雪氷
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56 巻, 3 号
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  • 内田 武, 楠本 韶, 高瀬 徹
    1994 年 56 巻 3 号 p. 207-214
    発行日: 1994/09/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    柱状多結晶氷の発するAEについて,平滑試験片ならびに切欠き試験片を用いた基礎的実験を温度-5℃のもとで3点曲げ試験により行った.しきい値を25mVと125mVの2段階に設定して,AE発生数の計数を行い,平滑試験片においてはAEのカイザー効果ならびに曲げ強さとAE計数の関係を,切欠き試験片においてはポップ・インとAE振幅の関係について検討した.その結果,(1)小振幅AEの発生数は,平滑試験片では多いが切欠き試験片では少ない.(2)AEを用いてポップ・インの検出ができることがわかり,高負荷速度領域(10kPa√m/s以上)への議論の拡張が可能となった.(3)氷の場合もカイザー効果が現れるが,それは約3分程度の負荷の休止により消失する.(4)25mV付近のAEは氷試験片における滑りと深い関わりを持っているものと考えられる.(5)σAESとσAESfとの間には,ほぼ比例関係が成立することなどが解明できた.
  • 第1報 屋根雪と屋根葺材との凍着性状について
    苫米地 司, 伊東 敏幸
    1994 年 56 巻 3 号 p. 215-222
    発行日: 1994/09/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    積雪地域に建築物を計画する場合,屋根上積雪荷重により構造的な制約を多く受ける.この制約は大スパン構造物になるほど大きくなる.本報告では,屋根雪を積極的に滑落させて屋根上積雪荷重を軽減する手法を確立するため,屋根雪と屋根葺材との凍着強度の発現過程および各種屋根葺材の凍着強度を検討した.初めに,降雪時の外気温を分析し,凍着過程が3つに大別できることを示した.次に,この凍着過程をモデル化し,種々の屋根葺材を対象に凍着強度に関する低温実験を実施した.その結果,凍着強度には,屋根葺材と雪氷体との界面に介在した水分量,屋根葺材の表面粗さとその形状,屋根葺材の表面自由エネルギーなどが複雑に影響していることが明らかとなった.
    屋根上積雪荷重の滑雪制御システムを確立することを目的に,滑雪抵抗力として屋根葺材と屋根雪との間に最も大きな抵抗力として作用する凍着強度とその発現過程を検討した.その結果,凍着強度は,凍着時に屋根葺材と雪氷体との界面に介在した水分量,屋根葺材の表面粗さとその形状,屋根葺材の表面自由エネルギーなどが複雑に影響していることが明らかとなった.
  • 大野 宏之, 高見 晋一
    1994 年 56 巻 3 号 p. 223-231
    発行日: 1994/09/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    氷河など,厚い雪氷体にも適用できる雪氷体の熱輸送モデルを開発した.自動観測データの利用を考慮して,入力する気象要素は気温,比湿,風速,下向き短波放射,上向き短波放射,下向き長波放射の6つとし,降水量は除外した.これらから,表面熱収支項目並びに雪氷体の温度,含水量,液体水輸送量を再現する.そのために,表面熱収支過程,放射伝達過程,熱伝導過程,相変化過程,融解水の流下過程をモデル内に持つ.諸過程は,放射伝達が2層,それ以外が多層でモデル化されている.熱伝導方程式の解法には有限要素法を採用し,雪氷体の様々な物性や厚さに容易に対応できるようにした.積雪の相変化過程には簡便で誤差の少ない新たな計算方法を用いた.蒸発量,表面温度,底面流出量,雪氷体の温度分布について,モデルと野外観測の結果を比較した結果,両者は良く一致した.これにより,氷河内部の温度分布や表面での熱収支量,さらに融解や再凍結を考慮した消耗量が自動観測気象データから連続的に推定できるようになった.
  • 鈴木 啓助, 遠藤 八十一
    1994 年 56 巻 3 号 p. 233-241
    発行日: 1994/09/15
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    十日町における降水中の海塩起源物質濃度と気象条件との関連,および山地を含む地域における,新雪中の海塩起源物質濃度の空間分布について検討を行った.
    冬季降水および新雪中のNa+濃度とMg2+, Cl-濃度それぞれの比は,海水中の濃度比と良く一致し,Na+, Mg2+, Cl-のほとんどが海塩を起源とするものである.十日町における冬季降水中に含まれる化学物質の約7割が海塩を起源とするものである.冬型の気圧配置時の大陸からの寒気の吹き出しによる降水では,輪島での対流混合層が高く,十日町における降水中のNa+濃度も高くなる.十日町における降水中のNa+濃度と,輪島での対流混合層の高さについての回帰式は,札幌における場合よりも,対流混合層の高さに対するNa+濃度が高くなる.これは,降雪雲の日本海上での吹走距離の差異に起因すると考えられる.
    新雪中の海塩起源物質濃度と海岸からの距離との間には,全体としての明瞭な関係は認められないが,測線ごとには,海岸から離れるに従い新雪中の海塩起源物質濃度が減少する.また,谷の勾配が急で,降雪雲に対する地形効果が大きいと考えられる測線では,他の測線に比べて新雪中の海塩起源物質濃度が高くなる.
  • 八木 鶴平, 真木 雅之
    1994 年 56 巻 3 号 p. 243-249
    発行日: 1994/09/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    降雪レーダー観測を新庄盆地においておこなった.3.2cmの在来型レーダーを使用した.この研究は降雪の地形的な相違,特に風上側の丘陵地帯を越えて盆地に進入する降雪雲についておこなった一連の観測研究の1986年の解析結果である.
    冬期季節風下で,極気団からの吹き出しがあるとき,日本海に面した庄内平野では降雪雲は一般に東に向かって移動する.その後出羽丘陵(山頂で海抜600から800m)を越えるか最上川峡谷を通過して新庄盆地に至る.
    解析結果は,1)レーダービーム高度における雪雲のレーダー反射強度を積算した降水の水平分布が丘陵上に降る降雪と峡谷上に降る降雪に何等意味ある差異を示さなかった事である.この観測事実は降雪エコーが高度の高い丘陵より高度の低い峡谷を通り易いという傾向が無い事を示しているだろう.2)また,降雪が風下側の丘陵東麓に集中するときは,上層に逆転層が存在し,重力波による強い下降流に支配されている場合であり,他方降雪が盆地の奥深くまで活発なときは,気層が不安定で積雲活動が盆地上空まで維持される場合であると考えられる.
    これらの知見は一つのそして重要な観測事実であろう.
  • 中塚 茂, 安藤 政夫
    1994 年 56 巻 3 号 p. 251-255
    発行日: 1994/09/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    平板氷の凍結と融解について,ここでは従来の移動境界問題の一つとしてでなく,座標の原点を氷と水の境界面に置き固定し,移動するのは物質すなわち氷と水で,移動物質問題として考えてみた.
    また前報文(雪氷,55,179-182)では氷と水の境界面における熱バランスにおいて,水を流体とした熱伝達を考えたが,今回は従来行われた水も氷も同じく固体とした場合について考えてみた.
    そうすると偏微分方程式は,前報文同様従来の放物型に物質の移動速度υを含む項を追加した式になった.
    υは一般的に時間の関数になることから,その正確な解析解を得る事はできなかったが,氷と水の時間的温度変化が極めて緩やかな時の近似解を得ることができた.
    この近似解は移動境界問題の場合よりも,もっと一般的な境界条件についての解であることは勿論であるが,興味あることの一つは,前報文,本続報の何れの場合も一定の条件下では,氷の厚さはその凍結時間の平方根に比例するというF.Neumannの条件を含むことである.
  • 1983年から1992年までの調査
    武田 宏, 野表 昌夫, 伊藤 信治, 箕口 秀夫
    1994 年 56 巻 3 号 p. 257-263
    発行日: 1994/09/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    新潟県南部の17箇所において1983年から1992年まで,融雪初期の2月下旬から3月上旬に積雪断面を作成後,雪質区分を行い,層別に密度を求めた.
    ざらめ雪率は積雪が多くなるほど,また厳寒期の平均気温が低いほど低かった.しかし湯沢町浅貝と妙高高原町杉野沢では積雪が少なくてもざらめ雪率が低い場合があった.
    全層密度は調査日が遅くなるほど,大きくなる傾向が認められた.また積雪水量は積雪深の増加に伴い,直線的に増加していた.
  • 松田 宏, 藤元 隆彦, 武士 俊也, 綱木 亮介
    1994 年 56 巻 3 号 p. 265-269
    発行日: 1994/09/15
    公開日: 2010/06/17
    ジャーナル フリー
    筆者らは雪崩の運動の結果として到達距離を考える場合には,運動エネルギーを供給する落差と運動エネルギーを消費する場となる流下斜面長との関係が物理的に有意であると考え,落差と雪崩の斜面長(実走距離)との関連を検討した.その結果,落差が概ね1000m以下の普通の雪崩については,落差Hと実走距離Lには非常によい1次の相関があり,表層雪崩,全層雪崩を問わずL=2Hを得た.つまり,雪崩の種類や規模に関係なく実走距離は落差の約2倍であることが明かとなった.このことは,落差と実走距離によって形成される幾何形状である直角三角形が多くの雪崩において相似であることを示しており,同時に力学的な相似則が成立しており,普通の雪崩におけるレイノルズ数がほぼ一定であることを示唆している.
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