使い方が正しいかどうかもわからない.その点を明らかにするために,雪崩予防柵の列間斜距離を求める式の意味を検討した.その結果,現在わが国で使用している雪崩予防柵の列間斜距離を求める式はスイスの条件によって作られたものがそのまま使われており,わが国においては必ずしも適合しないことが分かった.そこで,わが国において適用可能な雪崩予防柵の列間斜距離を求める代替式を求めた.ただし,本稿で提案した式はあくまでも試案である.
  • 遠藤 八十一
    2018 年 80 巻 4 号 p. 337-344
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    この総説は,林業試験場十日町森林測候所(現在:森林総合研究所十日町試験地)の積雪に関する研究がどのような経緯で始まったのか,また日本雪氷学会の前身,日本雪氷協会の萌芽となった農林省積雪地方農村経済調査所(以後雪調と呼ぶ)の「雪の会」が如何にしてつくられ,日本雪氷協会ができたのかについて述べている.雪調は昭和恐慌によって飢餓状態に陥った東北地方の農村を救済するために1933年山形県新庄町(現新庄市)に設立された.雪国の農民の生活や経済を改善するには積雪の科学的な研究が必要であると考えた平田徳太郎(全国の森林測候所の前責任者で当時は嘱託,後の日本雪氷協会初代理事長)は発足間もない雪調を訪ね,山口弘道所長にその必要性を訴えた.これが縁で,平田は雪調から雪質に関する研究の委託を受け,十日町森林測候所における積雪研究の始まりとなった.一方,平田の訴えに賛同できなかった山口であったが,再三にわたる平田の説得を受け,その必要性を認識するようになり積雪の研究を行う決心をした.こうして1936年にできたのが「積雪研究会」で,各委員の責任のもと各分野の研究を進めると共に,各自分担して雪氷文献の抄録を作成することにした.この抄録作成のための会を「雪の会」と称したが,一般の研究者も加わり,雪に関する研究発表や意見交換の場となった.1937年1月と2月には雪国各地の視察に出かけた.その後,雪国のための試験農家を建設し,農家家族による居住実験を始めた.また積雪研究に必要な積雪の分類とその名称(雪調案)を作成し,雪に関連する機関や研究者による協議会を開催し,積雪の分類名称を決定した.この頃より「雪の会」を全国的な組織にしたいという機運が高まり,1939年に日本雪氷協会が設立された.
  • 村上 茂樹
    2018 年 80 巻 4 号 p. 345-356
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    十日町試験地は1917年(大正6年)に林業試験場(現在の森林総合研究所)十日町森林測候所として設立され,2017年に創立100周年を迎えた.設立当時は気象観測を行って信濃川下流域に洪水予報を出すことを主な業務としていた(測候所時代).その後,1936年に十日町森林治水試験地と改名し,雪崩を中心とした雪の試験研究を主な業務とするようになった(試験場時代).2001年に森林総合研究所が独法化されると,それまで以上に論文の生産が求められるようになった(研究所時代).試験場時代には雪崩予防施設の設計基準策定,ブナ林の伐採に伴う雪崩と雪食の研究など,実社会での課題に長期的・体系的に取り組んで実用的な成果を行政に還元することが要求された.研究所時代においては論文生産に重きが置かれたため,試験研究の内容・成果は試験場時代よりも短期的でコンパクトになっている.これらの成果以外に,十日町試験地には特筆すべき特徴がある.それは設立以来観測を継続し,その成果を還元することを通じて地域や他の組織とのつながりを重視してきたことである.このことが,十日町試験地が100年間存続できた理由のひとつであると考えられる.
  • 和泉 薫
    2018 年 80 巻 4 号 p. 357-361
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    新潟県南端の豪雪地である妻有地域(十日町市,津南町)には,大変興味深い特有の雪文化がある.森林総研十日町試験地に調査研究で通ううちに知り得た雪文化,他には例のない雪崩災害慰霊碑,夏場の冷熱用に雪を貯蔵した雪室(雪穴),消雪日予測の二十日石伝承,現代雪まつりの発祥とされる十日町雪まつり,構造物の独特な雪デザインなどについて解説し,それらに触れることの楽しさを紹介する.
  • 上村 靖司
    2018 年 80 巻 4 号 p. 363-372
    発行日: 2018年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    平成18年豪雪の甚大な被害と対応力不足の反省から,筆者を中心とする数名の有志によって2007(H19)年冬に「越後雪かき道場」は創設された.当初は除雪未経験のボランティアへの除雪技能研修に重きをおいていたが,何冬季かの開催経験を経て,地域の受援力(支援を受ける力)向上の意義が大きいこともわかった.開催を重ねるうち,その他にも冬の体験交流,地域防災力向上のきっかけ,広域の草の根防災交流の促進,住民の安全意識の向上と安全対策の普及啓発など,多様な効果があることもわかった.2018年現在まで,12冬季にわたって継続し25箇所以上で延べ60回あまり開催し,初級1246名,中級220名,上級109名の修了者を輩出した.さらに十日町市池谷地区,群馬県片品村社会福祉協議会には暖簾分けし,山形県尾花沢市,長野県飯山市では雪かき道場から派生した兄弟プログラムが毎年開催されている.参加者や地域の声を受け止めながら,毎年ミッションの調整・再定義を図りつつ継続してきた経緯を振り返りながら,「雪かきを交流資源に」と取組んできた成果を紹介する.
feedback
Top