雪氷
Online ISSN : 1883-6267
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77 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 平島 寛行, 山口 悟, 小杉 健二, 根本 征樹, 青木 輝夫, 的場 澄人
    2015 年 77 巻 1 号 p. 5-16
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    温暖で湿雪の多い長岡,乾雪の多い新庄,及び寒冷な札幌の露場を対象に複数年にわたり積雪変質モデルSNOWPACKの計算を行い,断面観測データと比較を行った.本研究の趣旨は比較結果を基にモデルと観測との不一致箇所やその原因を特定し,SNOWPACKの再現性の向上に効果的な改良方法を検討することである.そこで定量的な比較を行うために,積雪の断面の値の平均値,ばらつき,及び上下間の高さ方向における重心を計算して観測と比較した.また,アルベドの見積もり誤差による不一致への影響を小さくするため,観測されたアルベドを用いてパラメータの調整を行った.その結果,札幌や新庄のような乾雪の地域と比べ,長岡のような湿雪の地域では,同じ気象条件下においても寒冷な地域と比べアルベドを低く与える必要があることが示唆された.3地点におけるSNOWPACKの計算結果は,全体的に積雪状態をよく再現していた.不一致部分を抽出したところ,雪温が高めにでる傾向や,雪温分布,新雪密度,新雪の粒径及び含水率の不均一さに関して過小評価の傾向が見られた.これらの結果から,再現性向上のためには,新雪の熱伝導や圧密過程の改良,水みちの影響のモデル化等が重要になることが示唆された.
  • 池田 慎二
    2015 年 77 巻 1 号 p. 17-35
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2009年1月25日に八方尾根無名沢においてスノーボーダー1名が重傷を負う雪崩事故が発生した.破断面における観測結果と周辺の積雪・雪崩に関する記録,同時期に広域で行った積雪観測データ等を基に雪崩発生の原因となった積雪不安定性とその形成過程および空間的な分布について検討した.雪崩の原因となった積雪不安定性をもたらしたのは厚さ約40cmの新雪-しまり雪によって構成されたスラブと雲粒の付着のない大型の板状結晶からなる厚さ2cmの降雪結晶弱層の組み合わせから成る積雪構造であった.弱層は22〜23日にかけての低気圧に伴う降雪によって広域に形成されたが,弱層形成後に晴れ間があり日射の影響を受ける斜面では弱層の強度が増加した.また,スラブは冬型降雪によって形成されており日本海側に限定されて形成された.このため,この不安定性は日本海側山岳地の高標高域で,尚且つ日射の影響を受けにくい斜面に限定的に存在したと推定された.また,他の弱層の観測事例から得られたデータも合わせて検討したところ,大型で雲粒の付着のない板状結晶によって形成された層においては,他の新雪層よりも長期間脆弱な状態が持続すると考えられた.
  • 阿部 修, 平島 寛行
    2015 年 77 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    防災科学技術研究所ではスイスで開発された積雪変質モデル(SNOWPACK)を用いて,雪崩発生予測システムを構築し,その改良に取り組んでいる.この中で,しもざらめ雪の剪断強度はその発達段階によって大きく変化することから,これまでしもざらめ雪に起因する表層雪崩の発生を高精度で予測することは困難であった.そこで以前,筆者らは任意の発達段階にあるしもざらめ雪の剪断強度を決定する『しもざらめ化率』を定義し,それぞれの積雪層の温度,温度勾配により算出される水蒸気輸送量から,これを推定するモデルを提案した.ここでは,これまで山岳地域で観測されたしもざらめ雪の弱層が要因となった5例の表層雪崩について,上記のモデルを組み込んだ雪崩発生予測システムに,最寄りのアメダス観測点の気象データを入力することにより,これらの弱層が再現できるかどうかの検証を行った.この結果,4例で積雪安定度の低い弱層が再現できたことから,この予測手法自体はほぼ実用レベルに達したと評価できる.ただし,この場合でも雪崩発生箇所の近傍に気象観測点が存在することが条件である.
  • 秋山 一弥, 関口 辰夫, 池田 慎二
    2015 年 77 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2014年(平成26年)2月14日から15日にかけて関東甲信地方では記録的な大雪となり,山梨県では県内全域で大雪となって各地で雪崩が発生した.山梨県の早川町を流れる早川の周辺では,2月22日にヘリコプターによる上空からの調査で雪崩の発生状況を確認して,3月19日に地上から調査を行った結果,雪崩は発生区が不明瞭なものを含めて80箇所で発生し,雪崩の種類は表層雪崩が23個,全層雪崩が57個であった.雪崩の発生区から堆積区までが明瞭な60個の雪崩は,落葉樹林や崩壊地から発生して沢状や凹型の地形を流下していて,到達距離は最大で表層雪崩が500m,全層雪崩が700m 程度であり,雪崩の発生区の勾配は35〜50度であった.直接見通し角は34度を下回る雪崩はなく角度が急であり,この大雪によって早川周辺で発生した雪崩の特徴を表していると考えられる.
  • 河端 将史, 尾関 俊浩, 小杉 健二, 佐久間 淳, 望月 重人
    2015 年 77 巻 1 号 p. 59-66
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,スキーヤーの荷重による圧力が低密度の新雪に及ぼす水平方向の影響範囲について調べた.水平な降雪テーブルにフィルム状の圧力センサを固定し,人工降雪させた低密度(ρ=46-166kg m−3)の積雪に対してスキーヤーの荷重により圧潰された積雪内の増加圧力を計測し,高密度(ρ=170-343 kg m−3)の積雪の結果(Schweizer and Camponovo, 2001)と比較した.低密度の積雪ではスキーヤーの足下の雪のみで大きく圧潰が起こり,周囲の雪と大きな密度差ができた.そのため,スキーヤーの荷重による圧力は水平方向の低密度の積雪には伝搬せず,下方の圧潰された積雪へ伝搬したと考えられる.このことから,積雪の密度が小さい場合には,スキーヤーは鉛直下方に影響を及ぼしやすい一方,水平方向の影響範囲は限定的であると考えられる.
  • 阿部 孝幸
    2015 年 77 巻 1 号 p. 67-74
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    近年においては公共施設の老朽化に伴う破損が多発し安全点検の強化が急がれている.このような中で雪崩予防柵(吊柵)等の倒壊や道路面への落下が見られるが,具体的な原因を把握することが出来ず対策方法等については手探りの状態で今日に至っている.このようなことから吊柵等のアンカーボルトの破断調査や破断実験を行い,また柵等に堆積している積雪形状を調査することによりその原因を追究し改善策等を取りまとめたので報告する.
  • 柳 敏, 久保 明彦, 亀田 貴雄, 田牧 純一, Ullah A.M. M. Sharif
    2015 年 77 巻 1 号 p. 75-89
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    アクリル系可視光硬化型樹脂(LCR0208)を用いて,樹脂包埋法で雪結晶のレプリカを作製するときの最適条件を把握するため,樹脂の光硬化特性および硬化反応熱と気温との関係を実験的に調べた.また,金属製粗さ標準片を用いてレプリカの転写精度を確かめた.その結果,気温が−2℃以下で2000〜8000 luxの可視光を10分間照射すると,試料の雪結晶に樹脂の硬化反応熱などに伴う融解が起きず,レプリカが正常に形成されることがわかった.また,樹脂の硬化収縮でレプリカの寸法は2%程縮小し,0℃以下では溝状部での樹脂の未充填が生じることもわかった.雪結晶の細かな構造への樹脂の未充填による補正量は,0.04μm と見積もることができた.これはレーザ顕微鏡による表面構造の測定精度(±0.5μm)よりも小さく,補正をする必要はなかった.従って,レプリカの形状を±0.5μm の精度で評価する場合,樹脂の硬化収縮(+2%の長さ補正に相当)を考慮することで雪結晶の表面構造を定量的に把握できる.
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