2004年8月10日,新潟県荒沢岳の西本城沢において雪渓が大規模な崩壊を起こし,写真撮影のために雪渓底部に形成された空洞(トンネル)内に入っていた写真愛好家4人が死傷(3人死亡,1人負傷)する災害が発生した.著者らは,このような雪渓崩落災害に関してこれまで学術的な調査研究が全くなされていないことをふまえ,本災害の発生直後に現地調査を実施するとともに,新聞検索によってわが国における過去40年間の雪渓崩落災害を抽出し,その特徴を調べた.その結果,現地調査から,雪渓の崩壊部は面積約220m2,質量約150~230tonと見積もられた.周辺地形の特徴などから,この大規模崩壊は,トンネル上部の雪が片持ち梁構造となり,その固定端(梁の付け根)上端部付近の積雪に引張破壊が生じて発生したものと推定された.また,新聞検索から,わが国では1965年から2004年までの40年間に合計45件の雪渓崩落災害が発生しており,62人の被災者が出ていること,発生件
数は群馬県(谷川山系)と富山県(北アルプス)で多いこと,登山目的の入山者の被災事例が全件数の約70%を占めることなど,この種の災害の特徴が明らかになった.過去40年の災害からみると,2004年の荒沢岳の災害は,死傷者数が最も多い事例の一つであった.
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