北海道利尻山南東斜面に位置する雪崩涵養型雪渓(ヤムナイ沢雪渓)のコア掘削を,標高785 mの地点において2018年9月に実施した.その結果,全長993 cmのコアの掘削に成功し,ヤムナイ沢雪渓が厚さ140 cmの氷層(深度853~993 cm)を有することが明らかになった.得られた氷層の形成過程を検討するため,コアの結晶組織と酸素安定同位体比を調べるとともに,初冬の寒気侵入によって積雪の間隙水が凍結する深さ,および消耗期の帯水層形成期間中における積雪の密度増加を推定した.その結果,次のことが明らかになった.(1)局所的に結晶粒径が大きく,酸素安定同位体比が低い,厚さ5~12 cmの透明な氷層は上積み氷として形成された.(2)低標高に位置する雪崩涵養型雪渓では,吹き溜まり涵養型雪渓とは異なり,初冬の気温が比較的高いため,初冬の寒気侵入に伴う帯水層の凍結によって厚い氷層を形成することは困難である.(3)深度853~978 cmの氷層は,フィルンが二度の消耗期に水飽和し,急速に圧密することで形成された.以上のことから,ヤムナイ沢雪渓における積雪の主要な氷化過程は,温暖氷河と同じ圧密氷化であると考えられる.