雪氷
Online ISSN : 1883-6267
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75 巻, 5 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 渡辺 晋生, 和気 朋己
    2013 年 75 巻 5 号 p. 253-261
    発行日: 2013年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    寒冷地の物質循環の予測や農地の施肥管理の効率化には,凍結にともなう土中の水分移動や水理特性に与える土中水中の溶質の影響を考慮する必要がある.そこで本論では,純水あるいは0.1MのNaCl溶液を混合した鳥取砂丘砂を35cmの鉛直カラムに詰め,上端から凍結した.そして,凍結過程にある砂中の温度,水分,溶質濃度分布の変化を観測した.その結果,溶質によって未凍結領域から凍結領域への水分移動が抑制され凍結深の進行が促進されること,溶質が移流によって凍結領域に蓄積することが確認された.また,毛管モデルを凍結砂に応用し,凍土の透水係数が間隙氷の成長により低下すること,不凍水量-透水係数関係が溶質の影響を受けないことを示した.
  • 松岡 啓次, 上田 保司, 隅谷 大作
    2013 年 75 巻 5 号 p. 263-273
    発行日: 2013年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    地盤が凍結する場合,氷点温度以下になっても不凍水があるため,一部の間隙水が凍結しない場合がある.地盤凍結工法では,地盤の温度降下や凍結速度をより正確に把握する必要があるため,不凍水を考慮した熱解析が必要となっている.本論文では,不凍水を考慮した差分式による二次元非定常熱伝導解析法と不凍水量の推定式を提案する.これら一連の解析法の精度を検証するため,室内で凍結および解凍実験を行った.試料土は粘土と砂を用い,間隙水は真水と塩分含有水とした.実験結果と本解析法による解析値との比較を行った.
  • 赤川 敏
    2013 年 75 巻 5 号 p. 275-289
    発行日: 2013年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    凍結した熔結凝灰岩(大谷石)が非常にゆっくり融解する場合凍上現象が起きることは実験的に確認されているが,凍結した土ではこのような報告は無い.本論では凍結した粘土,シルト,細粒分混じり砂といったさまざまな凍土試料が融解過程において熔結凝灰岩同様の凍上現象を起こすことを報告するとともに,そのメカニズムを考察する.すなわち,アイスレンズ発生温度付近の凍土は数百kPa という比較的高い引張り強さを保有し,熱力学的に記述される間隙氷の圧力が凍土を破断することにより,破断面に不凍水圧の低下および過冷却を発生させることを既往の実験的研究から考察した.この知見から融解過程の凍上が発生し得ることを示した.
  • 斉藤 和之, 末吉 哲雄, 渡辺 晋生, 武田 一夫
    2013 年 75 巻 5 号 p. 291-296
    発行日: 2013年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    地温・凍結深の空間的分布や歴史的推移は,寒冷地における農業計画や土木事業計画に直接的に関連するのみならず,地球環境変動(近年の地球温暖化など)の影響評価や今後の予測を行う上で重要なデータである.社会的背景の多様化や評価手法の発展にともない,こうしたデータの集約がさらなる学術研究の発展に必要不可欠となっているが,未だ十分に整備されていない状態にある.日本国内の地温・凍結深の観測はこれまで,気象庁,各地の農業試験場あるいは大学機関などで個別に行われてきた.こうした観測データは,単独で公開されているものはあるものの,統合的に集められることがなく,多くは閑却されるか四散の瀬戸際にある.筆者らは,2010年よりこれらのデータを保有する機関やその現状の把握を進めてきた.ここでは,国内での地温・凍結深観測データの所在と収集の現状と,整備・公開に向けた活動の状況を報告する.
  • 矢作 裕
    2013 年 75 巻 5 号 p. 297-314
    発行日: 2013年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    わが国の凍土現象の研究は関東地方から始まった.冬の気候が比較的温暖で,土の多くが霜柱の生成条件に適していたからである.この地表に生まれる霜柱の美しさと不思議さは,多くの研究者の目を刺激したに違いない.他方,北海道などの寒冷地域では,道路,鉄道線路,建物などに被害をもたらす凍上現象が注目された.土の凍結現象の研究は,地表の霜柱の研究を発端に「地中でなにが起こっているか」という凍土の研究へと課題が移っていった.後の研究によって,凍上現象は「地中の霜柱」であることが明らかになっていく.一方水の凍結に関わる現象は,寒地の冬では日常現象である.水,土など親しみやすい素材と寒剤で得られる温度条件によって,霜柱やアイスレンズ,雪結晶などを比較的短時間に実物によって比較的簡単に作成・観察できる.このため,水に関わる発展的な実験内容は科学教育の格好の素材であり,今後の重要な課題である.凍上現象の研究は,寒冷地の凍上の被害を軽減させ,その利用にも道を拓いた.この一文は,およそ120年前の論文から書き起こし,筆者が研究途上で目にした関係論文,著作物の紹介や体験を交え,20世紀末までの凍土研究の足跡を概観している.
  • 池田 敦
    2013 年 75 巻 5 号 p. 315-324
    発行日: 2013年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    岩石氷河は一般に岩屑被覆氷河とは形態的に区別される地形である.その理由は,岩石氷河の上流側のどこにも越年氷体が露出しない例が多いことと,表層を覆う厚い礫層に起因する特徴的な表面形態をもつことにある.岩石氷河は地中に越年する氷の緩慢な変形によって発達する.岩石氷河上にみられる皺状地形は,主に流速低下部での圧縮性の運動によって形成される.その形態は,塑性的に変形する層を可塑性の小さい礫層が覆う構造に由来する.岩石氷河下端においては,その流動に伴って末端に達した表面礫層が崩れ落ち続けることで,非常に急な(>35°)斜面が平衡状態を保って維持される.また,岩石氷河が巨礫のみに覆われている場合,上流側の崖錐を介した分級が継続的に生じていることを意味し,そのことは岩石氷河の発達期間を通じてその上に氷河が存在しなかったことを示唆する.
  • 池田 敦
    2013 年 75 巻 5 号 p. 325-342
    発行日: 2013年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    岩石氷河は,一般に岩屑被覆氷河とは分類され記述されるが,氷河の派生物であろうと名称や外見から直感的に考えられがちであった.しかし,研究が進むほど,その感覚的な理解は現象に合致しないことが明確になってきた.岩石氷河は地温と岩屑供給に強く制約された地形であり,雪氷収支が分布と運動を支配する氷河とは本質的に異なっているからである.岩石氷河の大多数は,崖錐型と堆石型,また両者の特徴を合わせもつもの(堆石-崖錐型)に分類できる.崖錐型は崖錐下部に発達した永久凍土の変形によって形成される.堆石型や堆石-崖錐型には,氷河が岩屑を供給するほか,しばしば氷体も供給する.堆石-崖錐型も永久凍土の変形によって形成され,氷河は寒冷期に岩石氷河上に覆いかぶさる関係にあった.一方,堆石型の流動が氷河氷の変形によるのか,凍結したティルの変形によるのかは,現時点で研究事例がほとんどなく特定が難しい.その他,氷河と同様に氷の涵養と消耗が流動を通じて平衡する岩石氷河の存在もいくつか指摘されているが,そのような例が形成される条件はごく限られているようである.
  • 岩花 剛
    2013 年 75 巻 5 号 p. 343-352
    発行日: 2013年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    エドマ層は,その不思議な産状から謎の極北永久凍土層として研究が続けられてきた.18世紀初めの記録以来,その成因と形成環境について様々な説が提唱され,議論が続けられている.一方,永久凍土中,特にエドマ層には多くの有機炭素と氷が保持されている.近年の地球温暖化が永久凍土の融解を引き起こし,その変化がさらに大きな環境変化をもたらす可能性がある.これは,それまで閉じ込められていた膨大な量の物質や水が流動し始めることを意味するからである.本総説では,エドマ層研究の歴史を紹介し,気候変動との絡みで重要性の増す永久凍土研究についてエドマ層研究を柱にまとめ,今後の展望を示した.変化する永久凍土に対する目下の課題は,凍土中に貯蔵されている炭素と水の量に関する広域的なインベントリを行うことである.このインベントリは,永久凍土の融解が引き起こす植生変化,地盤沈下,水文・水質変化,気候変動など,永久凍土の融解に関わる環境変化を推定する際に必要不可欠となる.
  • 岩花 剛
    2013 年 75 巻 5 号 p. 353-364
    発行日: 2013年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    エドマ層は周氷河地域で形成され,永久凍土として現在まで残る.エドマの堆積過程において,その堆積物と氷体にはそれぞれ異なった仕組みで古環境情報が記録されている.アイスコアからの古環境情報が得られない北東シベリアやアラスカの陸域でも,エドマ層を含む永久凍土に地域的な古環境情報が詳細に記録されており,今後の気候変動と永久凍土変化の相互作用を予測するためには,永久凍土を利用した古環境復元が重要な情報源となる.本総説は,北極シベリア・ラプテフ海周辺のエドマ調査から得られた古環境情報に関する研究結果を中心にまとめ,今後の課題を展望した.ラプテフ海周辺については,過去5万年間の詳細な環境変化に加え,現在よりも温暖であったエーミアン最終間氷期を含む約20 万年間の古環境が復元されている.エドマ層の形成環境については,排水状況の悪い緩傾斜の堆積平野と霜食作用テラスの縁や低い丘陵地に溜まる多年性雪田に深く関係していると最新のエドマ研究は結論づけた.今後の課題は,エドマ氷体が成長する際の応力分布歴,アイソスタシーに起因する地殻変動の影響を解明し,試料のサンプリング方法と年代決定法を再検討することである.
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