雪氷
Online ISSN : 1883-6267
Print ISSN : 0373-1006
84 巻, 4 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
論文
  • 齋藤 佳彦
    2022 年 84 巻 4 号 p. 263-281
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

    雪崩の流下形状や到達範囲,速度,衝撃力などの雪崩運動の解析を目的として,自由表面を持つ流れの解析への適用性や解析用の格子生成が不要などの長所を持つLagrange的解析手法の一つであるMoving Particle Simulation法(MPS法)を適用した雪崩数値シミュレーションの開発が進められてきた.本研究では,このシミュレーションモデルに対し,現在用いている圧力計算を陰的に扱う手法(Semi-Implicit MPS法)と比べて,大規模な解析に当たり計算の並列化などの高速化が適用可能な陽的な手法であるExplicit MPS法を適用し,数値シミュレーションモデルの改良および精度検証を行った.改良したモデルの解析と人工雪崩実験結果との比較の結果,雪崩の流下速度や範囲について,概ね妥当な解析結果が得られることが確認された.また,開発したシミュレーションモデルを雪崩災害事例の再現解析に適用することで,雪崩の速度や範囲などの災害状況の推定を含めた有用性などの確認を行った.

  • 竹林 洋史, 西村 浩一, 山口 悟, 伊藤 陽一, 安達 聖
    2022 年 84 巻 4 号 p. 283-296
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

    固液混相流である土石流・泥流を一流体連続体モデルとして扱った数値シミュレーションモデルの物性値を雪崩の値に置き換え,固気混相流である雪崩の発達・減衰過程を考慮した数値シミュレーションモデルを開発した.また,開発した雪崩の数値シミュレーションモデルを2020年2月に北海道のピンネシリ岳及び2019年3月に栃木県の茶臼岳で発生した雪崩に適用し,雪崩の流動現象の再現を試みた.その結果,ピンネシリ岳の雪崩の堆積域は,堆積場所,堆積域の大きさなど,現地の堆積域と近い値となった.また,雪崩の堆積量は発生域での雪の崩壊量の約5倍となっており,雪崩の発達過程を考慮した解析が可能となった.数値シミュレーションによると,ピンネシリ岳の雪崩は,斜面を平均約15m/sで流下した.流下するにつれて流動深は深くなり,一部の領域では8 mを超えている.雪崩発生から停止までの時間は約200 秒であった.茶臼岳で発生した雪崩は流動の様子がwebカメラで撮影されていた.そのため,撮影された写真を用いて雪崩の流下速度の再現性の検討を行った.その結果,数値シミュレーションにおいても観測された雪崩と同様に,発生から14秒で斜面下部の緩勾配域まで雪崩が到達しており,雪崩の流下速度の再現性も確認された.

解説
  • 田邊 章洋, 志水 宏行
    2022 年 84 巻 4 号 p. 297-308
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    雪崩の流動・停止プロセスの理解及び予測は防災上重要である.雪崩到達範囲を物理法則に基づき定量的に予測するために,数値シミュレーションを活用する動きが近年活発化している.それらの数値計算では,計算のコストや現象の再現性の観点から,三次元の流れを厚さ方向に平均化した二次元流として近似する理論(浅水流理論)に基づくモデルが主に用いられる.本稿では,浅水流理論に基づく雪崩動力学シミュレータの1つfaSavageHutterFOAMについて解説する.faSavageHutterFOAMは,高濃度粒子流(流れ型雪崩)の基礎方程式を解くオープンソース数値コードであり,OpenFOAMをプラットフォームとして開発された.本解説では,faSavageHutterFOAMの基礎方程式,ファイル構成,計算条件の設定方法,任意の地形上での雪崩計算の実行方法,地理情報システム(GIS)による数値計算結果の可視化方法について説明する.

論文
  • 田邊 章洋
    2022 年 84 巻 4 号 p. 309-321
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    実在地形上での雪崩を防災面から考えるためには"どこにどれくらいの量が到達するか"を定量的に示すことが重要である.雪崩の流動距離,デブリ厚さ及び速度は,発生体積や密度,雪崩の種類等によって決まるが,これらの情報は雪崩発生以前には未知であり不確定性を持つ.雪崩シミュレータでは入力としてこのような不確定な値を一つ決めることで,到達距離や速度が得られる.不確定性を分布で表し,分布に従って入力値を選択すると,不確定性を反映した出力が得られる.これを繰り返すことで入力値の不確定性は出力へ伝播し,その結果確率論的ハザードマップ作成が可能となる.本稿ではモンテカルロ法(MC),ラテン超方格法(LHS),多項式カオス求積法(PCQ)の3 手法で発生体積(入力値)の持つ不確定性を評価して,それぞれの手法で作成される実在地形上の最大流動厚さのハザードマップ作成を行った.これらの比較から,1)同じ計算回数で比較するとPCQ,LHS,MCの順番で精度が高いこと,2)PCQには適切な展開次数 NPと計算回数 NQが存在し,NP=NQの場合に最良の結果となることを数値的に示した.

解説
  • 志水 宏行
    2022 年 84 巻 4 号 p. 323-340
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

    煙型雪崩と火砕流は,粒子濃度の成層構造をもつ固気混相重力流である.本論文では,既存の二層火砕流モデルについてレビューし,二層火砕流モデルの雪崩への応用可能性について議論する.二層火砕流モデルは,成層化した流れの上部を低濃度乱流サスペンション流として,下部を高濃度粒子流としてモデル化し,それらの相互作用(粒子のやりとりなど)を考慮することによって,火砕流の流動・停止を評価する.特に,高温である火砕流の上部低濃度流の停止プロセス(低濃度流が周囲大気より軽くなり離陸するプロセス)を評価するために,低濃度流上面から取り込まれた周囲大気の熱膨張の効果が評価される.煙型雪崩の流動・停止における多くの物理プロセスは火砕流と共通する.しかし,煙型雪崩の上部低濃度流(雪煙り層)の停止プロセスは,火砕流とは異なり,低濃度流内部の乱れ速度の減少によって流れ内部の全粒子が沈降するという物理プロセスによって説明される.このプロセスを二層火砕流モデルに組み込むことにより,雪崩・火砕流の統一モデルを構築できることが期待される.

論文
  • 白川 龍生, 尾関 俊浩, 金田 安弘, 松岡 直基
    2022 年 84 巻 4 号 p. 341-358
    発行日: 2022/07/15
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

    2020/21年冬期,北海道の空知南部が大雪となり,岩見沢では最深積雪205 cmを記録し,2011/12年冬期の208 cmに次ぐ記録となった.そこで本研究は,岩見沢における大雪時の積雪層構造とその要因,地域経済や市民生活への影響,大雪の将来予測結果との照合について解析した.積雪断面観測は融雪出水直前期に計2回実施した.寒冷でしまり雪主体だった2011/12年冬期と比較すると,2月中旬以降の気温の高さや降雨の影響を受け,積雪深は同程度ながら,雪質はざらめ雪主体で帯水層や氷板も複数確認され,異なる特徴を示した.積雪水量は610 mmだった.今回の大雪の要因は,西よりの風に伴い日本海上の筋状雲の雲パターンが変わらず,岩見沢付近に継続的に流入する日が多かったことによる.さらに2月下旬には北海道西岸帯状雲が石狩湾上で筋状雲と合流し,これが岩見沢付近に達し大雪をもたらした.岩見沢では公共交通機関の運休や落雪による事故,老朽化した建物の倒壊など,地域経済や市民生活に大きな影響が生じた.岩見沢付近は高齢者の人口比が40 %に達し,雪の事故リスクが特に高く,対策が必要である.

feedback
Top