雪氷
Online ISSN : 1883-6267
Print ISSN : 0373-1006
77 巻, 4 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 石坂 雅昭, 藤野 丈志, 本吉 弘岐, 中井 専人, 中村 一樹, 椎名 徹, 村本 健一郎
    2015 年 77 巻 4 号 p. 285-302
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2014年2月8日,14日に日本に接近した二つの南岸低気圧は関東甲信に大雪と雪崩の多発をもたらした.両低気圧降雪時,新潟県長岡市と新潟市においてレーダー,降雪粒子の粒径・落下速度,降雪を構成する雪結晶の判別等の諸観測が行われた.その結果,両低気圧による主要な降雪は,季節風冬型時に多い樹枝状雪片とは異なり,−20℃以下で成長する角柱,角板,交差角板,砲弾などの低温型雪結晶から成る雪片であり,接地時に構成雪粒子へとばらばらに崩れやすい特徴をもっていた.降雪時のレーダーエコーは高度5km以上に達し,気象モデルの解析値によれば,5km以上の気温は−20℃以下であり,高い雲底高度から地上まで相対湿度が高く,低温型雪結晶の生成とそれが地面まで到達できる条件が整っていた.一方,関東甲信の雪崩では,粒子間の結合が弱いサラサラとした雪による雪崩であったことや現場の積雪内に低温型雪結晶を含む層が観測されたことが報告された.過去の研究にも低温型雪結晶からなるサラサラとした雪による雪崩の多発の報告があることから,今回の関東甲信の雪崩の多発には,新潟県下と同様の低温型雪結晶を多く含む降雪が関与したと推定された.
  • 松田 益義, 清水 孝彰
    2015 年 77 巻 4 号 p. 303-311
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2014年2月8〜9日と2月14〜15日の関東甲信地域の大雪時における都心部の積雪深はいずれも27cm(東京管区気象台)を記録し,2月15日には同地域で建物等の損壊被害が多発した.この2回の降雪中に都心部の2か所で積雪密度の調査を行い,2月8日が122と130kg m−3,2月14日が258と270kg m−3で前者の2倍であった.2月8〜9日は降雪のみであったが,2月14〜15日は降雪が途中から降雨に変わり,雨水が積雪中に滞留した.降雪時間帯における積雪密度の差に加えて積雪発生後に降雨があったかないかが,建物損壊の多少に大きく影響した.雪荷重の正確な推察には積雪深と降水量の時別値を用いた時系列計算が必要であることが判明した. そこで,時系列データが存在する過去24冬季に遡って雪荷重を時系列計算した結果,2014年2月15日のピーク雪荷重は941N m−2(=96mm)と推算された.その再現期間評価を行ったところ,ガンベルプロット上では2014年以前の23冬季の傾向からは大きく外れはするが直線外挿すると240年となった. 一方,2014年2月14日の17時前後には都心の高層ビル(170m高)の地上と屋上で気温と積雪密度を計測した.地上はプラス気温(0.6℃)で積雪密度270kg m−3だったのに対し,屋上はマイナス気温(−0.8℃)で積雪密度は144kg m−3であった.地図上では同一地点でも高さによって積雪密度は大きく異なった.高層建屋の雪荷重を推算する場合でも積雪深と降水量の時系列値を用いる方法が有効であることが分かった.
  • 河島 克久, 松元 高峰, 伊豫部 勉, 和泉 薫
    2015 年 77 巻 4 号 p. 313-325
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2014年2月14-15日の関東甲信地方における大雪では,発生した雪氷災害に地域性が見られることが特徴的であり,これには降水形態の違いが関係している可能性がある.そこで,地域による降水形態の違いを明らかにするため,アメダスデータを用いて2月14-15日の降水形態(乾雪,湿雪,雨)を推定した.その結果,2月14日の降雪は関東甲信地方のほとんどで乾雪であったと推定され,湿雪は東京湾沿岸部と房総半島に,雨は千葉県・茨城県の太平洋沿岸部に限定的に出現したことが分かった.2月15日は,午前中に湿雪及び雨の地域が東(千葉県,茨城県)から西に向かって徐々に拡大したことが明らかになった.この大雪で量的割合が最も大きい降水形態は,長野県・山梨県・群馬県では乾雪,東京都では乾雪と湿雪,神奈川県・埼玉県・栃木県では湿雪,千葉県・茨城県では湿雪と雨であった.倒壊した簡易構造物等の下敷きによる死亡事故,車内での一酸化炭素中毒による死亡事故,非住家建物被害,雪崩災害の発生地域の降水形態の特徴を調べた結果,災害の種類毎に乾雪割合(総降水量に対する乾雪の降水量の割合)が限られた範囲に収まるという特徴が見られ,災害の地域性・偏在性に降水形態の違いが大きく関与していることが分かった.
  • 松元 高峰, 河島 克久, 伊豫部 勉
    2015 年 77 巻 4 号 p. 327-337
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2014年2月14日から15日にかけて通過した南岸低気圧によりもたらされた大雪に際して,栃木県南西部の足尾山地東斜面では,広範囲にわたってスギの人工林に甚大な冠雪害が発生した.被害の多くは標高200〜650mの高度帯に集中しており,被害形態は「幹折れ」「幹梢端折れ」「幹曲がり」が多かった.冠雪害発生地域で14日の午後から降り出した雪は,15日に入ると降水強度が大きくなり,気温の上昇に伴って湿雪となった.湿雪として降った降水量は,場所により約100mmに達したと考えられる.冠雪によるスギの幹折れは15日未明から発生し始め,降雪のピークを迎えた午前中に幹折れもピークとなった.15日午前には栃木県の平野部で強い北風が吹いていたが,山間部での風速は平野部ほど強くなかった可能性がある.以上のことから,今回の冠雪害をもたらした最大の要因は,この地域に降った湿雪量の多さではないかと推測される.
  • 梨本 真, 飯田 有貴夫, 石井 孝, 小林 卓也, 竹内 享
    2015 年 77 巻 4 号 p. 339-349
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    富士山西面の滑沢では,2014年3月13日から14日にかけて大規模な雪崩が発生した.雪崩は7合目付近からスバルライン四合目駐車場(標高2040m)まで流下し,駐車場の施設を損壊するとともに,広い面積の植生被害を生じた.著者らのこれまでの調査によると,北西面の雪崩跡地(標高2220m)における2013/14年冬季の最大積雪深は少なくとも250cm以上で,1999/2000年冬季からの15年間では積雪の多い年であった.また,滑沢では1945年前後に大規模な雪崩が発生し,その後も小規模な雪崩がくり返し発生しており,雪崩の規模や頻度に応じた植物群落が分布している.今回の雪崩では1945年前後の雪崩跡地に再生していたカラマツ高木林の一部が破壊され,多くの幹折れと流木を生じた.一方,くり返し発生する雪崩に適応性のあるミヤマヤナギ,ミヤマハンノキ等の低木群落やダケカンバ匍匐林では幹や枝の損傷,倒伏などの被害が生じたが,枯死することはなく,旺盛に萌芽,再生していた.滑沢のような雪崩常襲地では,上記のような遷移初期相〜途中相の群落が長期間にわたって維持され,くり返し発生する雪崩が植生遷移の停滞を引き起こしていると考えられた.
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